偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

相沢沙呼『マツリカ・マトリョシカ』感想

マツリカシリーズ第3弾にして初の長編。



密室状況の美術準備室で、女子生徒の制服を着せられたトルソーが蝶の標本とカッターナイフと共に発見された。
2年前、同じ場所で1人の女子生徒がカッターナイフで腕を切りつけられ、その現場にも蝶の標本が散らばっていたという。
ひょんなことから濡れ衣を着せられそうになった変態・柴山は、汚名挽回のために事件の真犯人を探し始めるが......。


はい、めちゃくちゃ面白かったです。
前作も1作目と比べてかなり面白くなってましたが、今作に至っては個人的には著者の最高傑作だと思うし、大ヒット作『medium』が産まれる前兆でもあったんだなぁと思います。


事件は2つ。
過去の密室傷害事件と、現在の密室殺トルソー事件。
これらを巡って、本作ではなんと第1章とクライマックス目前の1章を除く全ての章で様々な人物による推理が繰り広げられるんです!
作中でも著者がドヤ顔でキャラクターに言わせている通り、日常の謎としては珍しい密室事件に、日常の謎としては珍しい多重解決が加わり、「日常の謎ってなんか地味だよね〜」と思ってる読者を何としても楽しませようという気概に満ち満ちています。
そのそれぞれの推理自体も物理トリックから心理トリックから意外な犯人など(いくつかは察しがつくものもありつつ)、バラエティ豊か。
ただでさえ不可思議に見える密室が、こうしたダミー推理でどんどん穴を塞がれて強固になっていく様には興奮せずにはいられないってもんですよ!
日常の謎で多重解決というと、米澤穂信の『愚者のエンドロール』なんかが代表的な傑作ですが、本作もあれに並ぶくらいの新たな金字塔になっとると思います。というか、文化祭という背景や、キャラに合った推理など、本作のところどころに『愚者』の影響が垣間見られるようにも感じます。

さて、そんな不可能密室の解決ですが、これがまた面白い。
まずもって名探偵の登場シーンがもう最高にカッコよくてその時点で術中にハマってるようなもんでして。
とある一つの物体から繰り広げられるガチガチのロジックで一気に推理に引き込まれ、そこからのシンプルにして意表を突くトリックにもやられちゃいました。
さらに、謎が解明された後は、悩みながらも前作のラストで一つの答えを見つけつつ本作でもまた悩みまくっていた柴犬が犯人に語る言葉に泣かされたりと、シリーズものの青春小説としてのキャラの成長とかもしっかりあって、まさに青春ミステリの傑作なんです。

ただ、1つだけムカつくのは、柴犬がめちゃくちゃモテてるみたいに見えるところ!
私が童貞だからかもしれませんが、出てくる女性キャラのほぼ全員が柴犬のこと好きっぽい描写があって読んでる私の方が勘違いしそうになっちゃいますやん。それとも勘違いじゃない............??
前作まではマツリカさんがエロいだけのエロ小説だったのが、今回はもう全員エロい堂々たるエロ小説になってましたもんね!やりすぎでしょ!
やりすぎといえば、解決編で急に挟まれるメタなギャグとかも。この辺の要素が翡翠ちゃんに繋がってる気がしますよね。