偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

相沢沙呼『マツリカ・マハリタ』感想

『Invert』を読んだついでみたいな感じで、今まで積んでいた相沢沙呼作品を読むことにしました。
なんだかんだこの人の作品はほぼほぼ買ってるし、本作を読んだらやっぱり好きだなぁと惚れ直しました。
話題になってる城塚翡翠シリーズも良いんだけど、あれは相沢作品の中でもあらゆる意味で異色作なので、やっぱしこの辺の「らしい」作品ももっと売れてほしいなと思います。


で、本作ですが、廃墟に住み着く身元不明の美少女"マツリカさん"と、その忠実な犬の柴山くんを描いたシリーズの2作目。
前作『マツリカ・マジョルカ』を読んだのが遥か遠い昔のことなので、正直あんまりキャラとか覚えてなかったけど読み始めたらなんとなく思い出しました。
そんな感じなので前作と比べてどうこうとかも言えないけど、朧げな印象ではたぶん本作の方がより面白くなってる気がします。

一編ずつがそれぞれ異なる人物の異なる悩みをクローズアップする青春小説であり、地味ながらマジシャンらしい魅せ方の巧さが光る日常の謎ミステリでもある。そして、最終話まで読むと「1年生のりかこさん」という学校の怪談を中心とする長編にもなる......という盛りだくさんな一冊。
もちろん、マツリカさんのあり得へんエロさと、根暗陰キャ童貞クソ野郎の分際で女に囲まれてる柴山のダメっぷりも楽しく、面白かったです。

以下各話の感想。



「落英インフェリア」


写真部の部室から突然逃げ出した仮入部生がそのまま消失してしまう。クラス名簿や集合写真を見ても見つからない彼女は、校内で噂の幽霊「一年生のりかこさん」なのか......?

どうでもいいけどとりあえず「松本まりか」さんが出てきて偶然なのか相沢先生がファンなのかなんなのか気になります。偶然かぶるにしては変わった名前だけどあり得ないとも言い切れない微妙なラインなので......。

それはさておき、久々にこのシリーズ読みましたがそういえば柴山くんこんな感じだったわというウジウジっぷり。カースト的には私の高校時代とほぼ同じ境遇なので同族嫌悪的な鬱陶しさと共感とを同時に感じてしまい、好きにはなれないというか嫌いだけど応援したくなってしまうキャラっすよね。

それもさておき、消失事件については、細かいファクターを組み合わせていくことによって不可解な状況が現れるというのがよく出来ていて、さらに物理と心理それぞれのトリックが物語としてのテーマそのものになるあたりも綺麗です。



「心霊ディテクティブ」


小西さんが撮影会で撮った写真が全て黒く感光してしまった。しかし、フィルムは鍵のかかった部室に置かれ、誰かが細工できる機会はなく......。

地味だし使い古されたトリックではあるものの、ただ一点(ネタバレ→)「密室殺フィルム事件」というミスリードだけで簡単に欺かれてしまったので悔しいです。
一言では言い切れない動機も印象的。犯人がしたことは良くないことだけど、私からしたらそれでもやっぱり眩しいような、青春ですね。
そしてニヤッとしちゃうオチも素敵でした。

それと、マツリカさんエロすぎませんか?



「墜落インビジブル


マツリカさんの指令で休日の教室のロッカーに潜んでいた柴山。そこへ2人の女の子が入ってきて大ピンチ......と思いきや、彼女らのうちの1人は柴山の視線をくぐり抜けて消失してしまい......。

タイトルの意味合いも起こる現象も1話目と似ていますが、トリックは違ったので安心しました。
それよりなにより、マツリカさんによって変態みたいなことをさせられる柴山が面白すぎて終始ニヤニヤしながら読んでしまいました。

しかし本筋のインビジブル事件の方はこれまでの2篇とはまた違った方向でのシリアスさがあり、シンプルすぎて盲点のトリックとセットになって印象に残ります。

それと、マツリカさんエロすぎませんか?




「おわかれソリチュード」


マツリカさんがいなくなった。
廃墟には「松本梨香子」の生徒手帳が残されていた。戸惑い悲しむ柴山の元に、さらに「りかこさん」の情報が集まり......。

本書全体に名前の出ていた「1年生のりかこさん」の謎に迫りつつ、柴山の前から突如消えてしまったマツリカさんの秘密にも迫っていく最終話。

最終話に相応しく、マツリカさんと柴犬自身の物語になっていて、シリアスな空気感も増し増しです。
ああなること自体は分かりきってはいるものの、それでも大きな2つの心理的盲点(ネタバレ→)高梨くんの廃墟レポートと、先生の「松本さんの写真」発言の突き方が巧く、りかこさんの正体も意外でありながら明かされてみれば伏線の多さに唸らされます。そう、相沢沙呼ミステリの一番の魅力はやっぱり覚えやすくて量が多い伏線っすよね。これがそのまま『medium』のヒットにも繋がってる気がします。

そして、全ての真相が明かされることで立ち現れる(ネタバレ→)マツリカさんと松本梨香子の百合的関係性に萌えるとともに、柴犬とマツリカさんの関係性も微妙に変化していきそうな余韻が良いっすね。

本作の後しばらく間が空いてからの次作は非常に評判もいいので続けて読みます!楽しみです!