偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

田島列島『子供はわかってあげない』(上下巻)漫画感想文

これはねぇ〜〜〜っ、やばい。好きすぎるですわよね。

子供はわかってあげない(上) (モーニング KC)

子供はわかってあげない(上) (モーニング KC)

子供はわかってあげない(下) (モーニング KC)

子供はわかってあげない(下) (モーニング KC)


懐かしさと新しさの両立と言いますか、故郷に帰るようであり、見たことのない町を歩くようでもある、そんな漫画です。
上下の2冊で完結してるちょうど良い長さも好き。それは長くも短くも感じられる、夏休みそのもののようで......。




水泳部のサクタさんは、練習中にふと校舎の屋上に怪しい人影を見つける。気になって見にいくと、同級生で書道部の門司くんが絵を描いていた。オタク趣味を通して親しくなっていく2人。
サクタさんは、幼い頃に母と離婚した実の父親探しを探偵である門司くんの(元)お兄さんに依頼して......。


はじめに言っておくと、この作品の魅力を私の乏しい語彙と文章力で伝えることは不可能です。
ただ、喩えるなら、高校生の頃にめちゃくちゃ良い曲を初めて聴いた衝撃でその曲を無限ループしながら衝動で町を自転車で走り回るような、そんな感じの爽快すぎて胸を締め付けられるエモさがあります。
とりあえず、青春や恋というものに呪いにも似た思い入れのある私みたいな人はとにかく読んでくれと言いたい!
けどまぁそれだけじゃアレなんでちょっとだけ紹介と感想を書いていきます。



何から書いたもんか......。

まず、絵が可愛いっすね。
頭身のバランスが微妙におかしくて、ちみっちゃいキャラクターたちが可愛い。なんか、漫画詳しくないから何とは言えないけどどこかで見たような懐かしさのある優しいタッチの絵は、それだけでハマっちゃうような魅力があります。

それから、ギャグセンスが好き。
たとえば、「自分で炊いた豆だからね」みたいな、しれっと面白くもなさそうにちょっとだけ面白いことを言ってくるのが良い塩梅で、爆笑は無く常ににやにや、時々ぷっと吹き出してしまうような、居心地の良すぎる空間でありました。


......で、ストーリーはというと、これがゆるいようでとてもよく出来てるんですよね......。
テーマは「人とのつながり」や「大人になる」というストレートで普遍的なもの。それだけに、ヘンテコなキャラクターたちや紆余曲折する展開や細かくてシュールなギャグとのギャップに萌えると言いますか。

はじまりは門司くんとサクタさんのシンプルなボーイミーツガール。
2人の間に恋愛感情とかはまだなくて、単純に新しくできた友達としての付き合いをしていくわけなんですけど、この「新しくできた友達」感がめちゃくちゃリアルなんですよ!まぁ私は友達ほとんどいないから知らんけど!いや、友達少ない方がこの特別さはヒシヒシくるのかも......。
お互いにあまり相手のことを知らないけどなんだかこの夏は特別な夏になりそうなYO・KA・N!

そして、そっからお話はサクタさんの父親探しに入っていくわけですが、この辺の展開が面白くて。個性的な脇役たちがちょいちょい良い味を出したかと思えば案外あっさり父親を見つけられたり、でもそこから新たな悩みが出てきたりと、なんともふわふわした展開で「これ大丈夫かな......」と正直ちゃんと話がまとまるのか心配にさえなりましたが杞憂オブ・ザ・イヤー。
下巻から少しずつ伏線が収束していきつつ、すべての脇道エピソードも「人と人のつながり」というテーマに内包されていく様はゆるく圧巻。なんというか、大雑把に喩えるならドヤ感のない伊坂幸太郎みたいなイメージ(伊坂に謝れ)。
そのつながりってのは、友情や兄弟や恋愛などの横のつながりももちろん、親子や師弟といった縦のつながりもまた。
子供はわかってあげない』というタイトルは言い換えれば「大人はわかってあげる」とも言えるような気がして、一夏の色んな人との関わりの中で2人が少し大人になったことを逆に表しているようにも思います。


そして、クライマックスがもう青春の象徴、恋のすべてという感じ。
初恋。
初恋のようさ 僕が見てる世界は今日も君色20,000色で
初めて気がついたあの時のそうさ衝撃を僕にいつまでもいつまでもいつまでもくれよ!

言葉少なに、でも的確にきゅんきゅんスイッチを押してくれる2人ににやにやが止まらなかったしハタから見たら漫画読みながらにやにやしてる変なおじさんになってしまいましたよ。
そして、ラストシーンが素敵すぎる。
一つの特別な夏が終わり、でもワクワクはここからはじまる。序盤のはじまりを予感させる場面と同じ構図の絵を持ってくることでページを閉じた先にある未来までも幻視させるような美しすぎる幕引きに震えました......。

そんなわけで、めちゃくちゃ良かったんだけど良すぎてもう何書いて良いのか分かんなかったけど最高なのでみんな読んでください!
うう、夏休み......。