黄道十二宮、いわゆる十二星座をモチーフにした12編の短編連作「犯罪ホロスコープ」。本書はその上巻にあたり6編が収録されています。連作とは言ってもモチーフが揃っているだけでどれも1話完結のいつも通りの綸太郎シリーズ短編集です。
- 作者: 法月綸太郎
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2010/07/08
- メディア: 文庫
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連作趣向として凄いのは、各話の冒頭に星座にまつわる神話のエピソードが紹介されていて、各話の内容がそれに対応していること。もちろん神話をモチーフにしつつ神話をなぞるだけでない意外性も仕掛けられています。さらに各話が非常にシンプルな犯人当てミステリなのですが、それぞれにダイイングメッセージ、暗号、都市伝説など違った趣向が凝らされているのも凄いですね。
そういったわけで、統一感がありつつバラエティ豊かで、読んでて楽しく後を引 かない、潔いほどにミステリの醍醐味だけを味わえる一冊になっています。個人的にはさらっとしすぎて他の法月作品よりインパクトが薄い気はしてしまいますが、傑作には違いないと思います。
「ギリシャ羊の秘密」
難しすぎるダイイングメッセージの件は、さすがに死に際にそこまで頭回るのか!?と思ってしまいます。しかし、あまりにもシンプルでそれゆえ完全に見えていなかったトリックが鮮やかで、気持ちよく「やられた!」と叫べました。ミステリの醍醐味ですね。
「六人の女王の問題」
舞台劇の脚本や"イ非句"(俳句をネタにした雑誌コラム)で活躍したサブカル人のアブちゃんが、イ非句コーナーに辞世の句を載せて転落死するというお話で、この辞世の句の意味を読み解く暗号ミステリになっています。
サブカルネタ多目でいつもより作者が楽しんで書いてる感が強く、読んでるこっちも楽しかったです。暗号はキーさえ分かればシンプルなものながら、キーにたどり着くのが文系のアホには難しく、考えたけど全然分かりませんでした。ただ、種明かしされてみると、暗号そのものの出来はもちろん暗号をわざわざ作った真意まで含めて良く出来た暗号ミステリだと言えるでしょう。
「ゼウスの息子たち」
双子座をモチーフに、双子同士の夫婦が登場するお話です。
ミステリとしてはとにかくシンプル。犯人特定の決め手は被害者のタイイングメッセージだけ、綸太郎は手がかりが出揃った時点で推理もせずに犯人を突き止めるというシンプルさ。そのため、ロジックの面白さよりも、たった一つのトリックから全てが明らかになるカタルシスがメインになっていて、好みは分かれそうですが私は好きです。
「ヒュドラ第十の首」
複雑な状況から繰り出される実にシンプルなロジックが気持ち良いです。一方でシンプルなだけでなく捻りも効いています。懸賞付きの犯人当てとして新聞連載された作品らしいですが、そうしたまさに真正面から読者に挑戦したミステリとしては丁度いい難易度だと思います。
「鏡の中のライオン」
プライドの高い人気女優が殺害されるという派手なストーリー展開が目を引くお話です。ミステリとしてはなかなかヘンテコな作りになっていますが(綸太郎のメタすぎる推理は酷い......)、犯人やトリックの意外さではなく事件の構図に潜む(ネタバレ→)皮肉な見立ての数々が主眼になっているのは物珍しくて面白かったです。
「冥府に囚われた娘」
都市伝説が実話だったという発端が面白く、さらにもう一つの対照的な奇抜な事件か起きるという、謎の魅力が物凄い一編です。そして、ちゃんとその謎に見合った解決の面白さも味わえます。後味の悪さも好きです。