偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

Mr.Children『Q』(2000)感想

9枚目のアルバムだから『Q』というお得意の親父ギャグで命名されたアルバムですが、ミスチルの全アルバムの中でも1番変な作品な気がするのでなんだかんだ内容を的確に1文字で表した最高のタイトルだと思います。
てかそもそも8枚目がライブアルバム、14枚目がB面集というナンバリングが俺は気に食わねえな。どーでもいいけど。

Q

Q

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そう、このアルバムはミスチルを代表する「NOT FOUND」「口笛」といったド名曲は入っていつつも全体に静かな狂気が滲み出たような作風で、ぱっと聴いてどんな曲か覚えられないような掴みどころのない曲が多いんだけどだからこそじわじわとハマっていってしまうスルメアルバムになってます。
なんせ聴いたのが子供の頃でまだこのアルバムの良さが分からんままにもっとキャッチーなアルバムばかり聴いていましたが、今回改めて聴いてみたら凄え名盤ですわ。今までごめん。











1.CENTER OF UNIVERSE

明るいとも暗いとも言えないような、ただとても気怠いギターの音から始まってゆったりと歌い始める盛り上がんない曲......かと思ってたら1番が終わるあたりからどんどん加速していって、そして戻ってこない。
歌詞の内容も資本主義への皮肉みたいなところがあるけど、どんどん加速する曲調もそれを体現しているようで面白いです。2番あたりからテンション上がって踊っちゃうんだけど、同時に「踊らされている」という冷笑的な気分にもさせられます。その加速するあたりで「一気に加速していく」と言っちゃうジョークも好き。

ステレオタイプ ただ僕ら 新しい物に飲み込まれてゆく
一切合切捨て去ったらどうだい?

と消費社会からドロップアウトしたい無理な願望を唱えながらも

クタクタんなって走った後も愛を補充
君へと向かう恋の炎が燃ゆる

とさらに愛や恋すらも消費していく皮肉。

隣の家のレトリバーにも「ハイ ボンジュール!」

これは単純にかわいい。

あぁ世界は薔薇色
ここは そう CENTER OF UNIVERSE
僕こそが中心です
あぁ世界は素晴らしい

本気なのか皮肉なのか分からんし両方な気もする「世界は素晴らしい」が宙ぶらりんなまま余韻として残りつつ、シームレスに次の曲へ。


2.その向こうへ行こう

前の曲の最後でせっかく盛り上がったのにまた輪をかけて気怠いイントロで地味にイヤ〜な気持ちになります。
イントロのギターからしてちょっとぼやんとエフェクトかかってるけど、サビに入るとなんか大気圏突入だか潜水だかしてるみたいなぼわぼわぼこぼこってくぐもった音が入ってくるしメロディもわけ分からんし、不安になるやら何もかもどーでもよくなるやら。
イイ歌っぽいタイトルなのに凄いマニアックでクレイジー!(好き)。

歌詞も珍しく引きこもりっぽく、

思ったよりも僕等が 目の当たりにしてる壁は高く
もうこんなはずじゃなかったと嘆いても後の祭りなのです

などと壁にぶち当たった現状が歌われ、それに対して

見損なっちゃこまるぜ
不可能は辞書にない
そうさ僕はまだちゃんと本気だしてないだけ

と、不安しか煽らないダメ人間の常套句みたいなことを言い出しておいおい大丈夫か?と思ってると、

ショートケーキで例えるのなら
イチゴだけ最後に食べるタイプで
口に入れる手前で落として捨てた夢もいっぱいござるよ

と、まぁたぶんエロい意味なんだろうなと思わせる失敗談が出てきてさらに不安に......(「ござる」とか言って茶化してる時はだいたいまじで「やれたかも」に悔しがってる時。男同士それは分かるでござる)。

