偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

倉知淳『ほうかご探偵隊』感想

講談社ジュブナイルレーベル「ミステリーランド」から刊行された作品の文庫版です。



小学5年生の高時のクラスで起きる"連続不用品消失事件"。
これまでに図工の時間に書かれた絵、ニワトリ、猫の募金箱が消失していた。そして、今朝登校すると、高時のリコーダーの胴体の部分だけが持ち去られていた。
高時は親友の龍之介くんに誘われ、密かに恋する吉野明里と、その親友の成見沢めぐみも加わった4人で事件の謎を調べることにするが......。


ミステリーランド、主に麻耶雄嵩とかが悪ノリ(?)で明らかに子供向けじゃない作品で子供にトラウマを植え付けようとしてる酷いレーベルというイメージでしたが(好き)、本作は実に真っ当なジュブナイルもので、それでいてもちろん大人の読者もめちゃくちゃ楽しめる、ジュブナイルミステリの鑑のような作品でした。さすが倉知先生。麻耶とか歌野とか殊能も見習え。

冒頭で起きる主人公の高時のリコーダー消失事件(なんせ、胴体だけが消えて頭と尻尾は机の上に置き去り!)の不可解さからして強烈に惹きつけられるし、そこから遡って明かされる消失事件の数々もどれも掴みどころがなく、日常の謎ながら下手な殺人事件よりも断然魅力的な謎の提示となっています。

そして捜査パートに入ってからも、主人公たち4人のキャラのバランスが良いのに加えてクラスメイトや先生など脇役キャラがみんな個性的で楽しいです。この辺は巻末の後書にも触れられている泡坂妻夫の影響が窺われて、泡坂ファンとしては最高でした。
友達と楽しく探偵ごっこをするワクワク感から、徐々に不穏になっていくスリルとサスペンスへの緩急も上手い。

そして、結構早めの段階からがっつり解決編に入るんですが、その解決が圧巻。
これまでの描写全てが伏線となるアイデアの詰め込み具合。子供向けだからこそ飽きさせないようにあの手この手を駆使してて、緻密な推理と派手な意外性というミステリの楽しさがどっちも味わえるようになってるのでミステリ入門にぴったり。そしてナメてかかると私みたいな大人の読者もまんまと著者の術中にハマってしまいます(悔しい!)。

ややエグい描写もありつつ、読み終わってみればとにかく楽しい小学生ならではの青春ミステリになっていて、めちゃくちゃ爽快な読後感に浸りました。
最後の最後に本好きの少年だった(であろう。知らんけど)著者の子供たちにも本を読んでほしいという願いが込められていて、同じ元本好き小学生だった本好きのおっさんとして分かりみが深かった。
地味に10年ぶりくらいに読む倉知作品でしたが未読のやつ漁ってみようかなと思うくらい良かった。

以下ネタバレ。














































子供向けとナメてかかったから......という言い訳をするのもダサいけど、まんまと引っかかってダミー推理と同じこと考えて「やっぱり思った通りだぜ!」と悦に入っていたのが恥ずかしい......。
そこから干支や日付までもが伏線となる怒涛の真の解決......からの、さらに脱力ながらほっこりする補足の解決に至るまで、読者を最後まで全力で楽しませようとするサービス精神満点の構成が最高。
そして、メタな自虐ネタっぽいタイトル回収には笑いました。