偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

森川智喜『キャットフード』感想

京大ミス研出身の著者の、講談社BOXからのデビュー作。大人気の三途川理シリーズの第1作。



化け猫のプルートは人肉キャットフード製造のため、孤島のコテージに擬態した人肉ミンチ工場に4人の高校生を招く。
しかし、その中の誰かは人間に化けた化け猫のウィリーだった......。


やっぱり遊戯的な本格ミステリに大事なのはワクワクだと思うんですよね。
その点で本作は、巻頭の登場人物一覧と登場ネコ一覧、および綺麗すぎてどうなってるのか分からない手書きの見取り図からしてもうワクワクしちゃいます。そして、エピグラフとしてエラリー・クイーンが引用されつつ、「注文の多い料理店」の注意書きを通って物語本編に足を踏み入れる、このワクワクですよ。


そして本編の内容はというと、化け猫が人を食おうとするというファンタジックでメルヘンチックでブラックな設定が魅力的すぎる特殊設定ミステリです。

とりあえず、もうこの設定を考えた時点で半分は作者の勝ちなんですよね。
基本ルールは①化け猫はある程度は何にでも化けられる②猫同士の殺傷は猫の法律に触れるので避けるべし、という2つくらい。
それを、4人の若者のうち、誰か分からない1匹の猫を殺さずに他の3人を新鮮なミンチにしたいプルート側と、3人の人間を、特に世話をしてくれている少女は必ず助けたいウィリー側の攻防として描いているわけです。
それがウィリーを主役に描かれることで、敵からのカマ掛けをどうかわすかという倒叙もののような面白さになってます。

また、中盤からは名探偵・三途川理さんもプルート陣営から参戦し、より頭脳戦らしい空気が濃くなっていきます。
文庫で300ページもない短さながら、この設定でやれるアイデアがこれでもかと詰め込まれていて、常に何かしら知的興奮があるのがすごい。
ゲームに徹するためにも、もちろん人間は描いてないんだけど、しかしキャラは立ってるからすいすい〜っと読めるんですよね。まぁ金田と柏は空気以下の存在感でしたけど......。

後半に向かうにつれて頭脳戦は白熱していき、「えっ!?」っていうラスト......からの、まぁそんなこったろうとは思ってたけど、な種明かしも、でもここまでやってもらわなきゃって感じなので最高でした。
人間は描いてないとはいえ、上質なゲームが終わった後の光景にはそれだけで得も言われないエモみがありました。
めちゃくちゃ面白かったので他の作品も読んでみます!