さぁ一発でクリアしよう
方法ならいろいろ
目指してたものの
その向こうへ行こう

と、根拠のない自信だけはめちゃくちゃあって笑います。
しかし曲の最後では

その向こうへ行こう
そして I'll go to home

と壮大なツッコミどころを作っておくあたりギャグセンが高すぎる。
もちろん、

ちぢみあがった魂
ひなびたベイビーサラミ
もう一度フランクフルトへ

腰をくねる女の よがり声が世慣れたフェイクでも
白けて萎えるような ロマンチストではこの先生きてゆけぬぞ

と、下ネタもばっちしなので安心クオリティ。「フェイク」の先駆けみたいなこと言ってて興味深いっすね。


3.NOT FOUND

この曲は大学の時にいた部活の可愛い後輩が好きで、よくカラオケでも歌っていたので思い出深いです。その可愛い後輩曰く「NOT FOUNDはJPOPの至宝」だそうです。その後輩は可愛がってたのに急に部活辞めちゃったのでなんか苦い思い出です。
ここまでの2曲が気怠い雰囲気だったのでここで急にポップ圧の強いこの曲が来るのが満を辞した感じで良いっすね。
ほぼ歌始まりみたいなもんで、最初のワンフレーズだけはアコギに乗せてさらっと歌うんだけど、そこからもうバンドとストリングスとが入ってきて歌い方も暑苦しくなってきてあとはずっとエモい。
中でもサビの搾り尽くすような歌い方と「微笑みを〜〜〜」の一瞬の裏声がエモエモい。全体に地声で頑張ってるだけにここの裏声にきゅんと来るんですよね。
あと、ドラムの焦燥感を煽るリズムがかっこいい。何拍子とかそういうのは分からんけど、細かく刻む感じ。

歌詞は愛の難しさと尊さを泥臭く率直に歌ったもの。冒頭では男と女の愛し方の違いによるすれ違いが歌われ、

あぁ 何処まで行けば解りあえるのだろう?
歌や詩になれない この感情と苦悩

と、解り合うことの難しさが歌われます。

昨日探し当てた場所に
今日もジャンプしてみるけれど
なぜか NOT FOUND
今日は NOT FOUND

昨日解り合えたと思っても今日はまた解らなくなっている。それでも、

君に触れていたい 痛みすら伴い歯痒くとも 切なくとも 微笑みを 微笑みを
もう一度 微笑みを

微笑みを持って修正修正を繰り返しながら歩み寄って解り合おうとし続けることが大事ってことですかね。勉強になります。


4.スロースターター

ミドルテンポでやや暗めのトーンのイカしたロックナンバー。
2本のギターが絡み合いドラムがどかどか入ってくるイントロからしてぶち上がります。低めの声でうだうだ歌うAメロからサビの盛り上がりへの飛躍がカッケェんだけどサビもやや単調で気持ちよくなりすぎない抑制されたカッコよさがあって好きです。
あと間奏の歪んだギターソロも最高。

歌詞は田舎から出てきた男が都会で辛酸を舐めた上でこっから本気出してやんよ!みたいな反骨の歌。

みじめそうに見えても 同情なんていらない
尻尾を振り振りして 隙を観て奪い取る

強がりを言うなと 他人は笑うけど
叶わぬ夢など 俺は見ないのよ

という、情けなさや弱さを裏返して乗り越えていく強さにしていく感じがロックでかっこいい。


5.Surrender

重ためのアコギの音と寂寥感溢れる口笛のイントロからして超絶気怠く物悲しくエロい。
GRAPEVINEを初めて聴いた時に音楽のことなんか今以上に知らなくて「暗いミスチルみたいな感じ」と思ったんだけど、その感覚で言うとこの曲はGRAPEVINEっぽい気がします。SingとかTwangsあたりの。

歌詞はもうど直球の女々しい失恋ソング。
タイトルのサレンダーとは降参、降伏という意味で、私世代だと遊戯王のデュエルで投了する時によく使ってたワード(どうでもいいけど)。
タイトル通り、突然別れ話を切り出されてすぐに諦めてしまう男の歌。

Coffeeぐらいで 火傷したのが
動揺してる 証拠なんだけど
さよならを 君が急に云うからさ

という冒頭の細かい情景描写で一気に引き込むのがさすが。

笑い飛ばす事ができたなら
どんなにかグレイトな奴と思われるだろう?
でも僕は違う
もう土壇場
されどもうひと押し
けれどI Surrender

と、すぐに降伏してしまうのはつまらない見栄からか自信のなさからか厭世観からか......。私もこれ全く同じことを経験したことあるので凄く分かりすぎてつらくなってしまう......。

