偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

万引き家族(2018)


治と息子の祥太は、スーパーでの万引きの帰りにネグレクトを受ける少女じゅりを連れ帰る。都心に建つ古い家で、治と妻の信代と祥太、信代の妹の亜紀は、祖母の初枝の年金や万引きで生計を立てていた。
やがてテレビでじゅりの行方不明が報じられるが、一家は彼女に「りん」と名付け、万引きを手伝わせることにし......。




監督が実際に起きた年金不正受給や子供に万引きを手伝わせた事件から着想を得て書いたという本作。
貧困をテーマにした社会派な作品であるのと同時に、小さな家に身を寄せ合う一家が貧しくも生身で生きている姿を描く人間ドラマでもあり、今更ですがめちゃくちゃ良かったです。


もう、とにかくキャストが今の日本映画では名実共に最高クラスの人たちばかり集められてます。要は超豪華キャストなんだけど、みんな演技派すぎてちゃんと社会の下層の人々に見えるから凄い。
樹木希林やリリーさんはもう言うまでもないですが、安藤サクラさんが個人的に初めて観たんですが超良かった。ある事情で職場の同僚と話し合うシーンや、最後の方の髪を掻き上げるシーンの抑えながら溢れ出しそうな情念の凄まじさ(そうめんのとこも凄い)......。あと松岡茉優も普段と変わらないように見えて微妙な哀しみのニュアンスを出してきてて凄いし、子役2人も可愛さだけで選ばれた素人とかじゃなくてちゃんと俳優だったし、柄本明さんはあんなチョイ役の出演なのに作中でも屈指の印象的な場面になってるから爪痕残しすぎ。あと高良健吾とか池脇千鶴とか主役級の人材がそれぞれあんだけの役ってのも贅沢だけど、おかげで重厚感が凄い。池脇千鶴はああいう役似合いすぎでしょ......。

内容はというと、まずは冒頭のスーパーでの万引きのシーンからしてキマってますもんね。日本人からすると微妙に「スーパーこんなんじゃねえよ」ってなる絶妙の異世界感で、既に雰囲気作られちゃう。
生々しいリアリティがありながら、どこか寓話のようでもある雰囲気とでも言いましょうか。その雰囲気が社会から見捨てられたような彼らの生活に合っていて結果すごくリアルに感じてしまいます。

また本作は全体のまとまりとかよりも一人一人の人物を生き生きと描くのに重きを置いてる気がします。だから話はやや散漫なんだけど、お風呂とかコロッケとかカップ麺とか海とか蝉とかの場面一つ一つがとにかく印象的で愛おしかったです。

普段生きてると「万引きは犯罪です!許せない!」と思っちゃいますが、そうやって自分と彼らの間に線を引いて断罪するのは恵まれた者の特権に過ぎないのではないか。Yahoo!ニュースの文字の上だけで社会のクズだと切り捨てた彼らだって血も涙もある人間なんだということを突きつけられます。それは別に擁護するとかいうことでもなく、自分に想像もつかないような事情がそれぞれあって、本作はその想像力を授けてくれるような素晴らしい作品だったということです。

また、社会的なテーマ以外にも根本的に「生きる」ということがテーマな気もして、学がなくても金がなくても何をしたって生きていこうとする彼らの生命力にシンプルに感動するし、その中で自分らも苦しいのに親に殺されそうな少女を助けたりする本能的な優しさも、法律を守るとかとはまた別の正しさなんじゃないかとか、色々考えさせられました。