偽物の映画館

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indigo la End『あの街レコード』の感想だよ

さて、indigo la Endのメジャーのフルアルバムの感想を全て書き終えたので、メジャーデビュー作のミニアルバムである本作の感想を書いていきます。
ゆくゆくは未収録曲やインディーズ曲もね......。


本作は2014年4月にゲスの極み乙女。『みんなノーマル』と同時にリリースされたメジャーデビュー作。

個人的には、キラーボールでゲスを知り、緑の少女でindigoを知っていながらも、当時はここまでハマっていなかったので両バンドのボーカルが同一人物だということにすら気づいてなくて(だってMC.Kだったし......)、この同時リリースで初めて知って「え、そうだったの!?」とビビりました。
まぁ当時声高い系邦ロックバンドたくさんいたし、音楽性も全然違うからぼんやり聴いてたら気付かないっすよ。

で、本作やその後の『幸せが溢れたら』あたりからどんどんindigoにハマっていったわけですね......。


さて、そんな本作ですが、メジャーデビューにあたって邦ロックシーンに打って出ようという気概に溢れる意欲作です。
しかし、シーンをちょっと斜めから見てる捻くれた性格も滲み出ていて微笑ましいですね。

改めて聴いても、疾走感のある歌謡ロック、エモいバラード、実験的な構成の曲、ポエトリーディングの幕間と、indigoらしさの基盤のようなものは全て詰まった力作だと思います。

さらに、一つのアルバムとして構成されているこだわりの強さも既にあって、だからこそ時流に逆らうような「レコード」というタイトルなんでしょうね。

そんな『あの街レコード』というタイトルからは、スピッツの『さざなみCD』を連想すると同時に、「ロビンソン」の「思い出のレコードと」という歌詞も思い出してしまいます。
そこまで意識しているかどうかはともかく、記憶(レコード)の中にあるあの街を歌ったアルバム(レコード)というダブルミーニングが見事に体を表した名前だと思います。

以下各曲の感想。


1.夜明けの街でサヨナラを

歌謡ロックというindigo la Endらしさを確立する、メジャーデビュー1曲目。
メジャーデビュー作の1曲目に「サヨナラ」というタイトルを持ってくるセンスがもう絵音ですよね。

開幕を告げるようなドラムのカウントからの、下手すりゃ歌よりメロディアスなギターのイントロが最高っすよね!
最近のインディゴはシャレオツと憂いを湛えすぎていて、もちろんそれも好きなんだけど、たまにこの頃のセツナ歌謡ギターロックな曲を聴くと邦ロック大好きサブカル大学生時代を思い出して切なくなってしまいます。
Bメロの焦燥を煽るようなドラムからの、駆け抜けるようなサビの演奏に、学生時代の私はまだ経験のない恋というものへの憧れに身を焦がしていました。

一度だけあなたに恋をした
たったそれだけの話です

から始まる歌詞は、いわゆるワンナイトラブ的な解釈が主流のようですが、個人的にはそういうエロい経験がないので奥手な男の片想いの歌として聴いてしまいます。
おそらくはどっちとも取れるように狙って書いてるんだと思います。

バイトのユニフォームの
ポケットから出てきた
何てことない手紙であなたを好きになったんだ

初期のメジャーデビューしてしばらくのインディゴの歌詞は、こういう具体的な情景描写が一つ入ることで抽象的な部分を引き立てているものが多かったですが、中でもこの曲のここは「さよならベル」の自販機と並んで好きです。

夢から覚めたら恋をして

というところも好きですね。
夢の中で恋をしてるんじゃなくて、覚めてから恋をするってのが切なさの魔術師。
夜の間に魔法のような恋をして、夜明けとともに消えてしまう、という切なさは後の名曲「夏夜のマジック」にも通じると思います。
きのこ帝国の「クロノスタシス」しかり、夜という時間の特別さを描いた曲は大好きです。昔は夜に浸りながら聴いてましたが最近は朝型なので夜を思い出しながら聴いてますね。

余談ですが、「潤った〜」のところ、「戦ってしまうよ〜」と一緒ですよね。


2.名もなきハッピーエンド

デビュー作の2曲目らしい、キャッチーで疾走感のあるロックチューン。
インディゴの近作にはもう「明るい」と感じられる曲は全くないんですけど、この頃はまだ明るい曲調の曲もいくつかあって、この曲なんかはその代表格だと思ってます。
2本のギターが片方はリフを、もう片方はメロディを弾くイントロからしてギターロックって感じでアガります。
歌い出しもひとひとこ一言目で「最低!」と勢いよく、当時の絵音の軽い声もこの曲調にはぴったりっす。
個人的にサビ前の一言ってのが大好きで、この曲の「はなればなれ〜」の前の「だけど」もすげえ好きです。
あとライブでは「いつも通り鼻で笑った」のところで「東京〜〜!」みたいに地名を叫ぶのも好きです。
このアルバム自体が売れるためにフェスシーンに打って出ようとした作品で、この曲は特にそういう意図を感じます。
あと、ベースも意外と動きが激しくて、間奏のスラップなんかビンビンきちゃいますね。