愛情なんて どうせイリュージョンだと
訳しり顔で暮らした日々は
君が白痴に思えもしたけど

失ってみればこんな陰気な歌にするくらい喪失感を覚えるのに、失うまではこうやって君のことを下に見て冷笑してる感じも凄く私でしかなくてやめてくれ耳が痛えわ。

暗闇を照らしてよ あの頃のように
君無しじゃ不安定なんだよ
一切合切を無くしても 構わないと思えてたのに
そう信じれたのに

このフレーズが歌詞もメロディもめちゃくちゃGRAPEVINEっぽいんだけどそれは置いといても、そこまで思ってるならなんですぐI Surrenderすんねん!?って言いたくなるんだけど、その気持ち分かるぜ兄弟。

胸に無情の雨が降る
二人で過ごした日々は 路上のチリのよう
流れて 消えて The Endさ

「The Endさ」という歌詞のあとアウトロもほぼなく本当に終わっちゃうのが切なすぎる。もう失恋することもないかもしれないけど、失恋した時にはこういう何の救いもない失恋ソングを聴きたくなりますよね。最高。


6.つよがり

このアルバムでは珍しく「ミスチルらしい」バラード曲。
ピアノを主体にバンドサウンドが優しく穏やかに鳴ってるんだけどサビや間奏ではギターがちょっとだけ主張してきたりするバランスがちょうど良い。
ベストで聴いた時にはそんなにだったけど、この変なアルバムの流れの中で聴くとほっと一息的な安心感があって良いです。
ここまでがアルバム前半、レコードで言えばA面に当たりますね。

凛と構えたその姿勢には古傷が見え
重い荷物を持つ手にもつよがりを知る
笑っていても僕にはわかってるんだよ
見えない壁が君のハートに立ちはだかってるのを

「君」の過去には何かがあって、それで今もつよがってなかなか心を開いてくれない感じで、そのことを思いやりながらも

そしていつか僕と 真直ぐに
向き合ってよ 抱き合ってよ
早く 強く あるがままで 強がりも捨てて

と、いつか強がりを捨てて欲しいという願いが歌われているわけですが、この曲自体がそういう関係性への不安に対する「僕」のつよがりのようにも聴こえるのが味わい深いです。


7.十二月のセントラルパークブルース

ここから後半戦。
フェードインしてくるようなイントロからして仕切り直して後半です!という感じ。
普通にバンドサウンドだし構成も変じゃないのにどこか実験的に感じてしまう曲。半分語りみたいなちょっとふざけたような歌い方とかかな。「似てたぁ〜ん」とか「はいは〜い」が可愛いのでこの曲結構好きっすね。
サビのベースラインがビートルズのカムトゥゲザーっぽい。

12月のセントラルパークっていうと、行ったことないから知らんけど煌びやかなクリスマスムードで甘い恋愛映画にでも出てきそうなロケーションなんでしょうねきっと。
そんな中で1人寂しく過ごす男の投げやりな嘆きが歌われる曲で、これも「つよがり」ってタイトルでも良い気がする(笑)。

宗教かぶれが僕にこう問う「Hey あなたは幸せですか?」
「幸せですとも」と嘘ぶきながら 十二月のセントラルパークブルース

ここの歌詞と歌い方のやけっぱちな感じがすげえ好きです。
このアルバム自体ニューヨークでもレコーディングしたらしくて、それを踏まえるとどこか私小説的にも聴こえてしまう。というかミスチルの歌詞の魅力ってそういう桜井さん自身を彷彿とさせる主人公が情けなさを曝け出したりするところであって、後に「斜陽」なんて曲も出すけどどこか太宰治の影響を感じさせるとこなんですよね。


8.友とコーヒーと嘘と胃袋

これはまぁ普通に実験的と言って良いんじゃないでしょうか。
ファンキーなリズムにシンセか何かのシャラシャラって綺麗な音がオシャレなサウンド。に、文字数が多く力の抜けた語るような歌が乗っかってて、途中で急に桜井さんが酔っ払ったおっさんになってわーわーとがなりはじめるすげえ変な曲。ふざけた歌い方は前の曲と地続きで、ニコイチのイメージ。
アウトロの音がなんとなくクリスマスっぽいのも前の曲の雪と掛かってるのかもね。

歌詞も散漫なようでいて筋の通ったメッセージのある変わったもの。
結婚した友達、あの娘の影響で飲むコーヒー、雑誌の占いのコーナーの嘘......といった日常のことから、下町情緒とか世紀末とかキリスト教とかクジラやイルカの肉とか雑多なトピックへと話が広がって......というか"脱線"していくんですが、

