偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

パンズ・ラビリンス


ギレルモデルトロのアカデミー賞受賞以前のダークファンタジー大作。アカデミー受賞の『シェイプ・オブ・ウォーター』の片鱗が見られる作品でもあります。


私は今回が2回目の鑑賞。かなり前に先輩の家で観たんですが久々に見返しました。
大人になってから観ると本作に込められたメッセージもなんとなく分かるようになってすげえ作品だったんだなと思い知りました。
「ファンタジー」という言葉は時に「現実的じゃない」という意味で揶揄する言い方もされがちですが、本作はファンタジーが酷い現実に立ち向かうために必要なものだと教えてくれます。


舞台は戦時下のスペイン。
主人公は父親を亡くした少女オフィーリア。
身重の母は権力のメタファーのような横暴な大尉に嫁ぐことになる。
つらい生活の中で、彼女は妖精のパンに出会い、自らが地下の王国の王女だと知る。パンはオフィーリアに、王国に戻るための三つの試練を与え......というあらすじです。

主人公オフィーリアの新しい父親である大尉は、権力、暴力、あらゆる差別の権化のような男。本作の過半を占めているだろう現実パートは全て彼が支配していて、そういう意味で彼がもう1人の主役と言えるかもしれません。
一方メイン主人公のオフィーリアは子供であり女でありオタクであるという弱者代表選手のような存在で、この2人の対立......いや、対立なんてできず虫ケラのように扱われる様は現代も含む世の中そのもの。

そんな世界の中で、パンの王国のファンタジーは、世界から逃げるための避難所であり、身を守る防護服でもあります。
後味が悪いと言われることも多い本作ですが、悪いのは後味ではなくこの世界であって、この結末は残酷な世界に生きるオフィーリアへの考えうる限り最も優しい結末なんじゃないかと思います。

また、監督の趣味である特殊造形みたいなのには個人的にはあまり惹かれないのですが、それでも手の目男のインパクトはやっぱすげえし、ラストのあの光景とかも印象的でしたね。

以下ネタバレで少しだけ。














































































ネタバレ感想。


パンの王国の物語は全てオフィーリアの妄想。それは悲しいようでもありますが、物語が現実に殺されないための力になるという希望を語っていると捉えました。
葡萄を食べちゃったりするところは、現実逃避に対する後ろめたさというか、物語から自立しなければ、というオフィーリアの気持ちを表したものなのかな、と思います。
この腐った現実の世界ではどうしたってオフィーリアは幸せになれるはずもなく、でも物語の力を借りることで、現実世界では死んでも最後に幸せになれた、というのはこの最悪の状況で考え得る最高のハッピーエンドなのではないでしょうか。
オフィーリアが大尉をやっつけてめでたし!みたいな、強者のルールに則った安易な終わり方ではなく、弱者が弱者ゆえの想像力という力でハッピーエンドを掴み取るというのがとても良かったと思います。
また、メルセデスたちまともな大人がその分汚れ仕事を引き受けているのもカッコいい。

一方で大尉にも同情できる余地を残しているのも『シェイプ〜』と繋がるところ。
彼は彼で父親(=男らしさ)の呪縛を受けていた人生で、最後にそのことが明かされることで憐れみを誘うようになってます。
それでも、こういう人間になってしまった以上は死んでもらうしかねえよな、とは思っちゃう。

この点、『シェイプ〜』の方がもう少し悪役に愛嬌もあり、悪役が救われてもいるのでより全方位に優しい感じはします。
またキャラクターの属性も『シェイプ〜』の方は世の中の差別の見本市のようになっていてより分かりやすいというか、外向けな感じはします。
本作ではまだ少し開けていない感じがするけど、その暗さが魅力でもあり、こっちはこっちでとても良かったです。