偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

若者のすべて

フジファブリックのかの名曲......ではなく、ルキノ・ヴィスコンティ監督、アラン・ドロン主演の1960年のモノクロ映画です。



若者のすべて ルキーノ・ヴィスコンティ Blu-ray

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イタリア南部の田舎からミラノにやってきた母親と五人兄弟の一家。
息子たちはめいめい働きに出て、家族の再出発と思いきや、一人の女の登場でどんどん破滅へ向かっていくっていうお話。



もうね、何を書いていいのか分かんないっすわ。
しばらーく前に見て、熱のこもった感想を書こうと思っていたのですが、何書けばいいか分からんまま放置してました。
もうどうしようもないので適当に書きます。



本作は五人の兄弟の名前が上から順に冠された五つの章から成り立っています。話自体はずっと続いているのですが、章ごとに少しずつ焦点の当たるキャラが変わっていって兄弟それぞれの人生が立体的に描き出されていくわけです。

面白いのが、当たり前ですが彼らそれぞれが全然違った個性や生き方を体現していて、男の生き様の見本市のようになっているところ。

まず長兄のヴィンチェンツォはちゃっかりすぐに戦線離脱という一番羨ましい立ち回り。
最初は彼が主役なのかと思いましたがあっさり片付いて笑いました。やっぱり人間こうあるべきですよね。

そして、次男のシモーネと三男のロッコこそが本作の主役です。
彼らはそれぞれ人間の俗性と聖性を体現しています。言い換えれば、次男はまさにゲスの極み、三男はガンジーも真っ青の聖人ってとこですかね。2人はともにボクシングの道に進み、ともにナディアという娼婦に恋します。
しかしクズの次男は結局どちらも三男に敗れる。そしてクズのクズたる所以であるところの醜い嫉妬が始まるわけですが......。
......つらいんですよねぇ。次男のシモーネが嫉妬の果てに引き起こした事件もつらくて、巻き込まれた人たちがかわいそうだし、胸糞悪すぎて昼飯の味噌煮込みうどんも喉を通りませんでしたよ。でも、そこまで追い込まれたシモーネのことを考えると、自分は産まれながらにしてアラン・ドロンじゃないのに弟はアラン・ドロンであることのつらさも感じずにはいられません。だからといってあんなことをしたのは最低だし死ねよこのクーズ!と見てる私は思うのですが......。
ここでなぜに優しいアラン・ドロン!じゃなかった三男ロッコ
彼のあまりに聖人すぎる態度は、しかし天性のクズであるシモーネには眩しすぎたのです。ああ、兄弟という関係性のなんたる悲劇か!!というか冷静に考えたらロッコも聖人すぎてクソ野郎なんですよね!ある意味シモーネ以上に......。
まぁとにかく、この聖と俗の対照的な次男三男のあれこれが本作の本筋といって良いと思います。
結局この2人は両極端でいながらどっちも最低なやつらで、シモーネのクズっぷりには吐き気がするし、ロッコのいい子ちゃんぶりにも反吐が出るわけですが、我々一般ピーポーは彼ら両方の性質を少しずつ併せ持っているものだと思うので、どちらにも部分部分で共感できてしまうわけです。ああ、しんど。

ただ、そこで終わらないのが救いといえば救いなのか、四男のチーロは我々一般ピーポーが最も共感しやすく、最も正しいと思う生き方をします。そして、五男のルーカの章が物語を締めくくります。

また、全編に渡って存在感を示しているのが彼らの母親。正直なんやこのクソババァはってしゅうしおもってましたが、

「私が悪かったのかね。家族で都会に出てきたのが。嫁いで25年間そのことばかり考えていたのに」

という言葉にはハッとさせられます。家族のために良かれと思って妄執のように念じ続けていたことが、実現されると悲劇の火種となってしまったこの残酷さ......。この言葉を聞いたら、ババァにも一抹の哀れみを感じずに入られませんでしたよね。



というわけで、3時間に及ぶ大作でありながら全編に渡ってここまでのエモがあり得るのかってくらいにエモくって見た後疲れましたが、人生というものについて描かれた超弩級の傑作でした。あまりのことに何書けばいいか分からなくてこんなグダグダになったことをお許しください。