だから胃袋よ あぁ僕の胃袋よ
もっと強靭たれ もっと貪欲たれ
なんだって飲み込んで なんだって消化して
全部 筋肉に変えてしまおう

という最後のフレーズで全てが強引にまとめ上げられているのが上手すぎる。

しかしどうでもいいけどタバコを吸ってコーヒーを飲む人はかなり口臭がキツそうで私なら付き合えないかも......。


9.ロードムービー

変な曲が2曲続いたのでここでこの軽やかなポップチューンが流れるのが嬉しいですね。
ミスチルらしい、それもこの時期のミスチルというよりは初期の「君がいた夏」とか「星になれたら」くらいの頃っぽい感じがします。懐かしい心地よさ。
ただ、構成はめちゃシンプルで、Aメロとサビを繰り返すだけで、そんなにすごい盛り上がりはないんですよね。だけどすごくキャッチーで王道ポップチューンとして聴けてしまうのがさすが凄い。

歌詞はバイクに君を乗せて走っていくだけのまさにロードムービー
2人の間には今なんかしらの問題があって、先が見えない状態なんだけどそれでも走っていく、という感じの歌。
バイクで走っている今この瞬間の風景描写と過去の回想シーンと内面の描写が綺麗なトライアングルを成して短編映画のような物語を形作っているのが、やっぱ歌詞書くの上手いなぁと思うよ悔しいけど。

汗ばむ季節 君がふと見せてくれた情熱
ファミレスの裏の野良犬が見てたキス
スカートの裾を濡らしはしゃいでた あのビーチハウス

という生々しくも映画のようなエロ情景描写は流石だし、

街灯が2秒後の未来を照らし オートバイが走る
等間隔で置かれた 闇を越える快楽に
また少しスピードを上げて
もう1つ次の未来へ

「街灯が2秒後の未来を照らし」が書けるから、綺麗事みたいな歌詞ばっかりでもギリギリのところでアーティストとしてしっかり信頼出来ちゃうのが悔しい。


10.Everything made from a dream

軽快で可愛らしいマーチの曲調に乗せて歌われるのは現代文明への皮肉であり、しかし希望も提示しているのがさすが。
サビのギターの音が歌詞の通りロケットの打ち上げとかを連想させる音色でカッコ良い。間奏では色んな人の声をコラージュした語りが入っててちょっとダサくなりそうなところなんだけどこの曲の中でなら許せてしまいます。

歌詞はこれも話の進め方が上手すぎる。

何時間眠っても疲れはとれないし
近頃は道草せず家に帰る僕だ
ハッピーな夢を見て眠りたい

というなんてことのない普通の男の日常のワンシーンから始まり、そこからシームレスに

手塚マンガの未来都市の実写版みたいな街だ

と話を繋いで、打ち上げられた夢と打ち落とされた夢を対比しながら、

夢、夢ってあたかもそれが素晴らしい物のように
あたかもそれが輝かしい物のように僕らはただ讃美してきたけれど
実際のところどうなんだろう?

という問いかけへと繋がります。
曰く核爆弾や細菌兵器も最初は科学者の夢から始まったということで、私は一応映画ファン見習い🔰なので『風立ちぬ』とかも連想してしまいますが、そういう夢を叶えようとすることのエゴイスティックな面を描きつつ、

やっかいだな夢は良くもあり悪くもなる  
てな訳で
僕らの手に懸ってたりして

と、冒頭の帰宅シーンに戻るかのように個人の小さな感慨に落ち着くという展開を一曲の中でやれちゃうのが凄い。
てか、単純にミスチルってなんか「夢を追いかけて走ろう未来へ手を伸ばそう」みたいなこと言ってそうで言わないのが信頼できます。


11.口笛

なんかのライブ映像で「みんなが知ってる歌だから1番はみんなで歌ってね〜『口笛』」みたいなことを言ってて、いや知らねえよ!と思ったし、客に歌わせるのまじむかつくんだけど、でもまぁそう言いたくなるのも分かるくらいの名曲中の名曲。メロディが良いから合唱映えもするしね悔しいけど。
ミスチルの王道なんだけど、この異色なアルバムの中ではむしろこの曲の方が異色な気もしてしまうから面白いですね。