ただ、アガるんだけど曲調も歌詞も軽めなので実はインディゴの曲の中ではそんなに好きな方じゃないんですよね。もちろん全部大好きって前提の上で、ですけど。

「名もなき」→「"な"も無き」で、サビの「はなればなれ」から「な」を無くすと「晴れ晴れ」という言葉遊びが私はあんま好きじゃないし、それをテレビとかでドヤ顔で解説してる作詞者もむかつきます。

それはともかく、捻くれてて強がりな男女の別れを描いた歌詞は、「ちょっと」だけ切なくなるもの。
「」付きで台詞が多用され、「月9」「終電」などの言葉選びもチャラい。徹頭徹尾に軽さを追求した、これはこれで珍しいタイプの曲でもあると思います。


3.billion billion

オシャンな感じから激しいギターサウンドへの2段階イントロがかっこいいっす。
最近の上手くなった絵音から思えば、この頃はまだ歌が上手くない......というより、言ってしまえば歌い方がちょっとアホっぽいところがあって、こういうカッコイイ系の曲調だとそれが際立ってしまう気がします。
いや、とはいえかっこいいんすよ。はい。
Aメロの目立つリフの後ろでもう一本のギターがなんかうねうね言ってるのとか好きっす。
ドラムの間奏もカッコいいっすね。どうしてもドラムって普段あんま意識して聴かないのでこんくらいしゅちょうされてようやく気づくみたいなところがあります。恥ずかしながら。

半分語りみたいなヴァースからサビはキャッチーな歌モノになるのもどっちかと言うとゲスっぽくて、インディゴのアルバムに入ってると良いアクセントになります。

歌詞はまさに今(当時)の彼ら自身のメジャーデビューについて歌ったもの。さらに言えばフェス至上主義の中に一度飛び込む決意と葛藤の歌なのかも。
百鬼夜行蔓延る邦ロックシーンの中で、インディゴのように地味で奇を衒わず愚直に音楽と向き合うバンドがどう生き残っていくのか......という内容ですが、今(2021年現在)の彼らの売れ方を見てるとよう頑張ったなぁ〜となんか親戚のおじさんみたいな気持ちになってしまいます。

4.あの街の帰り道

疾走感があったりロック感強めだったりしたここまでの3曲の後で、小休止のように穏やかなアコギ弾き語りの曲。
お得意の切なさよりもむしろ懐かしさを強く感じる曲で、切なさ2:懐かしさ8くらいの感じ。

アルバム全体が青春や思い出の恋などがある「あの街」への郷愁というコンセプトを持っていて、タイトルトラックのこの曲ではそのコンセプト自体を表明しているような感じです。

私の大事な宝箱 不意に開けたくなりました
たいしたものは入ってない けどいつも気にするのさ

ずっと大好きだったあの街への帰り道も
忘れてしまうのさ

青春を終えてもう数年が経って、いつも気にしながらもだんだん忘れていってしまっている今の私には刺さるものがあります。

電球を取り替えながら別の景色見てたよ

という、退屈な今と楽しかったあの頃との対比も美しいですよね。退屈なんだけど、今を否定するニュアンスでもない感じが良いです。

曲が終わった後、ドアを開けるような音からシームレスに次の曲の歌い出しに入る繋ぎも最高です。


5.染まるまで

ドアを開けた先にあるのは、バンドサウンドに戻りつつも引き続き穏やかな曲。
しかし切なさ5:懐かしさ5くらいまで切なさ成分が増えた、優しくも胸を締め付けるような失恋ソングになってます。

ロディアスなギターがとにかく美しくて泣きそうになっちゃいます。
間奏以降の盛り上がりもエモい。

そして歌詞もエモいっす。
このアルバムでは全体にセリフってものが多用されてる気がしますが、この曲の歌い出しの

「友達にはなりたくなかった」
変わった告白だった
君はその日から彼女になった
案外悪くないな

という馴れ初めのシーンのセリフが個人的にはナンバーワンですね。

続くアパートが出てくるところも具体的な情景描写ですね。アパートとか夕焼けとかが出てくるのにスピッツみを感じてしまいます。
スピッツといえば、

君は無邪気に笑いながら
僕を馬鹿にしたんだ

にもスピッツっぽさを感じます。絵音先生のことだから意識はしてるんじゃないかなぁ。

アパートのくだりまでは「君」と過ごした日々を描いた具体描写ですが、それ以降は君と別れた後の僕の心理描写になっていきます。

その中で気になるのがサビの終わりの

あなたの横顔が夕焼けに染まるまで

ってとこ。
「心の実」のように「君」と「あなた」が別人だとすると、例えば僕は君と死別し、その後あなたと出会って、今日あなたにプロポーズしたんだけど、そこで君のことを最後にもう一度だけ思い出して、それで忘れることにします......みたいなストーリーが浮かんできちゃって泣けます。
プロポーズという言葉が出てきてしまうのは「横顔」が「風詠む季節」を連想させるからですね。
ストレートなようでいてなかなか解釈の難しい歌詞なのでいかようにもとれますが、私の中でのイメージはこんな感じっす。エモいよね。


