偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

「パラドクス」ネタバレ考察という名の感想という名の自分語り

ジャケ写詐欺&邦題詐欺で見る前の想像と見た後の感じが微妙に違いましたが、なかなか面白かったです。っていうかジャケ写の人誰??邦題どーゆー意味??その辺りがマジ不可解です......。


パラドクス [DVD]

パラドクス [DVD]

製作年:2014
監督:イサーク・エズバン
出演:ウンベルト・ブスト、エルナン・メンドーサ

☆3.5点



というわけで、パッケージだけ見るとタイムループスリラーかと思いますが、実際はループするのは"場所"で、内容もスリラーというよりは哲学的な難解映画です。

ただ、難解とはいえ、ラストがかな〜〜り説明的なので、一回観ただけでもざっくりと内容は分かるようになっています。そんな、実はエンタメとしての分かりやすさもある作品ですので、「難解系を観たいけど全くわけがわからないのは嫌!」という私みたいな人にはオススメしたい作品です。

ちなみにこの作品のテーマは"人生"
以下ではそんな大きなテーマをどう描いているかについてネタバレ全開で書いてみます〜。
観た人だけに向けて、特に映画の内容の説明はせず考察だけを書き散らしますので観てない方はご近所のTSUTAYAまでお引き返しくださいませ......。









それでは、ネタバレ感想/考察を書いていきます。なお、本作を構成するメインの2つのパートを以下ではそれぞれ便宜的に「階段パート」「道路パート」と呼びます。


考察とはいってもややこしいことをうまく説明する自信がないので、分かりづらかったらごめんなさい......。
一応分かりやすくするために

①ループの構造
②ループ空間の正体
③エピローグ
④ループに負けない人生

の4章立てでお送りします。
ちなみに、一番言いたいのは④なのでそこまでは読み飛ばしてもらっても大丈夫です。←




①ループの構造

この作品で起こるループの流れはざっくりと以下の通りです。


1.ループ空間の発生には、「A.若い人」と「B.壮年の人」、そして「C."ある事件"によってその後死亡する人」の3人が最低限必要である
階段パート:A→弟、B→刑事、C→兄貴
道路パート:A→兄、B→継父、C→妹


2.Cの人の死に繋がる"ある事件"の後で謎の爆発音が鳴り、ループが始まる
階段パート:刑事が兄貴の足を撃つ
道路パート:継父が妹の吸入薬を落とす


3.ループは開始から35年間続き、「若い人」は「壮年の人」に、「壮年の人」は「老人」に加齢する


4.35年経過すると、老人は壮年の人にループの秘密を告げて死亡する。そして、壮年の人は出口を発見し、新たな「役柄」を得る


5.脱出した「壮年の人」が新たな「若い人」に接触し、新たなループ空間が発生する(→1に戻る)


つまり、

「円環構造になった空間」が、35年周期で若者→壮年→老人→死という形で構成員をロケット鉛筆状に押し出しながら無限に続く

という構成になっているのです(ややこしい!!)



②ループ空間の正体

老人が死ぬ場面では、このループ空間が何なのかも語られます。それを踏まえてこの空間の正体を考えていきます。

老人の話によると、

・ループ空間は現実世界とは別の空間であり、現実世界での人間活動のためのエネルギーを生成する場所である。

・ループ空間で若者が体を動かしているのは肉体的エネルギーを生成するため。若者の大切な人が死ぬのは感情的エネルギーを生成するためである

・ループ空間では若者がエネルギーを生成しながら壮年になり、壮年は抜け殻のように老人になっていく。これは現実世界で若者がエネルギッシュで幸せになり、老いるにつれて体力や気力を失い不幸になっていくためである

ということでした。

そうすると、ループ世界に入る時の爆発音は現実世界とループ世界が分岐する際のビッグバン的なものでしょうか。

ところで、本作の英題は「The Insident」と言います。Insidentとは「事件」「出来事」という意味で、それぞれのループ空間の起点で起こる出来事を表していると思います。このタイトルについては後ほど詳しく。



③エピローグ

ここまでくれば説明する必要もありませんが一応エピローグについても。
道路パートの兄が壮年となり、ループを抜けて新たなループの中でホテルマンとなります。
タキシードとウエディングドレス姿の新婚カップルを部屋に案内するためにエレベーターに乗ったホテルマン。エレベーターを降りたところで、彼は新郎に向けて蜂を放ちます。
「蜂を放つ」という行為が階段パートや道路パートにで起こる事件に比べて積極的・故意的なのが引っかかりますが、大きな何かに操られループを避けられないことを表しているのでしょうか。そう考えると、死の間際にループに抗おうとした老人たちの言葉も全て無力だったのだと分かり、やるせなさが増します......。

このループ空間では新婦が「若い人」、ホテルマンが「壮年の人」、新郎が「死ぬ人」の役割を与えられたのでしょう。
その後、ホテルマンは老人となって死に、新婦は「壮年」となって新たなループ空間(=エスカレーター地獄)に行きます。そして、そこで老婆となり死んでいく元新婦が、オープニングに映っていたウエディング・ババアなのでしょう。
ループ空間が更新されたのに彼女がウエディングドレス姿のままなのは気になりますが、そこは映画の説明上仕方のない妥協だったのだろうと思います。ドレスを着てなかったら誰もあのババアと新婦を結び付けられませんからね......。



④ループに負けない人生

というわけで、以上が大まかなこの映画の構造の説明です。
こうして見てみると、この作品のオチから受ける印象は、人生は目に見えない力によって不幸へと向かっていくものであるという至極悲観的なものになってしまいます。

そういうのもいいけどもうちょい楽しく生きようぜ!と思うので、以下は製作者の意図とは関係がないであろう私なりの解釈、もしくは甘ったれた夢想です。

作中ではループ世界のことを「エネルギー供給の場」と説明されていましたが、私たちの言動を作り上げる動力源は心です。つまり、私はループ世界=人間の内面世界なのではないかなぁなどと思ったわけです。

そして、タイトルの「The Insident」=「人生に関わる重大な出来事」と受け取るわけです。

すると、ループ世界は人生に関わる重大な出来事に心が囚われて抜け出せない状態と取れるわけです。
そうした心が過去の悲しみを繰り返してしまう中で、何もせずにいたら終盤で無音のダイジェストで流れる壮年の人の破滅人生を送ることになる。一方、悲しみの中でも前に進む努力をすれば、若者の幸せなダイジェストにもなれる、というメッセージだと考えるのは穿ち過ぎですかね?そうですよね。
ただ、私個人の見解として、この映画は個々の事例も特殊な設定も全てメタファーに過ぎず、単に人生の中でどんな人でも悲しみに見舞われるけど、それを乗り越えられるかどうかが大事だよ、という風にも読めるのではないかと思ったんです。

柄にもなく、そんなおセンチなことを思ってしまうのも、結局、私が何度も苦しかったあの時の記憶をループさせて抜け出せないからに相違ありません。とらわれびとのまま老いさらばえて惨めに死にたくはねえなと思わされる作品でした。