偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

グリム童話集『ブレーメンの音楽師』

精々楽していこうぜ
死ぬほどのことはこの世に無いぜ
明日は何しようか 暇なら笑い合おうぜ
(ヨルシカ『ブレーメン』より)

今さらながらヨルシカの新作『幻燈』からヨルシカにハマってしまいました。
このアルバムではほぼ全曲が有名な文学作品をモチーフにしていて、新潮文庫から元ネタの文学作品がコラボカバーで刊行されたことでも話題になりました。
んで、その元ネタの本を私どれひとつとして読んだことがなかったので、せっかくだしこの機会にコラボカバーのを買って読んでみることにしました。

というわけで本書はドイツのグリム兄弟が収集・編纂したグリム童話集の一冊。

「水の妖精」「めっけ鳥」「白い蛇」「みそさざい」「みそさざいと熊」「犬と雀」「狐と馬」「ズルタン爺さん」ブレーメンの音楽師」「猫と鼠のいっしょの暮し」「悪魔とその祖母」「百姓と悪魔」「名親としての死神」「死神の使い」 「貧乏人と金持」「星のターラー」「うまい商売」「かしこい人たち」「フリーダーとカーターリースピェン」「幸福のハンス」「かしこいハンス」「かしこいエルゼ」 「かしこいグレーテル」「三人の糸紡ぎ女」「狼と七匹の子やぎ」赤ずきん「いばら姫」「踊ってこわれた靴」「ヨリンデとヨリンゲル」「雪白とばら紅」 「池に住む水の魔女」「つむと、ひと、ぬいばり」「めんどりの死んだ話」「ならずもの」「奥様狐の婚礼」「狐と鵞鳥」「怠け者の天国の話」「金の鍵」の38編が収録されています。

中でも表題作を始め、「赤ずきん」「いばら姫(眠り姫)」などが有名ですね。

全体に優しい話もあるけど復讐譚とか残酷な話も多いし、グリム兄弟の創作というわけではなくあくまで伝わっている童話を編纂したものなのでよく分からない話とかも多くて、正直お話としてしっかり面白いものの方が少ない感じはしました。
でもそれはそれとして虫とか動物とかが人間と近い場所でそれぞれ生きている世界観がいい。なんせ普段童話なんか読むことないのでその雰囲気だけでも楽しかったです。
特に印象的だった話だけ一言。



「めっけ鳥」
「ねえ、めっけ鳥ちゃん、もしあなたがわたしを見捨てさえしなければ、わたしだってあなたを見捨てはしないわ」「いつまでたっても、そんなことありっこないよ」というやり取りの良さだけで満点。

「白い蛇」
心優しい青年への動物たちの恩返し譚で、パターン化された構成が音楽の1番2番とかAメロBメロサビみたいな感じで楽しい。しかし、馬......。

「犬と雀」

兄貴分である犬を殺された雀の復讐譚というヤクザ映画みたいな話で、小さい雀が知恵を使って復讐していく様が痛快。

ブレーメンの音楽師」
ヨルシカの曲を聴いていたおかげで「人生逃げた先で幸せが待ってることもある」みたいなテーマを見出せたのが良かった。
しかしこんだけブレーメン言っといてブレーメン行かへんのかい!というのが衝撃。

「猫と鼠のいっしょの暮し」
パターン化されたやりとりの滑稽さが面白くも、めちゃくちゃ残酷な話でドン引きしました。最後の1行に唖然ですよね。

「名親としての死神」
これはヨルシカじゃなくて米津玄師の「死神」という曲で知った落語の「死神」の元ネタ。
名親の話とその後の医者になってからの話の2部構成みたいになってるのが面白い。死神からしたら愚かなんだろうけど医者の気持ちも分かるので悲しい話。

「幸福のハンス」
わらしべ長者みたいな話なんだけど、そこから幸福とは何かを考えさせられる普通にいい話。

「かしこいハンス」
からの同じハンスなのにこっちは繰り返しギャグがグロすぎるオチに辿り着く異形の物語で落差にびびった。どういう話なんだこれ。

「狼と七匹の子やぎ」赤ずきん
この2話は有名なのでもちろん前から聞いたことはあって前から似てると思ってたけどやっぱ派生系みたいな感じなんすね。お腹切ったら食われた人が丸ごと出てくるという世界観が好き。

「雪白とばら紅」
タイトルになってる2人の美少女よりもとにかく嫌な小人さんインパクトが強すぎてヤバかった。なんだあいつ。でもああいう人いるよね。

「めんどりの死んだ話」
あまりにも身も蓋もなさすぎる結末に震えた。なんだこれ。

「怠け者の天国の話」
大量のホラ話を連打するシュールな詩のようなお話。最後も良い。