偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

indigo la End『藍色ミュージック』の感想だよ

2枚目と4枚目を書いたんだからということで、今回はindigo la Endの3枚目のフルアルバム『藍色ミュージック』の感想だよ。もう私はメジャーデビュー以降のindigoのアルバムの感想を書くのをライフワークにしますよ。



さて、本作がリリースされた時まず衝撃的だったのはアルバムタイトルですね。『藍色ミュージック』、つまりはindigoの音楽という、ほぼセルフタイトルアルバムと言ってもいいタイトルですから。さらに曲目を見れば一曲目とラスト曲がそれぞれ「藍色好きさ」「インディゴラブストーリー」という"インディゴ"推し!これにはスピッツファンとしても嬉しくなっちゃいます。

また、本作からドラムの佐藤栄太郎が加入して、現在のindigoメンバーが揃った作品ということにもなります。
川谷絵音も色んなところのインタビューで後鳥氏のベースと佐藤氏のドラムを絶賛しているので、最高のメンバーが揃いましたよという宣言の意味での疑似セルフタイトルでもあるんでしょうね。

内容としても、「失恋」をテーマにした前作の流れを組みつつ、もう1つ「命」という、より根源的なテーマを表現することに挑んだ野心作/問題作になっています。
そして、2つのテーマが最後まで聴くと渾然一体となって生きることとは、愛することであり失うことでありいつか死ぬことというテーマとして合流して迫ってくるのが凄えです。
その点では、『藍色ミュージック』とは、切なさや虚しさを孕みながら、それでも動き続ける心臓の鼓動のことなのかもしれません。「ココロネ」(心音)という歌も入ってますしね。

川谷絵音の普段のアルバムには、インディゴでもゲスでも幕間としてポエトリーディングの曲が入っていることが多いです。しかし、本作は幕間っぽい「シノブ」「風詠む季節」の2曲も、落ち着いたピアノ弾き語り風ですが、がっつり「いい歌」。そのためかアルバム全体に良い意味での(=詞の内容に即した)重さがあるのも特徴的です。単純に曲数も多いし。

あと、これは単に私の妄想ですが、収録された14曲が1曲目と14曲目、2曲目と13曲目、という風に線対称の形で対になっているようにも見えます。
1と14はどちらもタイトルがインディゴだし、2と13は雨、3と12はセックス、5と10はしっとり弾き語り風、みたいな。
もちろんうまく噛み合わないとこもあるし牽強付会に過ぎないとは思いますが、なんとなーく前半のテーマが反転して後半でリフレインしているようなところにも、アルバム全体の統一感を感じるわけです。


っつーわけで、本作は歌謡曲やJ POPとしての前作から音も詩もより深遠なところへと踏み出した一歩目の名盤になってます。

ちなみに、どうでもいいですけど歌詞カードの最後のスペシャルサンクスに「ありとあらゆるラーメン」と書いてあるのがめちゃ気になります。ラーメン食いながら歌詞書いたのかな。

では、以下全曲感想をば。




1.藍色好きさ

前作の一曲目の入りは加入したてのベースをフィーチャーしていたように、本作の一曲目であるこの曲は加入したてのドラムをフィーチャーしてます。
イントロのシンプルなドラムとギターのスピード感がいきなり切なさをこう、、、ぐわーっと、、切ないんです!(語彙)

歌詞の内容としては、

君が好きだってこと以外はこの際どうだっていい

と、真っ直ぐなラブソングなのですが、続いて

藍色になった君が好きなんだ

と来るのが味噌ですね。
藍色ってどう考えても明るいイメージより切なかったり冷たいようなイメージが強いですよね。そうすると、僕への気持ちがもう冷めてしまったということでしょうか?
ただ、その後

