偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

エゴイスト(2023)


14歳の時に母を失い、故郷の田舎の学校ではいじめられていたゲイの浩輔は、東京でファッション誌の編集者として成功して豊かな暮らしをしていた。そんなある日、浩輔はパーソナルトレーナーの龍太に出会い、2人はすぐに恋に落ちるが......。

凄かったっす......。観終わった直後もしんどかったし、その後も結構引きずってるけど、でも良い話だった......。

手持ちっぽいカメラワークや抑えた演技など、全体にかなりリアルさを追求して作られています。
そして、ゲイの描き方ももちろんリアルさが凄い。男同士のセックスがガッツリ映されていて最初はちょっと驚いてしまいましたが、なんかふわっと処理したりBLみたいにファンタジックにせずにあるがままを映している感じがしてとてもよかった。またゲイコミュニティについても私は当事者じゃないのでなんも知らんけど表も裏もしっかり描かれていたのでこういう感じなのか〜と凄く勉強になりました。オネエ言葉とかもギョーカイ人の浩輔の仲間達は結構ノリみたいな感じで使ってたりするけど庶民の龍太は使わないし浩輔も仲間との内輪ノリみたいちは使ってるけど素の部分では使ってなかったりするのが地味にめちゃくちゃリアリティが感じられました。
もちろん同性だからこその外で手を繋げなかったり(特に男だと)、親に言えなかったりする葛藤とかもさらっと描かれているし。
よく同性愛を描いた作品に対して「同性の恋愛を描いているけど性別とか関係なく云々」みたいなことが言われますが、そうやって簒奪させずに「男同士で恋してるが悪いか?」くらいの姿勢を打ち出しているのが素晴らしい。
こういった作品がそれなりに名の知られたキャストでシネコンでも掛かるくらいの規模で作られるというのが凄く良いことだと思います。

ストーリーはかなりシンプルですが、境遇の全く違う2人の関係が丹念に描かれていく前半から、急展開して後半への2部構成のようになっていて、常に緊張感が漂っていて良かったです。また浩輔のモノローグはあるものの全体に言葉による説明が少なく表情の演技も淡々としているため彼らがどういう気持ちなのかが分からないところも緊張感がありましたね。
タイトルの「エゴイスト」という言葉の意味も作中では明示されないがゆえに常に頭の片隅に居座って愛とエゴについて問いかけてくるかのようです。なんせ、言ってしまえば金持ちと貧乏人の恋なので、2人の間にはカネが横たわり、上下の関係が出来てしまうわけですから......。

とはいえ強烈なタイトルに反して2人ともいい奴なので観ているうちにどんどん好きになってしまいます。
鈴木亮平演じる浩輔はイジメられた過去を持ちながら自身の努力で金と筋肉を手に入れた男。鈴木亮平の出てる作品って実は見たことないんだけど、変態仮面のイメージが強すぎてこんなに演技上手い人だったんだと驚きました笑。
一方宮沢氷魚も見たことないんだけど、めちゃくちゃ良かった。彼が演じる龍太は母子家庭で病気がちな母親のためにパーソナルトレーナーの他にも仕事を掛け持ちする努力家の青年(そして可愛すぎてきゅんきゅんしちゃった......)。
対象的なようでいてストイックなところは似ているところもあるからこそ惹かれあったのかなとか色々考えるとまたつらくなってきちゃいますね......。
あと、阿川佐和子さんも本屋で名前を見たことはあるけど読んだことはないし、ましてや映画とか出るんだってことも知らなかったけどめちゃくちゃ良かったし、柄本明はほんとチョイ役でも主役に負けないくらいの爪痕を残していくのですごい(直近で万引き家族も観たので)。

あんまり書けないけど後半の自販機のシーンとか「うわっ」って思ったし、「愛とは何だかわかりません」みたいなセリフとそれに対する答えにも泣きそうになったし、結構引きずって入るけど後味が悪いわけではなく、むしろ心が洗われるようですらあり、ドラマチックな場面とかはないのに一つ一つの出来事が思い出として自分の中にも残るようなところがあり、誘われて観に行っただけだったけど予想外に刺さってしまいました。

以下ネタバレ。










































































































車が届いたけど龍太が来なくて......というところはあらすじ読んで知ってたけど、てっきり親バレして会えなくなったとかだと思ってたので衝撃でした。
最愛の人を失うこと自体がもちろん途轍もなく悲しいことではありますが、結婚出来ていれば遺族として周囲に認められるところが、実際には2人の関係すら公には出来ないというのが悲しすぎる。それでもオカンが理解あって良かった......。
からの、オカンとの緊張感溢れるやりとりで、これまたてっきりサイコスリラーみたいな感じになるのかと思ったら最後までいい話でびっくりした。お金の押し付け合いのところとかかなり怖かったからなぁ......。
しかしオカンと浩輔の2人が龍太を介して失った者同士の関係性を模索しながら寄り添って生きる姿にはまた泣きそうになる。
自販機で小銭落として龍太のことを思い出して泣くシーンのあの泣き方がまたもらい泣きしそうになる。すごい。
浩輔が「僕のわがままです」と言いながらお金を押し付けるのも、オカンの最後の「帰らないで」もエゴなのかもしれないけど、それを愛として受け取り合うのが美しい。タイトルからもっと嫌ぁな感じだと思っていたのでギャップで泣かされました。