偽物の映画館

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道尾秀介『いけないⅡ』感想


各話の最後に載ってる画像を見ることで謎が解けるという趣向で話題になった『いけない』の第2弾。
といっても、ストーリーにはなんら繋がりがないのでどっちを先に読んでも大丈夫です。
というか、個人的には本作の方が謎解きが分かりやすいので、本作を先に読んだ方がいいんじゃないかって気すらします。


今回も舞台はとある寂れた地方都市で、失踪した少女の妹、山小屋の管理人、少年と叔父さんの交流、息子から虐待を受ける老夫婦と、色んな人の人生模様が描かれていき、痛みや哀しみを湛えた物語としてだけ読んでも素晴らしい短編集になっています。

その上で、絵の謎解きに関してもよりシンプルになっていて、解けると「解けた!」とピンと来るようになってます。前作は「解けた気がするけどこれで合ってるの......?」という感があったので。
また、私はこれはちょっと興醒めな気もしちゃったんだけど、各話の解答が次の話でさらっと出てくるので謎解き苦手な人にも優しい作りにはなってます。
連作としての最終話も、前作よりも全ての話が収束する感じが強くなってます。

ちょっと残念だったのは、第一話のオチがめちゃくちゃ面白かったのでそれ以降の話が第一話を超えてこないところですかね。特に第三話はそのまま書いたらそんなに捻りのない話を無理やり捻るために絵解きにしてるみたいでミステリとしてはイマイチでした。......と言っても、あの写真から伝わってくる切なさが物凄く、お話としては1番良かったですけど。

という感じで、全体のバランスとまとまりもよく、写真の使い方も分かりやすくなり個人的には前作よりかなり好きでした。
2度あることは3度あると言いますので、Ⅲも楽しみです!

以下一応ネタバレで軽く各話の回答を。













































「明神の滝に祈ってはいけない」

冒頭の桃花視点のパートでは干支は「子」だが、写真に映る干支だるまは「丑」。2つのパートは同時進行と見せかけて一年のズレがあるという叙述トリック
最後に大槻が殺した少女は緋里花ではなく桃花だった。
大槻は緋里花を殺していなかったのに、桃花が疑ってしまったために殺される羽目になってしまったという嫌なオチですね。
また、冒頭の写真は小指を隠していることから、これも緋里花ではなく桃花だったということを示しているんだと思います。
絵から叙述トリックを明かすという、本シリーズでも唯一どんでん返しとして絵が使われてるのが面白かったです。



「首なし男を助けてはいけない」

話の大筋は真が最後に気付いた通り。川を流れて行ったのは首なし男人形で、叔父さんが後からそれを戻した。
→しかしそのことで叔父さんは父親を振り払って結果的に殺してしまったことを思い出す。真との最後の会話は真にとっては今日の出来事についての話だったが、叔父さんは父親を殺した時のことを告発されたと思ってしまい自殺するに至った、というこちらも勘違いとすれ違いの果ての悲劇で後味悪いし写真が怖すぎる......。



「その映像を調べてはいけない」

千木家の居間の座卓にコスモスの一輪挿しが置かれている描写→実は家の床下に埋めていた=灯台元暗し。
しかし警察、まずは自宅を調べないものか......?と思ってしまうのと、コスモスの一輪挿しが置かれているという描写があまり印象に残らないので、写真オチのために配置されている感じがしてしまいました。



「祈りの声を繋いではいけない」

20歳の誕生日に緋里花の両親が掛けた電話が病床の智恵子の元で鳴ったという結末。
他の人たちの祈りは叶うけれど、小澤夫妻だけは電話が繋がったことにぬか喜びした後に地獄に突き落とされると思うとやるせないですね......。というか娘を2人とも殺人で喪うなんてつらすぎる......。