偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

國分功一郎『哲学の先生と人生の話をしよう』感想

『暇と退屈の倫理学』が面白かったので國分先生の人生相談の本を買ってみました。めちゃくちゃ面白かった!


元々はメルマガで週一で一年近くにわたって連載された34の相談と回答をまとめた本です。
寄せられる相談は恋愛や家族、職場での人間関係に関するものが多く(まぁ悩み事なんてだいたいそんなもんっすよね)、「マスターベーションばかりしてしまいます」「復讐心が抑えられません」などの「むむむっ!?」となるものもあり、目次の相談内容を見てるだけでも「國分先生どう答えるんだろう」とワクワクします。

答え方の特徴として、相談文の行間や言葉尻から書かれていないこと、わざと言い落としていること、相談者も気づいていないことなどを読み解いていくスタイルになってます。
あとがきでは著者自ら「哲学書を読むように」と書いていますが、私は安楽椅子探偵っぽいなと思いました。話を聞いただけの事件(相談)を、話の内容を精査していって解決に導くところの着眼点や論理の立て方の面白さは短編ミステリのようでもあり、ミステリファンの方にお勧めしたい1冊です。

そうやって最初はざっくりとしていた相談内容を、相談者の個人的な体験のレベルまで解像度を上げて見ていき、その悩みの源泉を突き止めていきます。
深刻な悩みに関しては慎重に、優しく、真摯に、また相談者にも問題がありそうな時にはかなり辛辣に、そこまで言わんといたって!ってくらい鋭い刃を突き付けたり、回答のトーンも相手によって変えているのも面白ポイントですね。これだけの相談文からここまで内面を読み取られてしまうのは怖すぎて、私は絶対応募したくないなと思いました。

また、哲学の先生だから各回で哲学の考え方の講義をしつつ回答したりしてるんですけど、それだけではなくAV監督の本やレトロゲームなどの話題も出てきます。そうした哲学を中心にしつつそれ限らない参考図書が各回の最後に載っているので、ブックガイドとしても使える本になっています。

相談の解決の仕方に関しては「誰かに話をしろ」みたいな普遍的なことなんですね。だから知らない誰かの個人的な悩みを知れる野次馬的好奇心にも、そこから自分の悩みにも応用できそうな教訓を得られる自己啓発本のようにも読める、非常に面白い人生相談の本でした。

といっても、私実はこういう人生相談本を読むのが初めてで、他の作家とかいろんな人もこういうの出してるみたいなので他にも読んでみたいなぁと思いました。