幼少期、初めての映画館で観た「地上最大のショウ」。その衝撃がきっかけで、サミー・フェイブルマンは友達と映画を作るようになり、やがて映画監督を志すようになる。
『激突!』から50年が経って作られた、スピルバーグ監督の自伝的作品。
自身を投影したような主人公のサミーが映画と出会い、両親の不和や学校でのイジメなどに直面しながらも映画の力で乗り越えていく感動の青春ドラマ......と言っても筋立て的にはそう外れていないんだけど、どうもそう単純な話でもなさそうで......。
冒頭、サミーが初めて映画館に行く場面で理系の研究者である父親が「映画とは1秒に24コマの画像をうんぬん」と物理的な意味で「映画とは何か?」を説明するセリフから物語が始まります。
しかし、初めて観た映画は1秒に24コマの写真を繋げて動いているように見せただけの装置などではなく、夢に見て飛び起きてしまうほどの衝撃的な体験でした。
そこからサミーは妹たちを役者に使って自分でも映像を撮るようになり、学校に入ると友達と映画作りをするようになっていきます。この辺は低予算ながら伝説的な『激突!』などを撮ったスピルバーグのアイデア力の発露が見られて楽しく、映画を作ること自体をただただ楽しんでいて観てるこっちも楽しくなってしまいます。
しかし、中盤からは映画を作ったことによって起こるつらい出来事も描かれるようになります。
映画は撮るつもりのなかったものも映してしまう、映画は意図とは違った受け取り方もされ得る、映画は真実ではない......。
てっきり「映画サイコー夢いっぱいイエーッ!!」みたいなノリの話だと思っていたら、そういう映画の功罪というか映画が持つ暴力性のようなものまでを描き出し、それに気付きながらも作るしかないという映画監督の(そして全ての芸術家の)業やエゴが鋭利に抉り出されていてヒリヒリしました。
また、本作は主人公サミーの物語であるのと同時に彼の両親の物語でもあります。
彼の母親を演じるのはミシェル・ウィリアムズ、父親はポール・ダノ。2人とも単純に顔がめちゃくちゃ好きなので俺得なキャスティングでした。というか、2人とも私に多大なる影響を与えた恋愛映画で主役をやってたので、あの2人がご両親か〜と謎の感慨がありました。
芸術家の母と科学者の父が関係を悪化させながらもお互いへの理解とリスペクトは失わない感じが尊くもつらい。どちらも欠点はあるけとどちらも悪くないというか共感できるように描かれているのでつらいです。終盤で父が母との関係性を表す一言がとても印象的でした。
そして、ラストのあのカメオ出演も凄え。一応伏せるけどあんな凄え人があんな凄え役で出るのか!と。映画史に詳しくないのであの人が出てくるのにどういう意味があるのかはいまいち掴みきれませんが、思想的にはやや偏っていながら芸術家としては凄えっていう点で「映画の功罪」を象徴しているのかな、と。
ラストカットも粋なジョークのようでありつつ「この物語を信じるな」という警告のようでもあり、どこか煙に巻かれたような変な後味が印象深いです。
とりあえず、スピルバーグの観てないやつをもっと観たいと思ったのとともに、本作に出てきたあの映画やあの映画も観なきゃあかんわと思いました。