偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ジョジョ・ラビット

月曜日の仕事終わりに名古屋駅へ『九人の翻訳家』を観に行くつもりでしたが、仕事が終わるのが遅くなって遠出がめんどくさくなりました。
でも映画観る気満々な気持ちを満たしたくて、近所の映画館でとりあえず話題になっている本作を観ました。

これが今年初の映画館。

なんとなくふらっと観に行っただけで、ナチスドイツにも特に興味はなかったのですが、観てみたらやられました。
今年のNo. 1フェイバリットはこれだ!と気の早い宣言をしてしまうくらい、ハマりましたね。はい。




ナチスドイツに忠誠を誓う10歳の少年ジョジョヒトラーユーゲントに入るが、ウサギを殺せなかったことで臆病者のジョジョ・ラビットと渾名されてしまう。
そんなある日、彼は母親が自宅でユダヤ人の少女を匿っているのを見つけてしまい......。



そんなわけで、最高でした。

とりあえず、まずはそんなにネタバレせずに本作の魅力について書いてみます。


まず、何が一番良いかって、舞台設定は第二次大戦中のナチスドイツなのに、戦争とか反戦よりも、あくまでコメディ&少年の成長譚として描かれていることです。
爆笑というものではないけど、時々劇場内で私含め観客のぷっと吹き出す声や音楽にノる動きなんかがあって楽しく観れました。
オープニングからして、まるでビートルズのライブのようにヒトラーに熱狂する人々、ボーイスカウトにしか見えない軍事訓練など、題材の重さに見合わない爽快青春映画全開な演出でびっくりしました。

子供が主人公であり視点キャラということで、わざとこうした楽しげな描き方がされているんでしょうが、この時代背景でストレートに青春を描くことで、声高に「戦争反対!」とメッセージを叫ばれるよりもよほど観終わって反戦の気持ちが湧いてきましたからね。上手い。

映像も、そんな世界観を表現するためにカラフルで絵本のような暖かみとノスタルジーとアンティークっぽいくすみもあったりして、端的に言えばベリベリキュート💕です。
戦時中は嫌だけど、でもあの色使いの世界に住みてえ......。

そして、ヒトラー総統ご本人も主人公ジョジョの親友としてファニーにご登場します。
実は彼にはある秘密が......というのは見始めて4秒で明かされるのでわざわざ伏せることもないっすけど、ファニーでキュートでありながらも、時にびくっとするような差別的なことも言ったり、コミカルとシリアスのバランスが絶妙でした(演じているのが監督ご本人というのにもびっくり)。

そうした、コミカルさとシリアスさの融合というのが、作品全体の特徴にもなっています。
なんというか、コミカルとシリアスが切り替わるというのではなくて、コミカルだったりポップな場面の中に唐突にシリアスがスッと忍び込んでくるような。
コミカルなシーンや甘酸っぱいシーンから、突然悲劇に強制転換されるショック。
しかし、実際悲劇的な出来事など前触れもなく起こるものなのでしょう。ましてやここは戦時中。ファンタジックな世界観ではあってもこういうリアリティを時々ぶちかましてくるバランスの巧さにのめり込んでしまいました。



ストーリーの主軸になるのは少年ジョジョの成長。
詳しいことはあまり書くとネタバレになるのでアレですが、「ナチスドイツ」という特殊な舞台設定から描き出される「成長」というテーマのあまりの普遍性に驚かされます。
これはもっかい観ないとはっきり分かんないけど、たぶん「目」というモチーフが象徴的に使われてたり、他にも靴紐や蝶々など、印象的なモチーフによってテーマがすぅ〜っと染み入るように入ってきます。
また、シンプルにボーイ・ミーツ・ガールっぽさもあります。
トーマサイン・マッケンジーさん演じるガールの、年上の女の子感がすげえ堪らん......。いつもジョジョより一枚上手な、それでいてやっぱりまだ子供な、不安定さが透明すぎて、綺麗だ。


そんな2人を見守る周りの大人たちもまた魅力的です。
彼の母親を演じるのはスカーレット・ヨハンソン。めちゃくちゃ綺麗だし可愛いしやばい。画面に映るだけで眼福。その芯の強さ、常に忘れないユーモア、時に見せる弱さ、全てにキュンキュンしたThis is 恋。そのカッコいい生き様を見せてジョジョを育てる素敵すぎるママです。
そして、ちょっとアホっぽいけど実はかっこいい教官がサム・ロックウェル。あんま観たことないけど『プールサイド・デイズ』でもカッコいい変人をやってましたね。見せ場となるシーンがよすぎて悪寒がしました。
この2人の人気俳優がそれぞれ凄い存在感で、しかしジョジョの物語であることを邪魔することはなく名脇役として少年少女を支えているんですね。
そう、新鋭の若手俳優を支える実力派の名優たち。素晴らしい。

もちろん、主人公のジョジョくんは最高。
ナチスに傾倒しすぎて可愛げのない思想を振りかざすんですが、それがまた可愛い。絶妙に可愛さとキリッと感が同居した少年ですね。一発でファンになりました。ちなみにオフショットを見るとめちゃくちゃイケメン。今後が楽しみな俳優さんです。


そしてそして、ユーモアとシリアスとをくるくると切り替えながらキャラの魅力で引っ張ってくれる傑作でしたが、何と言ってもラストシーンが最高なんすよ。はっきり言ってこのラストシーンだけで更にお気に入り度がブチ上がりました。

