偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

キラーカブトガニ(2021)

半分ネタのつもりで観に行きましたがごめんなさい、最高でした!

映画『キラーカブトガニ』公式サイト

放射能によって凶暴化したカブトガニが人間を襲う......というあらすじで近頃のZ級エクストリームサメ映画みたいなノリを想像したら、どっちかっつうと一昔前のゾンビコメディみたいなしっかりした作りで懐かしく嬉しくなりました。

なんでカブトガニが人を襲うのか?とかそんなんは3秒くらいの映像でぱぱっと見せて、冒頭から、というか冒頭だけおっぱいもぱぱっと見せて血みどろスプラッタもついでに見せて青春パンクみたいな音楽流しとけば楽しいでしょ!みたいな勢いがもう最高!シーンの切り替わりがパンク+空撮しかバリエーションないのも最高!

しかし話が始まってみると、主人公のフィルは車椅子の天才理工少年で、ガールフレンドのマディと共にメカ義足の開発をしているというしっかりしたキャラ造形。保安官補のフィルの兄貴は学生時代に担任教師だったマディの母親に憧れを抱いていて......と世代を画した2組のカップルの恋模様が軸になり、意外と、思ったよりはしっかりドラマ性もあるのがうんこサメ映画との格の違いを見せています。「サメの時代は終わった」というキャッチコピーの通り、ビシッとサメに引導渡してるぜ!くらいの傑作です。
とにかく彼らのキャラが良い。
ママはセクシーでえっちでカッコいいし、兄貴も弟思いでいい奴だし、ヒロインは既婚者じゃなかったら好きになってたくらいいい子だけど、何より主人公の表情が好きすぎる。片頬だけ上げて笑うオタク笑いの中になんか彼のこれまでの人生の全てが凝縮されている気がして、セリフで語らなくても彼の全てが分かる、めちゃくちゃ名演技でした。そんなこんなでかなり感情移入させられてしまったので中盤のあのロマンチックなシーンは泣きました。というか、もはや青春映画として良すぎて一瞬カブトガニ要素いらねえよと思ってしまいました。

いや、そんなことはねえ!カブトガニがまた最高なんすよ!
キラートマトみたいに「うじゅうじゅうじゅ」とか言って鳴くのが最高に可愛いし、もそもそと這ってたかと思えば甲羅の裏の顔は表情豊かだったりするのも可愛いし、途中からもはやカブトガニじゃねえ超進化を遂げてマジでキラーカブトガニって何だったんだよ!?ってなる確信犯的なテキトーさも最高!
そんなこんなで、序盤はクソサメ映画っぽいノリでありつつ、ゾンビコメディっぽい青春と逃亡劇になりつつ、終盤は理系少年が奮闘する〇〇モノになったりと、80分の短さの中でジャンル横断。気付けば「あれ、こんな映画だっけ?」と思うところまで飛躍するワンダー!エンドロールも含め、まさにその点トッポってすげえよな、最後までチョコたっぷりだもん的なサービス精神が最高!ツッコミを入れさせられるのも込みで、常に面白く観客を飽きさせないように気配りがされてて、その辺りが独りよがりなクソサメ映画とは大違いなんすよね。あのあまりにもアホくさく、しかしハッピーなラストシーンも最高っすよね。

なんつーか、B級映画ってこういうのでいいんだよ!っていう見本みたいな作品でいい意味で、エログロにタバコにディスコにアホなラストと古き良きホラーコメディの決定版みたいなのを今この時代に観られるなんて感動モンで最高でした。

ただ一つだけ、ラドゥというキャラが(めちゃくちゃいいキャラなんだけど)かなり差別的に感じてしまい、そこは古くなくていいから現代の価値観にアプデしといてほしかったかな、というのが唯一残念なところ。それがなければ満点でしたね。