偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

今村昌弘『でぃすぺる』感想

『屍人荘の殺人』のシリーズでお馴染みの著者の初のシリーズ外作品。



小学6年の2学期が始まり、ユースケは町の七不思議を壁新聞の特集にするため掲示係に立候補する。しかし、学年トップの優等生で元委員長のサツキも掲示係に立候補。
サツキは、1年前に不審死を遂げた従姉妹のマリ姉がPCに七不思議のデータを遺していたことから、七不思議を調べるのに協力的。
そこに、転校生で変わり者のミナも加わり、3人は七不思議の謎を追って町を駆け回るが、やがて町に隠されたモノに肉薄していき......。


という感じのジュブナイル・オカルト・ミステリで、面白かった......てか楽しかったです。

小学校の係の活動......という、部活でも友達でもないなかなかニッチなところに題材を取りつつ、だからこそそれまで接点のなかった3人が、クラスではベタベタしないけど係活動の最中は仲間意識で結ばれていくっていう関係性が描かれていくのが好き。たしかに子供の頃は子供なりに色んな場所に属していて、係の子、発表のグループの子、掃除当番が同じ場所の子、いつもの公園にいつもいる子、みたいな限られた場所や時間だけの友達みたいな子がいっぱいいた気がする!その感じが凄い出ててそこに強烈にノスタルジーを感じてしまいました。
また、町中を主にチャリで走り回るのも、自分も小中の頃に友達と近隣の町のお寺と神社を全部回るという遊びをしていたのでなんか懐かしくてぐっと来ましたね。

んで、内容なんですが、死んだ従姉妹が死の直前に残した七不思議の謎を探るというもの。七不思議そのものではなく従姉妹が残したテキストを読み解くという作中作モノの要素が強く、それぞれの不思議に毎度趣向を変えた何かしらの仕掛けがあるのが面白いです。
ただ、毎度偶然に謎解きのきっかけが降って湧いたり、他にもちょうどよく助けが入ったりとややご都合的な部分が散見されるのがちょっと気になってしまいました(まぁ小学生が偶然の助けもなしに謎解きし続けるのも無理があるので致し方ないですが)。また、作中の約束事みたいなのが地味に多いので、ちょっとだけ、作者の匙加減やん、と思うことがなくもないです。

とはいえ、七不思議の一つ一つの解決は独立した短編のように読めつつも、それらが町全体の根幹を揺るがす大きな謎のピースとなって連関していく長編としてもしっかり造られていて、最後まで現実の側か怪異の側のどちらに着地するか分からないスリルもあって面白かった!
何よりキャラクターたちが魅力的だったのでそれだけで読んでいて楽しく、ラスト1行を噛み締めながら読み終わったことを少し寂しく思いました。