6.ダビングシーン

そして、ここで切なさ8:懐かしさ2のキャッチーで疾走感ある曲、再び。
アルバム全体の一つのクライマックスなので、冒頭の3曲より気持ち切実さが増している気がします。
思い出の場面を何度も見返すというテーマも、ここまで何曲かの恋の思い出にまつわる歌を聴いてきただけによりエモさが増すわけで、この曲がここに来るアルバムの構成がもう素晴らしいの一言っすね。

空間に響くような歌声からはじまるところですでに鳥肌が立ってしまうのは、このサビのメロディが本作でも屈指の美メロだからでしょう。
歌い方もこの曲ではアホっぽさは抑えめで、胸を締め付けるような切なさが滲み出てます。

んで、そっからのギターのイントロもまた美しい。
そして一旦ギターの音が消えてドラムとベースだけの中でAメロ、そっから徐々にギターの音が入ってきてサビに向けて焦燥感を高めていって、サビで爆発するところも良い。サビの入りの「僕らは」で一瞬音が止まるのも良いし、間奏のギターソロも良いし、何もかも良いです。

歌詞は同じ場面を繰り返し見てしまう男の話で、それダビングって言わなくね?とは思うものの、エモいっす。
うちら世代ってたぶんビデオをダビングしてた最後の人類なんですよ。だからダビングってタイトルにギリだけどノスタルジーが感じられます。

冒頭はサビ始まりで

僕らは止んでた雨に手を振って
息をするのも忘れていた
ちょっとだけ悲しくなったんだ

と、止んだ雨、止めた息で時が止まったかのような印象を与えます。それがそのまま、過去に縛られて前に進めない僕を暗示しているようで。
そしてイントロ明けでは

ねえそんな荷物を 持ってどうしたの?

と、この曲でもセリフがAメロ冒頭で印象的に使われています。
そうして自分の不器用さのせいで君を傷つけてしまったエピソードが語られ、Bメロでそれを後悔して何度も思い返してしまう今の自分が歌われます。

そして2番に入ると秒針がめっちゃ回りだしたり、1番での「わかってるけど......」に対して「わかつてるよ!」と叫んだりと、焦燥感を高めてからのメロディアス間奏!
からの、

僕は笑いながら秒針を力づくで止めたんだ
ダビングは終わりさ

と、過去との決別が歌われます。

1番ではサビは後悔に俯くように「帽子を深く被った」と言っているように聞こえましたが、ここまで聴いてから最後のサビを聴くと、今度は前に進む意思を込めて「帽子を深く被った」と、全く同じ歌詞なのに違ったニュアンスで聞こえます。

近作の「チューリップ」や「夜光虫」ほど上手くはないですが、モチーフとストーリー性、具体性と抽象性が良いバランスに配合され、リード曲として気合の入った歌詞だと思います。


7.mudai

ギター?とキーボード?とベルみたいな音の反復の中でのポエトリーリーディング
えのぴょんの語る系のってどうしてもなんかムズムズするんですけど、それは置いといて......。
生活についてのリリックは、今まさに実家を出て二人暮らしを始めた私にはすごく分かりみが強い内容で、特に感想とかもないんだけどただ分かる〜という感じです。

一緒に味噌汁を啜るんだ

8.アリスは突然に

このタイトルで「雨が降った朝に」ときたら、「フェリスはある朝突然に」を連想せざるを得ないですけど、好きなのかな。

穏やかさの中に切なさの混じったようなギターのイントロが美しく、シンプルなサウンドで進んでいくただのいい歌。
......かと思っていると、2番からはベースがスラップしだしたり、ドラムが急に速くなったり、最後の2分間くらいは変則的な構成になったりと、インディゴらしいアレンジのカッコよさもあって、やっぱりただのいい歌ではない余韻を残してくれます。

歌詞は若い頃の恋愛にありがちな、相手に理想とかを投影しすぎてしまったが故の失恋を描いているように感じますが、難解な歌詞なので他の解釈も聞いてみたいところです。

思えばそう、さっきから胸騒ぎがする
ああ、これはきっと全部僕のせいじゃないか

というところなんか、いつも僕のせいでフラれていた私としては分かりみしかないところでありまして。

理想はさ
君を許してから
自分で消し去るのが一番良かったんだけどな

という最後の歌詞が印象的。身勝手な感じもするけど、その通りだよなぁ、と。