はい。
もはや説明不要ですが、デビュー作にしてミステリランキングとかを何冠も獲って映画版も公開を控えているという超絶怒涛の話題作。私も話題に乗るために、文庫化を機に読んでみました。
- 作者: 今村昌弘
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2019/09/11
- メディア: 文庫
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うん、面白かったです!
主人公の大学生・葉村くんは、ミステリ愛好会の先輩・明智さん、謎の美(少)女・剣崎さんと共に、曰くある映画研究会の合宿に飛び入り参加することになる。
しかし、そんな合宿中、一同はとある異常事態に見舞われ、閉鎖空間となった別荘で殺人事件が起こり......。
という、とある設定を抜けば極々オーソドックスなクローズドサークルものの青春ミステリです。
冒頭の、「カレーうどんは、本格推理ではありません」というセリフから始まる、葉村くんと変人先輩たる明智さんとの他愛のない会話と彼らの出会いのエピソードには思わず学生アリス(うちにくるか?)を連想しちゃったりと、創元ファンには堪らない導入が魅力的。
しかし、話はわりかし胸糞悪い感じ。合宿は女子大生を食おうと目論む大学OBたちと、彼らに生贄を捧げて就職の口利きをしてもらおうと目論む映研部長の欲望が渦巻くイベントでしたという感じの悪いお話なんですね。
で、そんな嫌な感じのお話から、とある出来事が起こると物語は一転してクローズドサークルを舞台にしたスリラーに変わってしまうんですね。
このとある出来事については、私は知ってる状態で読んだけど楽しめたので別にネタバレってほどのことでもないように思いますが、世間ではこれもネタバレに含むような流れになっているし、実際本書の宣伝でも映画版の宣伝でも頑なに伏せられているのでそれに倣ってここでも伏せておくことにします。
......ともあれ、そんな特異な設定と謎解きの絡め方という点が本書の大きな見所でありまして。
個人的には、設定が実は作品の根幹にそこまで影響してないような気がしちゃうのがやや物足りなくはありつつ......。
しかし、作中で強調されるフー、ハウ、ホワイという3つの謎にそれぞれアレを違ったやり方で組み込んでいるのは律儀とすら言いたくなりますし、アレ自体のファンでもある私としてはめちゃくちゃ楽しめました。
実はミステリとしてはロジック重視のやや地味な作風なのですが、アレのおかげで地味さを感じさせないのもうまいっすね。
読み始めの時はあえて昔懐かしい人工的な新本格ミステリをやっているような印象だったのが、読み終わってみればいくつかの実在の事件・出来事をモチーフにした社会派的側面も持ち、しかも文体はライトながら人間ドラマとしても読み応えがあり、名探偵と助手の関係性から描く青春小説としての側面もありと、色んな意味でエモさ満点の物語だったなぁという印象に変わってたんですよね。
そして、一冊の本として綺麗に完結しておきながら、続編への目配せを忘れないところも抜かりなく、色んな意味で新人離れして巧さを感じる傑作です。
ミステリ初心者にも勧めやすく、ミステリ慣れした読者もニヤニヤしながら読めますからね。すごい。
で、その設定のアレについて少しだけ......。
(ネタバレ→)
ゾンビ、Love!
そうなんです、ゾンビ映画好きなんで、本作の設定を「ネタバレ」されちゃってむしろ俄然読む気が湧いたわけでありまして......。
本書はミステリ初心者にオススメしやすいと同時に、ゾンビ初心者向けのゾンビ学入門としても最適なんすよね。
ホワイトゾンビから始まって、ロメロによるゾンビ革命から現代へと流れるようなゾンビ映画史の紹介!そして、ゾンビ映画の中でも特に間口の広いあの2作品を観る場面が出てくるのもなるほどと唸らされましたね。
さらにそこからゾンビそのものについての考察に発展し、それが解決編にも繋がるわけですから、見事としか言いようがない。
というわけで、そのアレについても初心者からそこそこのファンまで楽しめると言っていいと思います。巧い!