偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

相沢沙呼『Invert 城塚翡翠倒叙集』感想

ミステリランキング五冠とかゆって話題になった『medium』の続編。本作の方もすでに超話題作となっていて、最初は文庫待つつもりだったけど周りが全員読んでるので読んでしまいました。


さて、本作ですが、前作『medium』の結末が前提の、もはや存在が前作のネタバレみたいな続編なので、前作を読んでいない方はまず前作を読んでいただきたいと思います。

そのため感想を書くのも難しくなってきますが、まずは前作のネタバレも今作のネタバレも無しで少しだけ。


本作はタイトル通り倒叙をテーマとした連作中編集となっています。
そして、著者は倒叙の面白さをなんとか世に広めよう!という使命感を持っているらしく、「犯人が最初から分かってるのに何が面白いの?」と思っちゃう読者にも分かりやすいように、「読者への挑戦」が各話で挟まれます。
これがあることによって、犯人は分かっている、じゃあ後は何を推理すれば良いのか?という面白さの要が見えやすくなって、犯人が分かってても面白いミステリは作れるんだということを教えてくれます。
また、各話の犯人特定のロジックも、(解けなかった私が言うことじゃないけど)あまり難しすぎず、読者もじっくり考えれば解けそうなレベルに設定されていて、解決編の前にちょっと立ち止まって考える楽しみ。それが当たってて喜んだり外れてて悔しがったりする、"推理"小説らしい楽しみ方をもう一度我々に提示してくれます。

一方で、ときおり著者が主人公に憑依して急に読者への暴言を吐き始めるあたりも面白く、著者にとって初の殺人が起こるミステリであり、出世作でもある本シリーズが良いガス抜きになってそうで微笑ましく思います(笑)。

また、各編はクロースアップマジックのように地味ながらシンプルにミステリの醍醐味を楽しめるものでありつつ、最後まで読むとイリュージョンに変わってしまうあたりも、たしかに「全てが、反転」のコピーに恥じない作品に仕上がってます。

また、翡翠ちゃんの可愛さもパワーアップ!
前作で彼女に夢中になった我々は、本作でもまたその魅力にバチコンとやられちゃうわけですね......。

って感じで、前作と比べてどうこうみたいなのは出てきちゃうとは思いますが、前作が楽しめた人なら今作もかなり楽しめるんじゃないかと思います。


それでは、ここからは前作のネタバレだけ有り、本作のネタバレは無しの感想コーナーに移ります。
前作未読の方はご注意を......。


































































































というわけで、前作のネタバレありコーナーですが、とりあえずここまで我慢してたので一言叫ばせてください。

すぅ〜っ......

翡翠ぶん殴りてえぇぇぇぇ!!!!!


ふぅ......。
そうなんすよね。前作では翡翠ちゃんの「可愛いは作れる!」自体が最大のどんでん返しだったからギリギリバレない程度のあざとさで済んでたんですけど、今作に至ってはもう著者も開き直ってあざといを通り越してただウザいだけのいっそギャグみたいなクソ女として描いてくれているので、読みながらガチでイライラしちゃって全然読み進められませんでした。なんだよ「はわわわ」って!やりすぎです!
そんな振り切ったぶりっ子の翡翠ちゃんを犯人の立場から見ることになるわけですが、その犯人の方も第1話は絵に描いたような童貞なのが第2話以降はだんだんとレベルアップしていき、ぶりっ子を見破ったりもして、丁々発止のバトルを繰り広げるのも本書の楽しみの一つかと思います。
特に第2話の犯人にはかなりなところ同情できる部分があるので、翡翠ちゃんがめちゃくちゃ憎たらしく感じます。それだけに、戦いの後、2人が腹を割って話す場面は印象的でした。

そして、本書の半分ほどを占めるメインコンテンツの第3話では、翡翠ちゃんが元刑事の職業探偵という強敵と対峙するわけですが、これまたネタバレなしにはなかなか何も言えないので、以下では本書『Invert』のネタバレも込みでの感想を書いていきます。















































































というわけで、いんばーとネタバレ感想です。
とはいえ既にここまでで一番言いたいこと(=翡翠ちゃんうぜえ)は言ったのでもうあまり書くことも残ってないですが。

とりあえず、今作も前作とほぼ同じ、ナメてた翡翠ちゃんが実はヤバいやつだった系トリックなわけですが、そこに半叙述トリックでもある入れ替わりトリックが絡まることで簡単に騙されてしまうのはまさにイリュージョン。
雲野パートが三人称雲野視点なので微妙にずるい気もしてしまうものの、こっちで視点人物による誤認を描き、真パートで読者だけを誤認させる真実を描くことのズレで騙すってのは上手いとしか言えないです。
やはり手法はシンプルながら見せ方で騙す、奇術師らしい大どんでん返し。

作中で言及されるマジックの繰り返し(てか酉乃先生やないか!?)をそのまま使った、連作としての繰り返し、そしてシリーズとしての繰り返しを踏まえた大技!
読み始めた当初は、中編集だし正直シリーズ的にはオマケみたいなものなのかもと思っていたのですが、なんのなんのガッツリ続編だしガッツリ反転したし、楽しかったです。

翡翠ちゃんシリーズの長編もいずれは出そうで楽しみですが、それとは別に酉乃さんらしき人が本作に出てきたということはあっちのシリーズも......なんて期待もしてしまいますね。