偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

深緑野分『戦場のコックたち』感想

『オーブランの少女』に続く2作目の著作。

第二次大戦下、ナチス掃討のためにフランスに上陸した米軍部隊。
コック兵の主人公たちが戦場で出会う謎を描いた5話からなる連作形式の長編です。


正直、最初の2話は結構読みづらくてとろとろゆっくり読んでしまいました。
なんせ外国の人名を覚えるのだけでも大変な上に戦争の話なので何とか舞台だのどこどこ作戦だのとややこしい名詞が飛び交い、アホな私には主人公たちがどこで何をしているのかもぼんやりとしか把握できないような状態でした。
一応最初の2話は戦場における日常の謎になってて、それぞれ不要なパラシュートを集める兵士の謎、不味すぎる粉末卵が大量に盗まれる謎という戦場ならてわはのもので好奇心をそそられ、その解決では特殊な状況でも変わらぬ人の心を思わされたりして味わい深いです。

ただ、3話目くらいからは、起こる"事件"も人間の死になってきたりして、戦局が差し迫ってくるのと共に物語も俄然シリアスさを増してギアが上がるような感覚になります。
そして戦場においては人間の死なんてのはそれこそ1番の"日常"に過ぎず、前半のいわゆる「日常の謎」よりも登場人物たちから関心を持たれなくなっていきます。
戦時という状況下で「祈りの形に手を組んだ"自殺"死体」や「雪壕の周りを徘徊する幽霊」などというどうでもいいことに首を突っ込む主人公たちは一部の仲間からは忌避され、やがてかけがえのない戦友同士の間に憎悪と呼べるほどの亀裂が入っていくのがつらいです。

そして、最終話にかけての流れはもう読んでて苦しいんだけど一気に読んでしまいました。
個人的な倫理観と、兵士の任務として人を殺すこととの間で引き裂かれていってしまう主人公たちを見ているのがつらい。戦場で起こるあまりにも残酷な出来事、しかしそれを行なっているのも人間で、彼らも平時には家族思いだったりするのかもしれなくて......。
それでも、憎悪と殺し合いの中に綺麗事になりすぎない微かな希望を見せてくれるのがとても良かったです。


エピローグの舞台があれなのも凄い。