偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

パーム・スプリングス(2020)


砂漠のリゾート、パーム・スプリングスで妹の結婚式に出ながら浮かない顔のサラ。お調子者のナイルズといい雰囲気に鳴るが、そこでナイルズが謎の男に襲撃され、洞窟へ逃げ込むと今日の朝へと戻っていた。実はナイルズはタイムリープに閉じ込められており、一緒に洞窟に入ったことでサラもまた時の囚人となってしまう。2人きりで過ごす同じ日々をそれなりに楽しむサラだったが、やがて時が進まないことに耐えられなくなり......。


公開時からそこそこ話題になってて気になってた作品。
低予算ながら独特の空気感とストーリーの面白さでかなり満足できる良作でした。

まず2人で一緒にタイムリープに閉じ込められるという設定が良いですね。
だいたいタイムリープブコメって男がタイムリープ能力を持っててそれを駆使して女を落とすような話ばっかな気がするのでありそうでなかった新鮮さ。
お調子者の男と極度のツンデレの女という凸凹名コンビの2人ともが主人公になってて良かったです。
心地よい時間での停滞を望む男と、前に進みたい女の齟齬みたいなのも身につまされるなぁ。

序盤はわざとわかりづらく作られていて、そこからたんだん状況が見えてくるという過程が謎解きみたいで楽しいです。
そしてある程度状況が見えてきてからは毎日がバカンス!という感じで好き勝手なことをしていくんですが、この辺ちょっとダレるのも同じ日が繰り返される停滞の表現として観れてしまうからずるいですよね。
しかしそんな中でも時々真剣な話をしたり、思わぬ展開や伏線の回収があったりして、ゆったりしてても面白さは保ってるからすごい。
バーで踊るシーンと、J・K・シモンズ演じるロイっておっさんの家に行くシーンがなんかとても印象に残ってます。

ジャンル的にはSFラブコメなんだけど、全部の要素がなんかゆるめなんですよね。
SFと言ってもサイエンスフィクション的な作り込みはされてなくて「少し不思議」の方のSFだし。ロマンスとしてもロマンチックすぎないし主役の2人も別に美男美女じゃなく、わりと淡々とした低温の恋愛だし。コメディとしてもがんがん笑わせに来るんじゃなくて時々クスッと笑えるくらいの上品さ(いや、下ネタはあるけど)だし。そういう、全体になんとも言えずゆる〜く弛緩した空気感が心地よく、でも時間というものの大切さを教えてくれる優しさもあり、インパクトは強くないけどじわじわ沁みてくる良作でした。

以下ネタバレ。











































最初の方はナイルズの視点で話が進むことで、サラの当日の状況に考えが行かずに、サラと新郎との浮気の場面で驚かされてしまうあたりとか、ミステリ的で良かった。一方でナイルズにも過去の膨大なループがあってその中で実は......というのも予想はつくけど意外性として演出されていて、そういう背景を全部隠して「サラが巻き込まれた日」から語り始めるプロットが巧いと思います。

元の時間に戻る方法が「とりあえず爆破する」というざっくりさがじわる。無限の時間を利用して物理学をマスターするというパワープレイには笑いました。