藍色になって迎えに行くよ

と、僕も藍色になるぜという流れになるのが一筋縄では行きません。私の経験則からの考えでは、これはそのまま「僕も恋愛感情を冷ましたい」という風に解釈してもいいんじゃないかな、と。
だってあれですよね、別れた2人が一番会いづらい状況って、片方だけが未練タラタラな時ですから。お互いに冷めてしまって友達に戻ればまた会うことも出来る。それなら自分のこの気持ちを冷ましてでも君を迎えにいきたい......とか言ってる時点で冷めてないんだけどね(。・ ω<)ゞてへぺろ♡みたいな恋愛感情の複雑な矛盾を言語化した歌なのかなぁ、と思いました。まぁ厳密じゃない部分的な解釈なので作者の意図には合っていないと思いますが。




2.雫に恋して

「忘れて花束」と両A面でシングルリリースされた曲です。『雫に恋して/忘れて花束』ってめちゃくちゃ美しいシングルタイトルでしたね、はい。
そんな美しいタイトルのイメージ通り、「夜汽車は走る」「瞳に映らない」あたりに連なる、歌詞から映画を一本撮れそうな歌謡曲になってます。インディゴのシングルのテッパンと言えるかもしれません。
ただ、音的にはかなり大人っぽくなってるというか、これまでのポップロックからオシャレミュージックに変化した感じがしますね。これまでの曲も好きだからこれを「進化」とは言いませんが、メンバーが強くなってる感は凄くあります。
優しいギターイントロから、かなりシンプルな演奏が続いて聴いてて疲れないです。が、三回のサビの後でそれぞれベース、ギター、ドラムがフィーチャーされて曲自体がメンバー紹介みたいになってるという遊び心もあってシンプルにして飽きない、素晴らしい音楽です。

また、この曲は歌詞もシンプルで、要するに主人公が泣きながらうろうろしてるだけの話です。

ざらしの古いバス停で
行き交うモノクロ街を眺めてる
今の私はどんな顔してるの

と、お得意の情景描写による掴みはバッチリで、そこからBメロでは

ただただあなたに恋をしてた
(略)
片時も忘れずにあなたを思い出しては落ちる 雫に恋して

と、心理描写に移りながらサビ前でタイトルコールをするという完璧なポップさ!!
この曲の歌詞の中には「涙」という言葉は使われておらず、「雫」で統一されています。私みたいなひねくれ者からすると「自分の涙を良いように言いやがってナルシかよ!」と思ってしまいます。
が、恋愛ってのは自分の気持ちに浸るものでありますからして、恋愛系の歌詞ってこういうちょっと自分に酔ってる風なものの方が共感できるんですよね。そしてインディゴの歌詞はだいたいそんな感じだからここまでハマってしまったんでしょう。

閑話休題。この曲の歌詞はこうしたシンプルな内容です。
「主人公が元カレ的な人のことを思って雨の夜に泣いている」こと以外の詳しい情報は明示されておらず、ただ情景描写だけが続きます。
しかし、「また思い出す あの光景を」のように、2人の恋を想像させるキーワードは配置されているので、歌われている情景の中に、リスナーひとりひとりが自分を投影しやすい作りになっているわけです。
だから曲の内容自体については実は特に言うこともないのですが、共感性を最大限まで高めてきたシングル曲及びアルバム二曲目らしいキャッチーな名曲です。




3.ココロネ

生きていくこと、愛し合うこと、命をつなぐことという、このアルバムから新たなテーマに据えられた『命』について歌ったアルバム全体を読み解くキーとなる一曲です。

音はダフト・パンクっぽさのある、さらに言えばこれまでなら絶対ゲスの極み乙女の方でやりそうな感じのダンスミュージックになっていて初めて聞いた時は驚きました。そもそも私は昔からダフト・パンク結構好きでよく聴いてたんですけど、音は最高だけど歌詞が英語で分からないからめちゃくちゃハマるということもなかったんですよね(洋楽に対してはだいたいそうなる。こないだ川谷絵音が「洋楽も聴かず嫌いしないで」と言ってたので反省しましたが......)。
でも、ダフト・パンクさん音は最高だから、もしもこういう音で日本語の素敵な歌詞が付いてたらめちゃくちゃハマっちゃうのになぁ......と思っちゃう、そのもしもがこの曲です。

