偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

下女(1960)

先日京都に旅行に行った際に立ち寄った「誠光社」という本屋さんにキム・ギヨン傑作選のBlu-rayBOXがあって、旅行のテンションもあってついつい買っちゃったので一本ずつ観ていきたいと思います!

キム・ギヨンの作品は全く観たことないのにポンジュノが言ってたな〜くらいのイメージで買っちゃった大冒険。でも本作を見た限り買って正解だった気がしています。



工場で女工たちにピアノを教える音楽家の男と身重の妻、姉弟の子供たちの4人家族。
しかし、ピアノの生徒の女工からの紹介で若い下女を雇ったことから、幸せそうな一家は徐々に崩壊へと向かっていき......。


なーんか、ヘンな映画なんですけど、ヘンな映画好きなのでめちゃくちゃ楽しかったです。

まぁヘンとはいっても話は至ってシンプルで、幸せな家庭だったけど夫が下女と一夜のアヤマチを犯してしまったことをきっかけに家庭が崩壊していくスリラー(コメディ?)です。
序盤から女工にラブレターを貰ったり、それに冷たい対応をしたことで恨まれたりと不穏なムードが漂っていてとても良い。しかし、そんならてっきりフラれた女工かその友達が復讐をする話なのかと思ったら、そこは本筋とはあんま絡まなくて全く別の女が出てくるあたりとか、やっぱり微妙にヘンなんですよね。
この下女との情事のシーンも、直接的な性描写が出来ない時代だったんでしょうが、そのおかげで抽象的な性描写が直接より断然えっちぃことになっててかなり興奮してしまいましたよ。あの足元のエロさですよ。はい。

そして、その一件が起こってしまってからは、家庭内のバランスが徐々にぐらついてきて、崩壊に向けて物語は加速していきます。
チェーホフの銃的に「絶対これ使うんだろうな」って感じのアレを誰がどう使うかのハラハラ、何度も映される2階に上がる階段が暗示するパワーバランスの変化にヒリヒリ、一気に緊張感が増して面白くなっていきますね。
この辺から、それまで存在感の薄かった妻が俄かに存在感を増していくのも良いし、子供たちがいるのに家の中で泥沼不倫劇みたいなのが繰り広げられる地獄さがすごくていたたまれなくなってしまう。そんな地獄が、「若い女の肉体の魅力には抗えない」という途轍もなくシンプルでごもっともなことが発端に生まれてしまうのも恐ろしい......。なにより、下女がめちゃくちゃえっちで可愛いので、こんな娘に誘惑されたら、そりゃGOですよね......と普通に納得してしまいます。むしろ夫はよくあそこまで耐えた。えらいと思う。

奥さんは白い服、下女は黒い服を常に着ているわかりやすい対比において、夫は上が白で下半身が黒なのが意味深(笑)。というのは穿ちすぎかもしれませんが、何度も映されるジャケ写にもある階段の上下の構図で支配・被支配を暗示しているのもカッコええ。
あと、序盤に出てくる「堕落」という言葉と手振りが最後に効いてくるのも上手いし、他にもピアノを弾いたり抱きしめたり、そもそも冒頭からしてあやとりしてるしで「手」の動きも印象的でした。

そして、地獄絵図の後のある意味衝撃のラストに唖然というか、ボー然というか......😅
あれをどう受け取っていいのか私にはよく分かりませんが、あれがあることによってある種の抜け感といいますか、胸糞映画に終わらないヘンなインパクトが出ていて、観終わった後に「ヘンな映画だったな〜」という気持ちになれるのでけっこう好きです。