偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

藤本タツキ『さよなら絵梨』感想

『チェンソマン』の著者の読み切り中編。


余命短い母親の「私が死ぬまでを撮ってほしい」という願いで優太が作った映画は、文化祭でボロクソに言われ嘲笑われた。
母の死後、自殺しようとした優太は謎めいた少女絵梨に出逢う。映画が好きだという彼女とともに、もう一度映画を撮り始める優太だったが......。


映画を作るお話なんですが、1ページを縦に4等分した均一なコマ割りで映画のフィルムを模す発想がまずカッコよかった。
そしてそのせいで作中柵だけでなく本作そのものが一編の映画であるような感覚もあり、それが後半からのメタ的な展開に繋がっていくのもいい。

物語は母親を病気で失った主人公が死にゆく母の最期の時間を映画にして文化祭で上映するところからはじまります。
そこだけだといわゆる全米が泣いたみたいなお話かと思うけどもちろんそんなハズもなく、作中作のラストシーンに唖然とさせられ、呆れと嘲笑を全身に浴びた主人公がバッドエンドを迎える間際に出会う絵梨というミステリアスな少女......。
母親の死への冒涜だと責められる主人公の姿を通して、かえって母親の死を泣ける物語にしなければ許してくれないかれらの方が死を都合よく消費したがっているような構図も抉り出されていて凄え。

そしてそっからはどこまでが映画でどこからか現実か分からないような......しかしそれを「どこがどう」と考察させるのではなくて、映画だろうが現実だろうが画面に映る儚く美しい時間に低めの温度で陶酔するような独特のエモさがあって良かった......。
ローテンションのままで最後まで意外な展開だらけでぐわんぐわんと感情を振り回された先にあるあのラストシーンが目と脳裏に焼きついて離れませんでした。『イタリアン・チェーンソー』や『ホラー喰っちまったダ』などの素晴らしいC級クソホラー映画を見た後の混乱にも似た興奮をこんなところで体験できるとは。
これはますます『チェンソマン』を読まなきゃいけない......てかその前に著者の読み切り短編集とかが気になってきたぞ......。