偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

土井善晴『一汁一菜でよいという提案』感想

料理研究家の土井先生による、料理本とも食文化論ともエッセイともつかないけどタイトル通り「一汁一菜」から和食文化を見直そうという提案の本です。


土井先生、テレビに出てるのを見てて、穏やかなんだけど時に痛烈な皮肉っぽいことも言うんだけど、そこにも優しさが感じられるから下品さがなくて、すげえ面白い人だなと思ってたんですよね。
そしたらこないだ本屋でこの本が文庫になってるのを見かけて、ついつい手に取ってしまった次第。
普段は決まった作家やジャンルの小説しか読まないので、こういう本屋での衝動買い自体久しぶりでしたが、衝動が奏功してめちゃくちゃ面白かった......というか良かったです。


とりあえず、文章がまず素敵なんです。
やっぱ人柄が表れてるのか、簡潔で分かりやすくもどこか暖かさのある、まさにテレビとかで見る土井先生のイメージそのもの。

そして本書の内容なのですが、先述の通り料理本のようにも読めるし、食文化論でもありエッセイでもあるという味わい深い本なんですよね。

「一汁一菜でよい」「料理に失敗なんてない」という言葉には共働き=共兼業主婦(夫)の私たち夫婦、感化されちゃいまして(笑)、「とりあえず味噌汁に色々ぶち込んどけばおかず!」ってなってます(身も蓋もない言い方をすればそんなような内容なんですが、土井先生の言葉はもっと上品)。
まじでこの人味噌汁になんでも入れるんすよね。いかに私のこれまでの味噌汁観が井の中の蛙だったかと啓蒙されました。
本書は厚めの紙を使った全ページフルカラー印刷で、土井先生が実際に作ったお味噌汁の写真なんかもたっぷり載ってて、見てるだけでお腹空くし味噌汁に色々ぶち込みたくなります!

さらに、和食という文化に関する料理研究家としての知識や見識を1人の家庭人としての感慨のような文章で丁寧に綴ってくれるので分かりやすくも先生の和食への想いに感動し、雑な生活をしてた自分を恥じたりさえしました。
食べることは生きること......分かってるつもりだったし、仏教育ちなので食べ物を大事にしてるつもりでもあったけど、それでも豊かすぎる現代社会の中でじっくりと向き合ってなかったなと反省。
なかなか全部実践は無理だけど、これからはせめて季節のものとかにも目を向けて、その日その日に作ったものを味わって食べようと思います。

また、昭和の食の風景を描くエッセイのようなパートもあって美しいものや人情があった時代への憧れを抱いてしまいます。もちろん、今の方が良くなったことだっていっぱいあるんだけど、ね。



とまぁそんな感じで、和食について知らなかったことを知れて純粋に楽しいのと、先生の人柄に癒やされるのと、実際に明日からの料理に本書で学んだ考え方が活かせるのとで、面白いし人生が変わる一冊でした。激オススメ。

具沢山の味噌汁作ってみた。