偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ナイブズ・アウト(2019)


世界的なミステリ作家のハーラン・スロンビーが85歳の誕生日パーティーの夜にナイフで喉を切られて死亡する。
警察は自殺と推定するが、匿名の依頼状によって屋敷を訪れた名探偵ブランは事件の裏に秘密の存在を感じ、ハーランの看護師だったマルタを助手とし捜査を開始する......。


大作家の死、屋敷に集まった怪しげな一族、現れる名探偵......もはや古臭いと言ってしまってもいいくらいの王道で古典的なミステリの匂いをむんむんさせてきてそんだけでウオーッてテンションぶち上がっちまいました。
しかも、アガサ・クリスティ風の雰囲気ではありながら原作はなく、この時代にオリジナル脚本でこんだけ王道のミステリ映画が作られる(しかも超豪華キャストで金かけてて続編も作れるくらいにはヒットしてるらしい!)ということ自体に感動してしまいます。

もちろん内容もめちゃ面白かったです!
前半はまさにオーソドックスなお屋敷ミステリって感じ。事情聴取や足を使った地味な捜査が描かれていきます。しかし衣装もセットも演技も全てがゴテゴテしているのとコミカルな雰囲気によってこの辺の地味パートを飽きさせずに見せるのが上手いっすね。
そこからちょうど真ん中へんで「あれ、解決しちゃうじゃん?」ってくらいまで明かされると、一気にジャンルがサスペンスに変わって静から動にスイッチしてそっからは解決編までノンストップ。
そして解決編も良かった。緻密なロジックよりは人物の言動や証拠品を並べてそれらを想像の糸で結んでいくような推理法ですが、映像だとその方が分かりやすくて良かった。あとダニクレ演じる名探偵ブランが突如ハイテンションになるのもめちゃくちゃ笑いました。それまで名探偵にしては地味な印象だったのが一気に好きになってしまいました。ちょっと残念だったのは濃すぎる面々のうち犯人以外の人たちがそんなに事件に関わりがなくて賑やかしのようになってしまっていることかな。全員に役割があるともっと良かったかも......。

あと、私は嘔吐恐怖症なのでゲロ・デ・アルマス演じる主人公のマルタが嘘をつくと吐くという設定はしんどかったです。くしゃみくらいにしといて欲しい。

以下少しだけネタバレで。

































犯人というか黒幕がランサムだったのは単純に出番が多くて言動がたくさん描かれるため順当すぎる気はしてしまいます。
一番良かったのは、家政婦さんの今際の際の言葉が「見たのよ」→「見たのヒュー」ってとこ。吹き替えで観たためちゃんと音として聞けたので「やられた!」と思いました。
特別凄いどんでん返しとか意外性はないものの、きっちり伏線が回収され、マルタが嘘で言質とるとことか偽のナイフとか、いい意味でベタなことを丁寧にやってて面白かった。
ラストシーンは遺産を家族に返すような感じを出しつつマルタの持つマグカップには「My House」と書かれていて、リドルストーリーみたく「どっちなの?」というのを観客に委ねる形になっててオシャレでした。

あと、これはちょっと穿った見方かもしれませんが、マルタが嘘をついたら吐くという設定自体が嘘で、全て計算の上......という含みも持たせているのかな?と思います。誰かが「嘘をついたら吐く体質なんてあるのか?」みたいなこと言ってたし。まぁサツキとメイ死亡説くらいのノリで。

あと、どーでもいいけど、ナイブズ・アウトというタイトルはレディオヘッドなのに主題歌がストーンズだったのは納得がいかない気がしてしまいます。