イントロの印象的なシンセ(?)のフレーズからもう引き込まれてしまうし、優しいトーンのAメロからちょっと切なさを匂わせつつ盛り上がる予感を見せるBメロからの、ポップソングとして最強すぎるサビに入ってもう、しっとり優しい曲なのに拳突き上げてうおーっ!!!って叫びたくなるくらい盛り上がるエモい。

歌詞は、冒頭で「頼り無く二つ並んだ不揃いの影」「凸凹のまま膨らんだ君への想い」とあるように、この歌詞の主人公と君とは何かすれ違いのような状況にあるんだと思います。
それに対し、

口笛を遠く 永遠に祈る様に遠く 響かせるよ
言葉より確かなものに ほら 届きそうな気がしてんだ

「言葉より確かなもの」を「口笛」と呼ぶシンプルな比喩がまさに祈るような切実さを感じさせてエモい。
そしてそれを体現するように、歌詞には言葉による愛情表現などは出てこなくて、

さあ 手を繋いで 僕らの現在が途切れない様に
その香り その身体 その全てで僕は生き返る

形あるものは次第に姿を消すけれど
君がくれた この温もりは消せないさ

と、触れ合いや香りや温もりといった言葉以外のもので表現されているのが上手いですよね。


12.Hallelujah

不穏なようでもあり優しいようでもあるなんとも言えない不思議なエレキギターアルペジオのイントロが短くも印象的。
歌が始まってもギターが後ろでホタルの光のように儚く明滅していて、歌声にはエコーっていうのか、空間を感じさせる残響がかかってて、暗くはないけど幻想的な雰囲気。なんかスピッツの「宇宙虫」っぱさもありますね。ちょうど同年のアルバムか。
ほんで、そっから一気に『深海』とかに入ってそうな攻め攻めロックなサビに入るのがカッコ良すぎて聴くたびにびっくりしちゃいます。
アウトロの晴れ晴れハレルヤ〜みたいなコーラスの部分がものすごく壮大で深刻さと解放感が同時にあってアルバムのクライマックスとなっています。
そして歌詞にある「マイナスからプラスへ」というフレーズも、アルバム全体を振り返って「あぁ世界は素晴らしい」「痛みすら伴い歯痒くとも微笑みを」「なんでも飲むよ」「夢は良くも悪くもなる」といった曲たちに通底するテーマのようにも聴こえて、まさに最後から2曲目にふさわしい曲です。

ある時は僕の存在が 君の無限大の可能性を奪うだろう

だけどこれだけはずっと承知していてくれ 僕は君を不幸にはしない

このネガティブなのかポジティブなのか分からん感じがめちゃくちゃ分かる。

いつの日か年老いていっても この視力が衰えていっても そう君だけは見える
もしかして地球が止まっても 人類が滅亡に向かっても そうこの想いは続く

この辺とかはもはやRADWIMPSみたいな感じすらしますね。
全体に独りよがりっぽい感じもするけどそれも含めてめちゃくちゃ共感しちゃう歌詞で、最後の方の

優秀に暮らしていこうとするよりも 君らしい不完全さを愛したい

このフレーズが特にわかりみが強すぎてやばい。


13.安らげる場所

前の曲がクライマックスならこれはエンドロール......というのを、こないだの『SOUNDTRACKS』の最後の曲の感想でも書いたんだけど、これもそんな感じ。
この曲もバンドの演奏はなくてピアノとストリングスに乗せてしっとり歌い上げられるバラード。静かな歌い出しからところどころで感情を込めながらまた静かになっていくような起伏ある歌が沁みます。

歌詞はというと、10月の肌寒さの中で君の大切さを思う、ただそれだけのシンプルな歌。
とりあえず、9枚目のアルバム『Q』の最後のこの曲が、「10月」を舞台にしてる遊びが素敵。

僕はなぜ繰り返す別れを受け入れてきたんだろう?
その謎が君と出会い ちょっと解けた

人はなぜ幸せを闇雲に求めてしまうんだろう?
何より大事な物も守れずに

一方で『Q』らしいクエスチョンもあり。

孤独とゆう暗い海に ひとつの灯台を築こう
君はただそれを見ていればいい
一番安らげる場所で

この恋の行き先に何があるかは知らない
ただ静かに手を取っては 永遠にと願う
いつも君と二人で

変な曲も多かったこのアルバムが、こういうシンプルなラブソングで終わるというのは安心しますね。変な曲ばっか聴かされてきたリスナーにとってもこの曲が安らげる場所なんだと思います。