偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

リーガルリリー「恋と戦争EP」感想


リーガルリリー、前から好きだったけど『Cとし生けるもの』でかなりハマり、こないだライブに行ってからは久しぶりに1つのバンドに対して恋に近い熱量でのめり込んでしまっている状況であります。
そして人間相手の恋と違ってバンドへの恋はぶつけどころがないのでブログに曲の感想を書くくらいしか出来ない、音楽のことなんて何もわからないのに......というもどかしさを抱えつつ、この苦しみを少しでも和らげるために(嗚呼、恋なんて苦しみでしかない!)全曲目指して書いていきます。


さて、本作は2022年8月リリースの4曲入りEP。ウクライナ戦争が起こって半年も経たず放たれた、当時の生々しい日記のような作品。
私もあの時には心を痛め怖いと思いつつも、遠くの出来事として受容している部分もあることへの後ろめたさも感じてモヤモヤした気持ちでいたので、同じような戸惑いの中にいながらそれに対して率直な感情を示してくれる本作にはかなり救われました。

もちろんそういうメッセージの面だけでなく曲自体が単純にどんどんカッコよくなっていて、このバンドを好きになって良かったと思わせてくれるしめちゃくちゃ聴きました。
あと、シングル恒例となったカバー枠はこれまでも私の好きな曲ばかりで俺が選んだんじゃないかと思ってましたが、今回ついにスピッツをカバーしてくれてて(しかも最高の選曲!)、それだけでもありがとうリーガルルリリー!愛してます......。

じゃあ曲の感想いきます......。


1.ノーワー

歌始まりの曲で、その歌い出しの歌詞が

君は全てを体に入れてトイレで吐いた。吐いた。

というもので、これまでポップソングの歌詞で「トイレで吐いた」なんて聴いたことがなかったので最初から強烈な印象を植え付けられました。
それから、

食べ残すこと許せなかった。

と続きます。
「食べ残す」というワードは初期のアンセムリッケンバッカー」にも出てきました。身近な人間の死を捉えたリッケンに対して、実際に戦争が起きてしまったこの現実世界を歌ったこの曲では食べ残すことを許せないという、悲壮な覚悟のようなものもあり、あの頃からの成長を感じさせます。知らないふりをしたほうが楽で、それでも食べ残すことが自分では許せないという、その感じ。

ノーワーノーワーのごり押しで
対立が始まって
不和のはじまりで
あまりに あまりに あまりに

「ノーワー」とは「No War」のことだと思いますが、戦争反対のゴリ押しで対立が始まるという視点もかなり衝撃的でした。「ノーワーノーワー」という表記にはお題目っぽさもあって、それを唱えていればそれで良いことしてるってことになるのか?とか、ImagineやWe are the worldがあっても戦争も差別もなくなってねえじゃんか!とか、色々考えさせられます。
極論本当に戦争がなくなれば「ノーワー」自体も消えるわけで、そうあってほしい気持ちと、それは難しいという絶望を突きつけられます。
そういう答えのない悩みの中でもがくような歌詞を、この疾走感のあるストレートなロックサウンドに乗せて歌ってくれるところが優しくて好きなんですよね。
あと、1サビの後のジャカッっていうギターはたぶんラジオ頭のCreepですよね?好き。アウトロのノイズっぽい音も好き。


2.明日戦争が起きるなら

2曲続けて歌始まりで、シリアスなトーンで「君の心臓の音に」というワードから始まるのにドキッとさせられます。ギターの短いフレーズと、ドラムが心臓の鼓動のような音を鳴らしているのも印象的で、胸が苦しくなります。
Aメロから直通でサビに入る構成も歌詞の不穏さや切実さに合っています。サビに入るところのバンドの音が好き。

明日戦争がおきるなら、こんなことで別れたりしなかった。

恋と戦争について並列で考えられるのはここがまだ平和だからで、どこかで戦争が起きていてもそれを引き合いに失恋の悲しみを考えてしまうことへの皮肉のようでもあるし、しかしもはやここでも戦争が起きないとは言い切れない感じもするのでリアルな肌感覚でもあるし、すごい。
そして、失恋ソングとして聴くといつになくストレートな歌詞になっていて切ないです。

とても大切なことだって、話しあえていたことだった。

失ってから気づく大切さみたいなことはもう言い古されたことではありますが、戦争との対比によって話し合えていたことの大切さがより際立ったり、喪失への想像力がより鋭敏になったりして、今一度好きな人を大切にしようと思わせてくれる素晴らしいラブソングになってると思います。


