偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ラストタンゴ・イン・パリ(1972)


妻を失った中年男ポールと、婚約者がいながらも彼との関係に迷いを抱く若い女性ジャンヌ。2人はアパートの空き部屋で偶然出会い、その部屋を借りて名前も素性も明かさないセックスだけの関係を結ぶが......。



当時としては過激な性描写(というよりそこに宗教を絡めていること)が問題となって裁判沙汰になったり、主役の2人を演じる役者がコロコロ変わった末に当時落ち目だったらしいマーロン・ブランドと無名の新人のマリア・シュナイダーに決まったとか、色々と裏話もありますがそれも含めて面白かったです。

とりあえず、現実的な側面を何も知らない人と部屋に閉じ籠ってただセックスするという状況はまぁ正直羨ましくて最初は普通にえっちな気持ちで観てました。
しかしだんだん2人が現実逃避してるだけだってことがはっきりしてくると、そのノーフューチャーで退廃的な関係により引き込まれてしまいます。
身体だけの関係のことを「オトナの関係」みたいに言うけど、彼らを観ているとむしろ現実の人生にイヤイヤしてる子供のようで、そういう精神性は私にも多分にあるのでかなり共感しちゃうというか、この状況だったらこうなりそうなリアリティが感じられてよかったです......。
しかし、女の方は将来から逃げているから向き合う覚悟ができれば進んでいけるけど、男の方は過去から逃げているからこの場所での夢が終わってしまえばもう何もない......というすれ違いからの結末は、滑稽で恐ろしく強烈に悲しくて最高でした......。

映像もさすがに綺麗でした。
2人が情事を重ねる部屋のオレンジっぽい色合いが何かこうこの世の外にある場所のようでとても良かったです。
そんな光景とどうしようもない現実のラストの対比もエグくて面白かったです!