歌詞については前に(『Crying End Roll』の感想でも書きましたが、ストレートに死とセックスについての歌。
「いつか死ぬ時まで苦しみ続けるだけの人生になんの意味があるの?」
「生きるのは苦しいから命の連鎖は断つべきじゃないの?」
という問題提起をして、それに対して消極的で諦念さえ交えつつ、しかし真摯でただ1つしかない答えを見出した、セックスの効能についての歌なんですよね。

この曲の歌詞の中では一人称が使われていません。インディゴの曲って大抵は「僕」とか「私」が独白する物語のような歌詞になっているので、こういう語り口は珍しい気がします。
これによって、個人の情念を超えた普遍的なものとして、絶望的な悲しみと唯一つの小さな救いが描き出されています。
この曲が前半に入っていることで、このアルバムのすべての曲の悲しさに普遍的な説得力が付されているように思います。

そして抱きしめ合えたら救われる
先に意味を持たせなくても 安らぐ心があるだけで他に何もいらないはずさ

その"先"が「シノブ」や「風詠む季節」に繋がっているようにも読めます。
また、後半の「ダンスが続けば」「インディゴラブストーリー」もこの曲と呼応して聴こえます。まさに色んな意味でアルバムのキーとなる曲なんじゃないかな。




4.愛の逆流

indigoイントロが好きな曲選手権大会本戦出場選手です。他の本戦出場者は「X day」「花をひとつかみ」「プレイバック」あたりですね。
"逆流"というタイトルに合わせて、排水溝が詰まって逆流してくるようなベースの音からはじまります(比喩が下手すぎる)。

歌詞の構成としては、川谷絵音お得意の最初に具体的な映像を描いてそこから内面に潜っていくパターン。

まず最初に歌われる二人の付き合い始めた馴れ初めのお話が良いんですよね。告白するシーンのみが短く語られているだけなのに、不器用な男の子と猫っぽい女の子の姿が鮮明に思い浮かび、二人がどんな感じで付き合っていたかまで想像できちゃいます。すごい。
そして、そのシーンの後にすかさず

戻れたら戻るけどそうはいかないから
あなたならわかるでしょ もうやめて

と、一気に不穏な方向へ持っていかれるので、ぐわーっと思います。
そしてこれ以降、相手からの未練を受けながらももう戻らないと主人公が歌い続けるわけで、それを端的に表した1サビ後の

でも愛は逆流しないだろう

という言葉が象徴的です。
愛を川の流れに喩えることで、その不可逆性を印象付ける見事な歌詞だと思います。
さらに最後の最後も絶望的なフレーズで締めているので、第一印象はまぁ暗い曲やなぁという感じでした。


しかし、曲中には

隔たりは矛盾して互いの声を届け合う

というフレーズがあります。なーんだかこの曲の中でこの部分、「届け合う」という言い回しだけがちょっと希望の見える雰囲気にも思えるんですよね。
そう考えると「でも愛は逆流しないだろう」も、「だろう」と言いつつそれでもしてほしい、という逆の気持ちを歌っているようにも取れます。
まぁ、愛なんて時や水の流れに比べればまだ可逆な気もしますからねぇ。なんともどう受け取っていいのか悩む歌ですが、ともあれ、愛は逆流しないというフレーズが強烈で、そこから反対に逆流してほしいという切ない気持ちも呼び起こされる深い曲ですね、はい。





5.シノブ

ここで弾き語り風の幕間に当たるこの曲です。
短い曲ですが、川谷絵音による男性目線の歌の中に、ワンフレーズだけコーラス隊による女性目線の歌が挿入されています。
順番的にはおかしいですがまずはこの女性の歌の部分を見てみましょう。

考え事をしていたら私はもう掴まれていた
命を抱えて立ち上がる
膨らむ声を想像していたら
後ろに愛を感じました

と、そう、ここではっきりと彼女が子供を身篭っていることが分かります(たぶん)。
後ろに感じた愛とは、自らの母性か、子供の父親からのものか、それとももっと大きな何かか......または全部かも知れませんが、とにかく、日常の中でふと、そのことを実感した瞬間を描いているのでしょう。私は子供いないからよく分かりませんけどね。はは。

