偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

連城三紀彦『ため息の時間』感想


『ミステリ読者のための連城三紀彦全作品ガイド』の浅木原さんがめちゃくちゃ推してたので気になっていた作品。
先日彼女に『戻り川心中』を無理矢理読ませたのですが、その流れで私も未読の連城をと思い読んでみました。

怪作との噂でしたが、マジで怪作でした。

月刊誌の連載小説という体を取った作品で、物語は31歳の画家の僕と、41歳のイラストレーターのセンセイ、そして僕の彼女とセンセイの奥さんとの四角関係を描いた恋愛ドラマ。
......なんだけど、連載第2回で早くも作者である「連城三紀彦」の存在が示唆されたり、登場人物の職業や年齢は嘘だと最初から断られたりしていたりするメタすぎる内容。
時系列は語り手により攪拌され、前章の内容を「〇〇と言ったがあれは嘘だ」「これも嘘だ」「それも嘘だ」みたいにコロコロと言い分が変わって、私のような正直村の住人には何が起こっているのかすら全然分かりませんでした。
そんな感じなので、恋愛描写についても、細かい心理の襞の襞まで描きすぎてむしろ描写のために真理を作っているような本末転倒のサイコパス感を感じます。
まぁ、そもそも連城作品にはそういうところがありますけど、今回は特にな気がしますね。

褒めてるのか貶してるのか分かんない感じになりましたけど、私も分かんないです。
虚構と現実の境目が分からなくなるというよりは、凄すぎて完全に虚構にしか見えないものが現実を侵食してくる気持ち悪さ、という感じ。
ほとんど詭弁とかレトリックの類であるどんでん返しも、連城三紀彦の手にかかれば尤もらしく思えてしまうのも凄いといえば凄い、気持ち悪いといえば気持ち悪いです。

そんな感じで、著者の得意とする恋愛小説とミステリの融合に、連載小説・メタ・モデル小説を調合した結果産まれてしまった異形の怪物のような作品。
面白いともオススメともよう言わんけど、インパクト絶大なことだけは断言しますので気になる方はぜひ......。