偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

中町信『告発(accusation) 十和田湖・夏の日の記憶』

トクマの特選による「死の湖畔」三部作の第2弾。


夏の日の十和田湖で、松口という男がボートの転覆で死んだ。その直後、鹿角容子は崖からの転落死を遂げる。
3ヶ月後、墜落しゆく飛行機の中で、関係者の4人の女のうちの誰かが犯人を「告発」する遺書を書くが、3人は死亡し生き残った1人も記憶喪失に。
容子の夫で刑事の鹿角は、遺された4人の夫たちを調べ始め......。


冒頭、プロローグとしていきなり飛行機事故のシーンから始まるのがインパクトがあり惹きつけられますが、その後序盤は地味な展開でややかったるい。
しかし、事件の真相に気づいた人間から次々に口封じで殺されるというお馴染みの王道展開でまた盛り上がってきてそこからは一気に読めました。

著者の代名詞といえば「叙述トリック」ですが、前作と本作を読んだ限りでは叙述トリックによるサプライズとかよりも複雑に入り組んだ構成の意外さを重視した作風のように思われます。
本作でも、叙述かどうかは伏せますがメインのトリックが一つあるにはあるんですが、それは読んでてすぐに分かってしまうもの。でも、分かっても「それが事件とどう関係あんの??」が読みきれないままどんどん死者は増えていき、最後に隠されていた事件の真の構図が明かされ、そこにトリックの意味が組み込まれていくことでなるほどなぁと唸らされました。

エログロを排して表現の装飾も少なくさらっとした文章は読みやすく、著者の人柄の良さすら感じさせますが、ちょっと淡白でドラマチックさに欠ける気もしてしまいます。
しかし、トクマの特選としてインパクトのあるイラストの表紙が付与されることで、読後に表紙の彼女のことを想って、文章だけでは流していたであろう感慨に浸れます。これは令和の復刊レーベルの面目躍如。
そう思うと悪い意味で昭和のおじさん作家的なキャラの天神先生の扱いも結構現代的に感じられる気がする。

という感じで、凝った構成の素晴らしいミステリであり、復刊されることでドラマ的な味わいも増した良作でした。
やっぱりトクマの特選は最高だぜーこれからも楽しみだぜー全部買うしかないぜー(棒読み)。
トクマの特選のキャンペーンで図書カード貰っちゃったので宣伝しなきゃならないズラ。けけけ。

以下ネタバレ。







































天神先生の失語症に関しては、わざと分からせてるのか?というくらい分かりやすくはありますが、それが過去の発言への因果応報として描かれているあたりの仕込みが巧く、しかしザマァミロ的にはなってないところに上品さと優しさを感じます。
「松口を見殺しにした夫婦」と強調されることで「夫婦じゃない」のでは?というところも見えやすく、本作における「トリック」はどちらも早い段階で見破れたわけですが......。
それでも、「転覆事故」と「不倫の光景」がまるっきり入れ替わるような構図の騙りや、プロローグとエピローグに仕込まれた小ネタなど、メインのトリック以外にもアイデア満載なので脱帽。面白かったです。
作中では詳しく描かれていないけど、年上のエロ作家と結婚しつつ不倫をしていた彼女がああいう風にしか生きられなかったことの哀愁が表紙だけで匂い立ってきてすごい。