偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

道尾秀介『スケルトン・キー』感想

道尾秀介サイコパスを題材に描くエンタメスリラー。


サイコパスを自認する少年・坂木錠也くんが主人公。
恐怖を感じない性質を利用してゴシップ雑誌の追跡調査の仕事をしているが、ある日児童養護施設時代の友人から自身の出生の秘密を教えられ......。
という感じのお話です。


一度ミステリから足を洗った著者ですが、最近はその辺のこだわりも捨ててまたミステリをしょっちゅう書くようになってまして、本書もそんなミステリ寄りの作品の一つ。

良くも悪くも、ライトなノンストップサスペンスって感じ。
サイコパスという題材自体が(この程度の扱い方をする場合)軽いですが、サイコパスらしく余計な感情の入り込まない淡々とした一人称が読みやすさを増していて、まさに一気読み必至。
またサイコパスだけあって、いつものような心理描写は鳴りを潜め、とにかくどんどん出来事だけが進んでいく、ゲームみたいな、とも言えるくらいにエンタメ性に全振りした内容になってます。
ミステリとしても、分かりやすい驚きが一発ドーンと来る感じで、少し前の著者ならこういう意外性だけが取り沙汰されるような「ミステリ」は避けただろうなと思わされるものでした。
「オチだけで評価されたくない」というこだわりを捨てて、こういう作品も書くようになってくれたのはミステリファンとして嬉しい反面、もはや道尾秀介にそういう作品は期待していない......とも思ってしまうワガママ読者なのです。
とはいえ、(ネタバレ→)章の番号を示す数字の反転という綱渡りにして遊び心あふれる伏線なんかの巧さは流石だし、こういうのに気付いて悔しがらされてしまうあたり、どんでん返しの醍醐味分かってらっしゃるなぁ......と楽しませて貰いましたが。

という感じで、肩の力を抜いて書いたような、そして読者も肩の力を抜いて完全にエンタメとして読めば良い作品。普通にとても面白かったけど、他の作品の重厚さに比べると物足りない気はしてしまうかな、というところですね。