偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

浦賀和宏『彼女のため生まれた』感想




高校時代の同級生・渡部に母を惨殺された銀次郎。
犯行後自殺した渡部の遺書には、かつて銀次郎が同級生の少女に乱暴をして自殺させたという、身に覚えのない出来事が書かれていた。
母の日の真相を暴き、自らの汚名を雪ぐため事件を調べ始める銀次郎だったが......。

『彼女の血が溶けてゆく』に続く桑原銀次郎シリーズ第2弾。
前作の大きなネタバレはしないように配慮されていますが、それでも前作を読んだ上でないと色々分かりづらい部分はあるので順番に読むのがおすすめです。


前作でもまぁまぁしんどい目に遭った銀次郎ですが、今回は冒頭から母親を殺されるという悲劇に見舞われます。
主人公が酷い目に遭うのはいつものこととはいえ、一般受けを狙ったこのシリーズでさえ著者のそういう性癖が出てるのはファンとしては嬉しいですね。銀ちゃんには悪いけど。

今作も前作同様地味な調査パートが大半を占めていながら、銀次郎自身にも深く関わる事件だけに、一人称の内面描写もより濃密になっています。
今回銀次郎がマスコミに書き立てられる側に回ることで、ライターという仕事への葛藤が深く描かれています。
さらに、本作は「親子」を描いた物語であり、銀次郎と両親をはじめ、主要な事件関係者は全員親子セットで登場して親子関係に何らかの悩みや秘密を抱えています。子を持たない銀次郎も、甥っ子との関わりの中で自分に子供がいたら......と考えることも増えてきます。
「生まれてこなければ良かった」という論調の過去作と比べて、本作はもう一歩大人になった視点での人生観が垣間見えて身につまされますね。

ミステリとしてももちろん面白いっす。
序盤から意外な展開や秘密を小出しにし続けて常に何かしらの驚きを与えてくれ、それでいて最後にはさらなるどんでん返しが待ち構えていて、相変わらず一瞬もつまらない時がない傑作に仕上がってます。
そして、地味な調査パートからの解決編の劇的さも前作と同じく。今作ではより切羽詰まった状況ではあり、サスペンス性も増していると思います。

あと真相とは全然関係ないですが一応伏せ字で、(ネタバレ→)銀次郎が毎度セックス出来そうで出来ないところに笑ってしまいました。
あと、シリアスな話をしてるときに急に銀次郎が「そばを下げてパスタを上げるな!」とか(心の中でだけど)言い出してそこも笑った。こういうギャグなのか本気なのか分かりづらいギャグも浦賀和宏の持ち味ですよね。


とそんな感じで、前作よりさらに面白くなって帰ってきたシリーズ第2弾でした。残るあと2作もすぐに読むつもりです。楽しみ!