偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

高橋留美子『人魚の森』感想

実は小学生の頃はクラスで一番『犬夜叉』に詳しい男として友人たちの疑問に答えたり、アニメの先の展開をネタバレしたりしていた私ですが、それ以来特に読んだりしてなかった高橋留美子先生の隠れた代表作的位置付けの本作を彼女に勧められて読んでみたわけでございます。


人魚を探す漁師の青年・湧太と、人魚の里に姫君として囚われた少女・真魚の出会いと冒険を描いた作品。
本書に続いて『人魚の傷』『夜叉の瞳』という3分冊、合計9話の連作らしいです。
とりあえず本作がめちゃくちゃ面白かったんで他のも読んでみたいと思います。

どう面白いかってゆうと、まずは雰囲気作りですよね。一応舞台は現代なんですけど、人魚の里とかに行ったりするので犬夜叉の戦国時代みたいな世界観の秘境みたいなとこが出てきたりしてむんむんしてます。異界の匂いが。

第2に女の子が可愛い(しエロい)。
変に萌えを押し付けてくるような可愛さじゃなくて、控えめながらも、でも的確に男子の急所を突いてくるような描写の数々にキュン死にそうになりました。

そして第3に、お話の作り方が上手すぎるんですよね。
各話でそれぞれ一つの里や家族などのコミュニティがリアルに形成されていて、その中で主人公の湧太とヒロインたちを軸にしつつ群像劇のように色んな人物のドラマがあります。
「不老不死」という妄執に囚われてしまった悪役も含めて、登場人物全員がリアルに人間として描かれているので、誰をも憎みきれず切なかったりやるせなかったりする読後感のあるお話ばかりです。
さらには各話で派手なバトルもあり、ちょっとしたものですがミステリー的な意外性まで用意されていたりさえするから、とにかく内容が濃密。
そして3話まるごと読んでみるとちゃんと最後に救いも感じられて、やるせなくも悪くない後味で読み終えられました。
うん、めっちゃ良いっすね。ただただ面白かったです。


では以下各話の感想を少しだけ。



「人魚は笑わない」

足枷とか血を吸い出すところとか、さらっとフェチい描写が多くてドキドキしますね。
設定説明の回でもありながら、少年漫画らしい主人公の活躍とヒロインの心情の変化に気を取られていると里そのものに隠されたもう一つの物語に驚かされる......という重層的な構成になっているのが上手すぎます。これ1話だけでもう短編漫画の歴史に残るべき名作なのでは。




「闘魚の里」

そこから一旦遡って遠い遠い過去のお話。
ヒロインの鱗の男勝りなところと恋する乙女なところのキャップがめちゃくちゃ可愛いですね。真魚ちゃんはややエロ気もありましたけど鱗ちゃんはただ可愛い。
その分敵キャラの砂姐さんが色っぽさ担当でいてくれるのも嬉しいところ。
ミステリとしては設定を利用したホワイダニットのようになっていて、真相は後出しの感はあるものの面白かったです。



人魚の森

不老不死というテーマにはどうしても妄執が付随しまして、前の2話でも何かに取り憑かれてしまったものたちの悲劇が描かれていましたが、このお話は特にそれを感じます。
森のどこかに人魚が埋まっているという着想もいいし、それを探し求める女とその姉との危うい関係も良い。ミステリっぽい意外性も本書中で一番で、表題作に相応しい傑作だと思います。