さて、そうすると、男性パートの部分も読み解きやすくなります。
冒頭の歌詞の、「誰かに見逃されながら命を磨いた」「心の部屋に入り込んでは 気づかれないように息をした」という部分は孤独の閉塞感を、そして「愛し愛され 僕らは もっと深く息をつく」というところで、愛し合うことで心の部屋の壁が崩壊して風通しがよくなった感覚になります。

そして、最後で

隔たりを壊したこの命を 僕らは守れるなんてこと 言い切らないとかっこ悪い ただそれだけの話です

とあるように、新しい命を守ろう、守ると言おう、という決意を等身大に歌った、それだけの歌です。それだけなのが泣けるんです。
ここで「隔たり」という言葉が出てくるのは、コンドームを「隔たり」と表現したMr.Childrenの「隔たり」という曲を連想させます。川谷絵音ミスチルファンらしいので、もしかしたらミスチルの「隔たり」の続編のような気持ちで書いたのかな......?なんて想像もしてしまいます。
また、前の曲「愛の逆流」にも「隔たり」といワードが出てくるので、それも踏まえているのだろうと思います。




6.悲しくなる前に

ドラムの佐藤栄太郎がインディゴに正式加入して、初めて出されたシングルの表題曲がこちら。
新メンバーのお披露目をするかのように、加入初楽曲からもう容赦なくドラムの見せ場だらけの曲になってます。なんせ曲を再生して一番最初に耳に入る音がイントロのずちゃずちゃずちゃずちゃというドラムの音。
しかも、アルバムで聴くと「シノブ」の余韻をぶち壊すようなドラムの入り方なのでまた一層インパクトがあります。ここの繋ぎ、良いなぁ。
で、凄いのはAメロに入ってからで、この辺はもうドラムの音だけ聴いてると気が狂いそうになります。カッコよすぎる。

歌詞に関しては、アップテンポな演奏と

悲しくなる前に あなたを忘れちゃわないと
無理なのわかってるの と夜更けに向かって走った

というサビが象徴するように、公式の言葉を借りれば「喪失と疾走」というテーマで描かれています。
歌詞の中に具体的な表現は少なく、全編に渡って失うことに耐えられない心情が歌われていますが、面白いのはこの曲の歌詞が、シングルの時のB面曲「渇き」と対になっていること。女性目線のこの曲に対し、「渇き」の方は男性目線で、

「夜更けに向かって走った」⇔「君が切なさを纏って走り去っていくのを見て立ち尽くした」
「抉るような声でまた呼びかけてよ」⇔「喉が擦り切れるくらい叫んだ」

というようにモチーフとなる動作がリンクしていたりして、一つのカップルの終わりを男女それぞれから描いたようになってるんですよね。
というわけで、2曲一緒に聞くとまた違った感慨が湧きますが、もちろんこの曲だけでも泣きながら走るタイプの切なさを味わえるつらみの強い曲です。でもカッケェ。Yeah。




7.忘れて花束

テレテッテー テッテー テーテーテーという短くも印象的なフレーズから始まるこの曲は、「雫に恋して」と両A面シングルとして発売された曲ですが、「悲しくなる前に」の潔いアウトロの後でこの潔いイントロが流れるのもまたカッコイイです。

この曲も1ABメロあたりで情景が描かれそこから内省的になっていくコーナー。
それにつれて演奏も一番より二番の方が、さらに大サビの方がとどんどん激しくなっていって切なさを増していく歌詞に呼応してるのが良いっす。

>>あなたを愛そうとした時から
離れようとする心に気付いて<<

>>私は愛したいはずなのに
あなたは愛されたいわけじゃない<<

>>あなたが愛そうとしてた時に
心を向けてたら 気付いてたら
叫んで言葉を拾う<<

と、愛の方向についてなかなかややこしいことになってますが、こういうハタから見たらどーゆーことやねんという微妙な距離感というのが恋愛の全て。花束や窓といった歌謡曲的小道具を使いながら端的にそれを描き切った名曲と言えるでしょう。

