偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ゾンゲリア

サスペリア」のヒットにより"Zombie2"という映画が惨劇+サスペリアで「サンゲリア」という邦題を付けられました。ルチオ・フルチによるケッ作です。
そして、そのサンゲリアとゾンビを組み合わせて作られたのがこの作品の邦題なのです

 

 

 

 

ゾンゲリア [Blu-ray]

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製作年:1981
監督:ゲイリー・シャーマン

脚本:ロナルド・シャセット、ダン・オバノン
出演:ジェームズ・ファレンティノ、メロディ・アンダーソン

☆3.8点

 

 

ゾンゲリア」(!)

この酷い邦題のせいでクソゾンビ映画にしか見えませんが、その実、本作は真面目に丁寧に作られた異色のホラーミステリ映画なのです。

 

物悲しい音楽をバックに、色彩の乏しい浜辺の映像が流れるオープニング。カメラマンが登場し、美女をフレームに入れると、彼女の服の赤が色の少ない画面に鮮烈に映えます。
やがて服を脱ぎはじめる美女に見入っていると、なんとカメラマンが村人たちに惨殺されてしまいます。衝撃的なこのオープニングからして、「お、ふざけたタイトルの割にハイセンスだぞ?」と期待させてくれます。

 

本編は、カメラマン殺害事件を追うこの村の保安官が主人公。
彼が事件を追う様子と、村人たちが殺人を犯していく様子が淡々と描かれていきます。
淡々としすぎて、ともすれば退屈になってしまいそうですが、ギリギリのラインでアンニュイだけど退屈ではない独特の雰囲気になっています。
というのも、主人公の側の捜査パートは単調な代わりに、殺人シーンは結構グロかったりするからで......。美人ナースの目ん玉お注射や顔面ドロドロなどなど、シリアスな作風なのにそこだけバカバカしいゴア描写がちょいちょい挟まれたら退屈はしないですよね。

グロ描写ではないですが、旅行中の一家が空き家で襲われるシーンもいかにもB級ホラーらしくて好きです。

また、個性的なキャラクターも魅力的で、特に死体修繕大好きな葬儀屋のドッブスと、冒頭に登場した怪しい村人代表の美女がいい味出してます。

 

後半で主人公が村で起きている奇妙な出来事に気付いていくところからは、いよいよ「何が起きているのか?」というミステリーとしての興味で引っ張ってくれます。
そう、実は村では死者が復活していたのです!(ここも驚きどころのはずなのに邦題のせいで「知ってたよ」としか思えませんね)。
ここで面白いのが、本作のゾンビは(いかにもな邦題に反して)半分腐ってたり人を食ったりしないところです。「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」以降の映画界ではゾンビ=人を食う という図式が一般化しましたが、それ以前の映画に出てくるゾンビはヴードゥーの魔力によって蘇った死者にすぎず、人を食べる設定はなかったようです。かく言う私も「ホワイトゾンビ」とか観たことないのではっきりしたことは言えませんが、こうしたゾンビの設定もこの作品の上品さに繋がっているかと思います。

 

そしてやはり特筆すべきはラストです。

全編に横溢していた退廃的な雰囲気がついに爆発し、世界が崩壊していくようなカタストロフに襲われます。なんてかっこつけた文章を書いてしまいましたが、こういう大仰な書き方が嫌じゃない人は楽しめるかと思います。

 

 

※以下本作、及び似たオチの某作の結末に触れるので観てない方、某作にピンと来ない方はご注意ください

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけで、そう、本作のオチは「主人公は実はゾンビだった」というものです。

 どうです。似てますでしょ、1999年の某作に。

 ただ、本作と某作を比べた場合、某作の方が明らかに伏線の貼り方が上手いです。某作のとあるシーンは真相を知ってから見ると上手すぎて鳥肌ものですが、本作には眼を見張るような伏線はなかったです。まぁ、後発の方が出来が良くなるのは妥当なことですが。

 

さて、本作について。

まず、村人の多くがゾンビであることについては、教師である主人公の妻・ジャネットが、授業の中で

「彼らは死んではいるけれど見事にいきてる人間の真似ができる」

 と言っているのが伏線っちゃ伏線ですね。

 主人公がゾンビであることについては、ゾンビを作っているドッブスが

「死人は教えたこと以外は忘れるゾンビなのだ」

と仄めかしています。

 

しかしこれらはどちらも台詞で取って付けたように説明しているだけ。その他に特に伏線らしいものが見当たらないのがちょっと惜しいかなと思ってしまいます。

 

とはいえ、フィルム上映でゾンビについて明かし、更にそのフィルムの続きで主人公がゾンビだと明かす演出はとてもカッコ良かったです。こんなスタイリッシュなネタバラシをしてくれれば細かいことはどうでもよくなってしまいますね。

 

というわけで邦題のクソさに合わないシリアスな野心作でした。周りの誰も、そして自分の記憶すらも信じられなくなるという恐怖が見事に描かれた傑作です。

 

ちなみに原題は"dead & buried"。観終わってから原題を見るとなかなか味わい深いです。