偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

アレン・エスケンス『過ちの雨が止む』感想

ドラマ要素の強いサスペンスの書き手として個人的に激推ししてるエスケンスの邦訳最新作。
『償いの雪が降る』の続編で、ジョーやライラたちのその後を描いた作品です。



AP通信社に勤めるジョーだったが、仕事のトラブルに巻き込まれ、ライラとの関係も悪化してしまう。
そんな中、自分と同名の男"ジョー・タルバート"がとある田舎町で殺されたことを知る。死んだ男が自分を捨てた父親なのではないかと考えたジョーは、彼の暮らしていた町へ向かうが......。


というわけで今回も面白かったです。
前作では学生のジョーが難儀な恋と家族の問題に直面しながら1人の死刑囚が起こしたとされる事件に向き合う物語でしたが、本作の舞台はその数年後。

今や憧れのライラと同棲してAP通信社で働くモテ野郎と化してしまったジョーにどうやって感情移入すれば良いのか......と思いながらも読んでいくうちにどんどん彼に同化させられてしまったのは流石としか言えません。
あるいは私も彼と同じく短気でプライドが高いから共感しやすいのかもしれないけど、それを差し引いても読者を惹きつける語りの魅力が抜群です。

ミステリとしては父親らしき男の死の真相および、その背景となる町に渦巻く秘密や嘘を暴いていくものとなっていて、複雑な思惑の絡み合いが楽しめます。

一方青春小説・人間ドラマとしては、ジョーをはじめ登場人物たちの「過ち」がテーマ。
タイトル通り、"過ちの雨"を止ませるために後悔しながら進んでいくかれらの姿に胸を打たれます。

そして、ミステリとしての手掛かりと、人間ドラマとしての動きが交互に読者に投げ与えられることでノンストップで読み進められるリーダビリティが生まれているのがエンタメとして上手すぎます。
特に新ヒロイン(?)のヴィッキーの魅力がエグすぎる。バイクに乗せてくれるバーテンの女の子ですからね。しかも俺のことが好きな。それはもう惹かれちゃうよねってのは分かります。
そう、"過ちの雨"の中でもジョーの過ちはマジでクソではあるんだけど、そこに共感できてしまうように描かれてるのがリアルで上手い。私もこの状況ならこうなってるだろうな、と思わされるんですよね。怖い。

そして前作から引き継がれる母親との因縁の決着についても非常に印象深いです。
その辺も含めて読み終えてみて、色んな意味で邦題が沁みてくるので、原題とは変えてあるっぽいけど良いタイトルだなと思います。

正直個人的には前作より好きなくらいなので、前から好きだったけど今作でますますファンになってしまいました。
エスケンスの現時点での最新作では、本作でも触れられたライラの過去が絡んでくるらしく、次なる邦訳も楽しみに待ちたいと思います。


以下ネタバレで少しだけ。


































































「彼女いるって言えよ!」というだけの話ではありますが、ジョーの視点から読むとライラの仕打ちは酷いものに思えるし、そんな時にあんな魅力的な女の子におっぱいチラ見せされたらもうコロッといっちゃうに決まってる。ジョーはなんも悪くない。

母親の更生に関してはかなり印象的でしたね。個人的に散々人に迷惑をかけた人間が更生して後悔してますみたいなまともなことを言うのが嫌いではあるんですが、本作はこの辺の描き方も真摯だったので最終的にはけっこうグッときてしまいました。

他所からやってきて町の人間関係を引っ掻き回すという嫌な名探偵しぐさをジョーががっつりやるのには笑いますが、その引っ掻き回しから『過ちの雨が止む』というテーマに建て直すあたりが上手いと思います。