>>「忘れて」って言おうとしたあなたの顔を思い出そうとしても
何故か忘れたいなんて思わないの<<

そうよね、あたしもそう思うの。




8.eye

冒頭の「初めて見た世界」という歌詞に引きずられているかもしれませんが、生まれる前のような、水の中に浮かぶような印象の、深く懐かしく、どこか恐ろしさもある音色のイントロ。
その恐ろしさはいきなり裏声の歌、またラララだけのサビからも漂ってきます。サビがラララだけで不穏な怖さといえばスピッツの「水色の街」なんかも連想し、水のイメージもそこにも繋がる気が。
一方で「ヨボヨボのおじいさん」というのは死の象徴でしょうか。人は生まれながらにして死を内包している、みたいな話かな。

そして、2番ではうだうだと寝る前に考えてることを語るようなポエトリーディングの形で

でもさ 続いてくし続いちゃうから
何かが待ってるとか待ってないとか関係なく
僕は生きていくんだろうな

と、希望でも絶望でもなく、強いて言えばやや諦念を交えながら他人事のように、しかし生きていくことを宣言しています。
そして、最後には

意外とさ 自由なんだよみんな

と、全然押し付けがましくないけどなんとなく応援ソングみたいですらある結論に至ります。
不穏なようでいて、明るいようでもあり、なんてことない独り言みたいでもある、不思議な曲です。アルバムの真ん中でひとまずこうして生きることを肯定しているのも「命」というテーマを考えると納得ではあります。




9.夏夜のマジック

不穏さのある前曲から一転して、めちゃくちゃ切ないけどその切なさの中に「君」への想いの暖かさも感じられる超名曲です。

この曲に関しても「ココロネ」同様リミックスが収録された次作『Crying End Roll』の感想でも触れていますが、改めて。

まず、この曲はシングル『悲しくなる前に』の3曲目として収録されていた曲で、indigo la Endにとって初となるブラックミュージック調の曲でもあります。
リミックス版はピアノの音が気持ちよくインストっぽく聴けるアレンジでしたが、原曲は歌を前面に押し出しつつゆったりと左右にゆらゆら揺れちゃうリズムと間奏に顕著な歌うような長田さんのギターフレーズの良さもまたビンビンでコーラスも最高やしなんかもう最高!!(個人的にindigo la Endの曲で一番好きなもののうちの一つです)。

切なくも暖かいメロディやサウンドと同じく、歌詞にも君のいない喪失感と、しかし君の思い出を大切に思い返す暖かさが溢れています。

記憶に蓋をするのは勿体無いよ
時間が流れて少しは綺麗な言葉になって
夏になると思い出す別れの歌も 今なら僕を救う気がする

という部分にはどことなく死別の歌なのかなという感じもあります。なんというか、普通の失恋の歌ならもっと『幸せが溢れたら』の収録曲のような激しさとか過剰な耽美さがあるような気がして。それがこの曲は悲しみすらありのままに受け入れる諦念のようなものがある気がして、それは普通の失恋では辿り着けない感情なのではないか、なんて思ったり。
個人的には醜い失恋しかしたことがないので、こういう美しい曲に対しては一種の羨望のような気持ちを覚えてしまったりもして、好きでしかないんですよね......。




10.風詠む季節

「シノブ」と同じく、弾き語りではないけど雰囲気的にはピアノ弾き語りっぽさの強い幕間的な一曲。

手紙を書いたあの日には 今日が来るなんて思ってなかった

というフレーズから歌が始まります。
「今日」という日が何か特別な1日であることを最初に匂わせつつ、その理由はもう少し先にならないと分からない......いや、正確には、曲の中で「今日」が何の日なのかは明言されず、聴く側に「たぶんそうだよな」と想像させるに留めています。でも自分で「たぶんそうだよな」と気付くことで私はまだ未体験なのに、まるで自分のことのように入り込んで嬉し泣きでもしそうになりながら聴けるんです。