......というのも、個人的にめちゃくちゃ好きな終わり方を、個人的にめちゃくちゃ好きな曲に乗せてやってくれてるからね。俺のために作ったようなラストです。
こことか賛否が分かれそうな気もするけど、私が観たいのはこれなんだ!と自信を持って言えます。

そんなわけで、今年の初映画館にして既に最高クラスの作品を観てしまったので嬉しさとこの感動を超えられるのかという不安とがありますが、今年もなるべく映画館に通いたいです。



......というわけで、ネタバレあんまなし感想は終わり。
以下では少しだけネタバレして語ってみたいと思います。
























はい、ネタバレ。



まずオープニングがアガりますよね。

ビートルズのアワナホーヂョーヘンのドイツ語版。
存在は知ってるけどあんま普段聴くことがないので耳慣れた声と演奏とメロディに耳慣れない言語が乗っている違和感に引き込まれました。それを、あの映像に乗せるセンスもまた素晴らしい。
あと、ビートルズの曲をそのまま使うのも凄いよね。許諾されるのに幾らかかるやら......。



で、本編ですが、戦時下という状況を利用した、ナチス信者のジョジョユダヤ人のエルサとの、なかなか究極なボーイ・ミーツ・ガールとして描かれてるのが素晴らしいっすね。
まさか2人の間に恋愛感情めいたものが湧いてくるなんて......まぁ、予想しなかったとは言わないけど、にしてもこの状況でこれはわりと予想外。
ジョジョが自分の気持ちに気付く場面の、お腹の中を蝶々が飛び回る演出がすごく好きです。
そして、街を歩くジョジョは低空飛行する蝶々を見つけます。それを追いかけて行くと......しかし、そこには首を縊った母親の足が。
ジョジョの甘酸っぱい恋心に、観客もジョジョ自身も気付いた矢先の出来事なので非常に衝撃的。にやにやしていたら急に真顔にさせられる落差が見事。

で、本作の1番のテーマってのはジョジョの成長なわけでして、それを象徴するものが「愛」。それは恋愛だけにとどまらず、友情や親子愛などまで含めた広いもの。
母親の死の場面は、ジョジョに愛の素晴らしさを語った彼女からの愛を、今度はジョジョが周りの人たち(たとえばエルサ)に振りまいていくんだという予兆とも思えて、より一層泣けるんですね。もちろん、スカヨハ演じる母親のキャラがあまりにも魅力的だったからこそですけどね。
ジョジョに対して自らの考えを押し付けることなく、あくまで愛の表現や自由に踊ることを実践して見せるだけという教育方針。カッコいいですよね。

で、そっからは、それまでヒトラー総統こそ神、ナチス最高!とか言ってたジョジョが、国に植え付けられたその思想に少しずつ疑問を抱き、自らの考え方を確立していくという、ある種アイデンティティ獲得の物語になっていくわけですね。エモい。

不器用さや照れもあってなかなかうまく出来なかったり、自分の気持ちに振り回されて酷い態度を取ってしまったりと、等身大の失敗を繰り返しながら、それでも徐々に(ジョジョだけに)エルサに心を開いていくのがまた可愛い。失敗も無視せず、それでも美しく描く真摯さに惚れました。

そんなこんなで、最後にビンタされるのにはあちゃちゃ〜となりましたが、その後でかかるエンディング曲でこれまでの全てが巨大な余韻の波となって押し寄せて、私の涙腺は決壊しました。

そう、エンディングは、ドイツ語版David Bowie「"Heroes"」
とにかくこの曲好きなんです。
この曲が使われてる映画というとまずはクリスチーネF。
また、最近では『ウォールフラワー』なんかもそうですね。あの作品ではこの曲の"Just for one day"を青春の短さに重ねていました。
それに比べると、本作ではこの曲の持つ皮肉とか刹那さを踏まえた上で、「ヒーローになれる」という前向きな部分が強調されて聴こえます。
じわじわと、音源よりも長いイントロが、静かに踊り始める2人の動きと同期して少しずつ大きな音になっていき、鳥肌が立ち、ボウイが歌い出した時にはもう泣いてました。

そして、サム・ロックウェル演じる大尉が、最初は小者感さえあったのに終盤で実は本作の影の主役と言っても良いくらいの活躍を見せてくれるのにも泣きました。
詳しくは描かれていませんが、恐らく彼はゲイで、また片目を失明した障害者でもあります。当時はそうしたマイノリティがどのように扱われていたことか......想像するしかないですが、きっと彼はプライドを殺して自分を出さないように生きてきたのだろうと思います。
そうやって虐げられてきた彼だからこそ、ゲシュタポ襲来のシーンでとっさにエルサを庇ったり、最後の見せ場であんな行動に出られたのでしょう。
それは、傷付けられたことを怨むのではなく、傷付いた分誰かに優しくできるんだというメッセージなんでしょうね。
エンディングテーマのHeroesは、きっとそんな彼に贈られた歌でもあるのでしょう。デヴィッド・ボウイもまた、性的マイノリティであり、片目がほとんど見えないオッドアイの持ち主でもありました。



他にも、母親の死のシーンなどで象徴的なモチーフとして「眼」というものが使われているようだったり、母親にパパが乗り移ったところは何だったのかとか、色々ともう一回観て確認したい部分は多いですが、とりあえず一回観た感想としてこんだけ置いておきます。
まぁとにかく傑作でした。はい。