偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

高橋源一郎『「ことば」に殺される前に』感想

不勉強ながら小説の著作をまだ読んだことないんだけど、小説家の高橋源一郎さんによる連続Tweetシリーズ『午前0時の小説ラジオ』を軸にした現代社会を生きるための考え方のヒントになる1冊です。

本書は、『歩きながら、考える』『『文藝評論家』小川榮太郎氏の全著作を読んでおれは泣いた』『午前0時の小説ラジオ』の三部構成となっています。
表題は「ことば」に殺される前に。昨今Twitterとかを見ていても溢れている否定の言葉に知性と想像力を持って挑むような語りです。優しく、しかし厳しく、真摯でありながらユーモアもある文章はずっと読んでいたくなって思わずTwitterフォローしました。

第一部の『歩きながら、考える』は、社会問題などについて関りの深い場所を訪れ(=歩い)て考えたもの。
皇居、広島、オウムの元拠点地、新国立競技場などを訪れて、現在にまで影を落とす問題について真摯に考察しています。

第二部『小川榮太郎(略)』は、「新潮45」とかいう雑誌にヘイトと呼ぶにもお粗末な怪文書を載せて話題になった小川氏について。私自身あの怪文書を見てなんだこいつ頭おかしいじゃんと思ってしまったのですが、その頭おかしいと思われていた人物の全著作をわざわざ読んだ上で批評する誠実な姿勢に、あの怪文書だけで頭おかしいと決めつけた自分を自省させられました。尤も、怪文書については本書でもめちゃくちゃディスられてますけど......。

第三部はTwitterで開催された『午前0時の小説ラジオ』。
小説に関わる話を深夜に連続ツイートしていくという企画らしく、リアタイで見てたらまた違った面白さがあるのだろうとは思いつつ、こうして本でまとまった方がツイートを遡るより読みやすいのは確かなのでありがたいです。
小説に関わる話、とは言っても、逆に言えば世の中のことや人生のことは全て小説に関わる話とも言えるわけで、自作のメイキングからはじまりつつ、政治や教育のことから現代詩など小説とは異なる表現の形式について、今の世の中の閉塞感についてなど、幅広い話題がやはり真摯に、しかし時には「俺」という一人称で勢いよく、そしてツイッターらしい軽快さも交えて綴られていきます。

本書を読んで気になったので、今ちょうど著者の『恋する原発』を読み始めたのですが、この小説の内容も本書に書かれていることと地続き(小説のほうが先なんだけど)、本書を読むと小説の方のメッセージも少し読み解きやすくなり(扱っているトピックがかなり重なる)、興味深く読ませていただいておりますのでまたこちらの感想もそのうち。