......そう、この曲は、(私の解釈では)ウェディングソング。今日、というのはおそらくプロポーズをした日のことなのでしょう。と思います。
「手紙を書いたあの日」というのは、きっと付き合い始めたその日。結婚という人生最大のイベントを前にして出会ったあの日から今日までの日々を想う歌なんですねぇ。こんなん泣くじゃん。泣いたよ、私は。

で、凄いのが、「どこが好きかと聞かれて横顔と答えたら怒られた」という実際のエピソードや、「選ぶ権利は僕にないとか冗談も言わないでね」という「君が言いそうなこと」の描写からなんとなく「君」という女性のちょっと強気な性格が見えてくるところなんですよね。一方、「僕」は手紙で告白するようないわゆるちょっと女々しい感じで、人物描写がすごくリアルに感じます。
でも、「恥ずかしそうにしながらしょうがないと言う」君の横顔を眺めている僕と言う光景からは、2人のまた違った面も見えてきたりして......。うん、めちゃくちゃリアル。こういうディテールの描写のうまさはさすが現代の恋愛マスター・川谷絵音です。

そして、2番の終わりくらいまでは弾き語り風のほぼピアノのシンプルな演奏だったのが、Cメロで一気にバンドサウンドになって幸せが溢れる気持ちを表現し、最後のサビの「もう離さないなんて」のところでピアノの鍵盤を手で撫ぜるピューンって音(よく聴くやつだけど技法の名前が分からん)でさらに眩しいほどの多幸感を、そして最後のコーラスでダメ押しのようにエモーションの嵐を巻き起こす......。
冒頭の静けさから、思えば遠くに来たもんだなぁというサウンドの盛り上がりが、そのまま付き合い始めた頃からここまで来た僕と君の姿に重なって、私の目からも雫が溢れ落ちますよね。はぁ、好き......。この曲大好きなんです!!!結婚式で流す!!!

ちなみに、「涙が止まらなくなった キラリと光る溢れた温度を〜」というところはもちろんスピッツの「涙がキラリ⭐️」へのオマージュでしょう(?)




11.music A

さて、エモ散らかした後のマイ・エモーションをクールダウンさせてくれる、「ダンスが続けば」のイントロ的な役割のエレクトロチューン。
まさかゲスならともかくインディゴでこんなエレクトロな曲が出てくるとは思いませんでしたが、しかし雰囲気は完全に藍色。こんな曲でもゲスではなくインディゴでしかないのが凄いです。

歌詞は、

惹きつけられた理想のミュージック
歌ってよ 歌ってよ

だけなのですが、後ろでどうやら「ミュージック・スタート/ストップ・ミュージック」みたいなことを言ってる気がします。あるいはスタートだけかな?なんせ裏声だから聞き取りづらくて。

で、このmusic Aってのはたぶんですけど、藍色のAってのもあるし、「通行人A」みたいなニュアンスの、とある音楽をやってますみたいな、そういう自然体宣言のようなものなのかなとも思います。だから言い換えれば「a music」でもありそうな。




12.ダンスが続けば

で、からのこの曲。
エレクトロ感はないものの、タイトルそのまま踊れるところはmusic Aから続いてる感じがあります。
ただ、踊れるとは言っても

幸せは当たり前に踊ることさ 一度きりじゃなく

というサビのフレーズは、イケイケなダンスではなく、生活感のある比喩としてのダンス。それに合わせてサウンドもどこか郷愁や暖かさやそれこそ生活の臭いを感じさせる音になってます。

とはいえ、そこはインディゴですから生活感はありつつめちゃくちゃカッコいいんすけどね。
もう、イントロからして、全ての音が気持ち良い。入りの一瞬のギターの音も良いし、何よりベースのスラップの仕方がエゲツなく好きです。インディゴの曲はスラップベース多いけど、スラップの入り方が一番気持ちいいのはこれだと個人的には思います。
あと、サビの「ダンスダンスえ〜え〜〜」みたいなコーラスも最高。あと、間奏のジャッジャッっていうキメと歌うようなギターソロも最高。というかもうなにもかも最高やんけ!
というわけで、インディゴの曲の中でも、1番を決めるのは無理だけど、10曲選ぶなら入るくらいに好きなんです......。

