偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

秋刀魚の味(1962)


観たことなかった小津安二郎を初めて観てみました。本作は遺作らしく、他の観てないから分からんけど小津の集大成的な作品でもありつつこれまでの作品と風合いの違う部分もあるらしく、ともあれ良かったんで他のも観てみたいと思いました。



妻に先立たれた初老の父親・平山は、友人やかつての恩師との関わりを通して、24歳でいまだ結婚の話のない娘の路子の結婚について真剣に考えるようになり......。

ストーリーは主人公の平山という男と娘の路子を軸に、平山の長男とその嫁、未婚の次男、平山の幼馴染トリオや同窓会で再会した"瓢箪"先生などの人物の関わり合いを淡々と描いていくお話となっています。
今観ると結婚観が古かったりはするものの、移ろい行く人生の不安や孤独というテーマは普遍的。そしてそれを暖かく時にユーモラスに描いているのが素敵です。
また、男性優位な価値観がまだ強く残る時代ではあるものの、それに対して女たちが表情の演技で困惑や息苦しさや虚無感を語っているのも印象的でした。

あと、やっぱ映像が良いですね。
固定カメラでややローアングルで正面からシンメトリックに撮るオンリーなんだけど、全部の画面がなんか良い。
意外と観たことないローアングルが、その場に同席してるような臨場感がありつつちょっと見下ろされてるような落ち着かなさも感じて面白かった。
そして座敷の居酒屋からトリスバーまで和洋折衷の東京の光景も今観るとめちゃ昭和レトロって感じで新鮮。
たぶんほとんどのシーンがセットで撮られているっぽくて、リアルなのにどこか作り物めいてもいる不思議な世界が堪能できました。

あと、めっちゃ飲み食いしてるわりにタイトルの秋刀魚が別に出てこないのが不思議。でも秋刀魚みたいに大人になるにつれて味が分かるようになりそうで、何十年後かにまたしみじみと見返したい映画でした。