3.地球でつかまえて

前の曲のアウトロから間髪入れずに始まるイントロ。ちょっと不協和音っぽい雰囲気のある(音感ないから本当にそうかは分からないが)ギターのイントロがかっこいい。のどかなんだけど気持ち悪いみたいな雰囲気。
そして、歌い出しの「あ〜」が超可愛いんです!!好きになっちゃったかもしれない。
歌も含めて音的に3曲の中で1番遊んでる曲。「ないからなにからなにまで」「からから空っぽ」「こわいくらいこわいくらい」などの口に出して歌いたい語感の良さが気持ちよく、バンドの音も各パートで気持ちいいフレーズがいくつもあって、サウンド的には1番好きな曲っす。
1番のAメロのつんのめりそうになる変なリズムのドラムとか、サビ前のリズムとか、2Aのキメとか、気持ち悪さと気持ち良さのバランスがめちゃくちゃ気持ち良い。

景色はひとつの温もり抱えて 恋人に甘えたくなった
さびしくて さびしくもないから何から何までつかまえた

という歌い出しで、なんとなく悲しみや寂しさや自分の立っている地面の不確実さみたいなものについての歌のような雰囲気。

あなたを探していた 今夜も歩いていた
帰る場所なんて誰にもなくて 逃げる場所なんて誰にもなくて

「あなたを探していた」の「あなた」は、Cメロの「大切にできなかった〜」のところを見るとかつての恋人のことのようですが、なんとなくまだ見ぬ誰かとか、誰でもない誰かへの呼びかけのようにも感じます。

涙をそのまんまにしておく 拭うのをちょっとだけ待った
地球でつかまえて 地球でつかまえて
命をそのまんまにしておく 会えるのをちょっとだけ待った
わたしをつかまえて

「地球でつかまえて」という壮大なタイトルフレーズから、もう会えない人にも地球のどこかでいつか会えるかもという祈りを感じるのと同時に、どこかSFっぽさというか、少し不思議なイメージもあって、曲そのもののヘンテコな感じと相まって独特の雰囲気を出しています。
「わたしをつかまえて」というラストのフレーズも強くて、アウトロが短いのもあって完結せずに投げかけられるような、いい意味で消化不良の余韻があってめちゃくちゃいいです。このアウトロから次のスピッツのカバー「ジュテーム?」への流れもエモい。

あと、歌詞に「虫籠」「鳥籠」というワードが出てくるのがなんかセカオワを感じさせて好きです。たかはしさん、セカオワのこと好きすぎやん。


4.ジュテーム?

本作の発売前から、曲目リストを観てスピッツのカバーでこの曲が入ると知ってもう嬉しすぎて泣きそうになってましたが実際聴いてみたらめちゃくちゃよくて泣いたわホンマありがとなーリリーちゃん。
スピッツの曲ん中でも隠れた名曲ランキングベスト10に入るような、ファンには大人気でファン以外は絶対知らない曲で、これ選んでる時点でスピッツ好きすぎるでしょ俺も好きだよ気が合うね今度飲みに行こうよ?くらいまで思ってしまうくらい最高の選曲である。

原曲はアコギ弾き語り風に始まって間奏では二胡が入ってくるような、バンドサウンド感が薄い曲ですが、このカバーはしっとりした雰囲気はそのままにバンドの音でやってて嬉しすぎる。しかも、イントロのギターからして原曲とは違うのにめちゃくちゃスピッツっぽさを感じてすげえと思う。
また逆に「君がいるのはいけないことだ」みたいな歌詞はリーガルリリーにもありそうに感じて、私にはこの曲以上に良い「リーガルリリーがカバーするスピッツ」をイメージできない、それくらい最高な選曲なんです!

たかはしさんの歌もこの曲では偉大なスピッツによる名曲を慈しむように優しく穏やかに歌っていただいています。特に「バカだよな」の言い方が凄く良い。「適当な言葉が見つからない」のところのアレンジもリーガルリリーっぽくて良い。
そして、間奏が二胡の代わりに口笛になっているのも身近で可愛い感じがしてとても良いです。スピッツの原曲自体も大好きな曲なんですけど、正直バンド感が薄いので言ってしまえばこっちのカバーの方が好きなくらい。ごめんなさい、もうスピッツファンやめます......。

曲自体や歌詞についてはスピッツの『ハヤブサ』の感想で書いたので特に書きませんが、地に足ついた日常感があって切なくも優しいこの曲でこのEPが締めくくられることがまた素敵で、カバーまで含めて4曲で一つの作品として仕上げてくるところも好きすぎます。カバーもボーナストラック扱いにはしないんすよね。