で、歌詞の方はというと、上には生活感と書きましたが、恐らくここで言うダンスってのはセックスのことだと思います。
明かりを消してダンスダンスダンスなんて言われたらそりゃもう、そう思っちゃいますよね。
で、「ココロネ」のところでちょっと書きましたが、「そして抱きしめ合えたら救われる」の実践編がこの曲とも言えるでしょう。
また、「一度きりじゃなく」というのは、いわゆるワンナイトとかセフレとかではなくっていうニュアンスで、それは「風詠む季節」で結婚した2人のその後の生活、という風にも読めます。あるいは、「シノブ」の前日譚のようでもあり......とまぁ、ココロネとこの曲とを軸にしてアルバム全体を生と性の意味というテーマが乱反射していくようなイメージがあります。
そして、アルバムはクライマックスへ......。




13.心雨

はい、これですよ。
おっそろしく美しいメロディとおっそろしく切ない歌詞。indigo la Endというバンドと川谷絵音というミュージシャンの凄さが端的に現れた名曲です。
また、この曲は5枚目のシングルとして発表されましたが、1枚目の「瞳に映らない」から連なるシングル曲群に通底する歌謡ロック路線の集大成のような曲でもあるかと思います。

ゆったりしたテンポで、派手なアレンジもないですが、しかしピアノとギターの音がシンプルに良すぎる。刺さります。

そして、なんといっても歌詞。

ごめんね、あなただけ
1人にさせてしまうかもしれない
左心房の炎が少しずつ消えかけてるの

という衝撃的なカミングアウトから始まる、死を目の前にした女性から恋人への歌なんです。
......もう、語ることなんてないですよね。ただただ切ない。
「あなたの触れた温度が 消えてゆく」ってとことか、ズルいよね。

で、私の中ではこの曲の後に「夏夜のマジック」で"あなた"が"私"のことを回想してるんですよね、実は。
そこまで関連させて作ったわけでもないでしょうが、なんというか、そうだったらいいなという、そんな気持ちになるんです......。そうしたら少しは救われるかなっていう。




14.インディゴラブストーリー

はい、心雨の余韻も冷めやらぬ中、ギターのジャコジャコいうリフの印象的な音で始まる最後のナンバーです。
タイトルを見たときには、インディゴらしい失恋ソングの集大成みたいなイメージをしていたんですけど、聴いてみたらまさかのそっち!?みたいな驚きのあった曲ですね。

まだ分かりやすい歌詞の曲が多かったこのアルバムですが、この曲は100回くらい聴いてるけど歌詞の全体像はなかなか見えてこず、次作『Crying End Roll』に通じる難解さがあると思います。

ただ、

切り取った一部の悲しみ
それをまだ知らずに生きる子供たち

愛し合う術を見て 小さな命を知る
それだけのことを 幸せに続けれたら

というところは、「ココロネ」や「ダンスが続けば」のテーマを再演しているようでもあり......。

そして、最後の「それくらいは 幸せであってほしい」というのが、もはや願望の形で結論というには消極的ですが、しかし切実なこのアルバム全体の答え、なのでしょう。

また、切り取った悲しみ、というのは、このアルバムのこれまでの1曲1曲のことを指しているようでもあり......。
長い長いアウトロのカッコよくも生き急ぐようなリフの音を聴き終えたその後の無音の中で、これまでの13曲の余韻が走馬灯のように駆け巡り、「アルバム」という表現形態が、フィジカルな"盤"というものが消えゆく現代にもまだ生きていることを教えてくれます。





というわけで、いわばセルフタイトルアルバムとも言える、『藍色ミュージック』の感想でした。
改めて聴くと音的な曲と曲がアルバム全体を通して流れるように繋がりつつ、歌詞を見ると一直線ではなくあちこちに乱反射しながら曲同士の関連が浮かび上がってきたりと、何度聴いても一枚通して楽しめる傑作ですよ。
例によって長くなってしまいましたが、まぁ一言でまとめるなら、名盤です。