偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

梨木香歩『西の魔女が死んだ』感想

言わずと知れた名作ですが、ほんとになんとなーく「そう言えば読んでねえわ」と思って読んでみました。とても良かった......。


中学に入学してすぐにクラスに馴染めず学校に行けなくなったまい。"西の魔女"こと、大好きなおばあちゃんの住む田舎の家で"魔女修行"をして過ごすことになった彼女は、修行を通して「何でも自分で決めること」を学んでいくが......。


なんとなーくのイメージで、いわゆる「泣ける名作!」みたいな印象で読み始めました。
たしかにそういう側面もデカいですが、それより何より主人公のまいの視点で語られる文章の淡々としつつも暖かみのあるユーモアと、子供の頃に絵本を読んでいた頃に戻されるように想像力を刺激する美しい描写とにどっぷり浸れて心地良く懐かしい気持ちになりました。産みたての卵、ハーブティー、ジャム、お洗濯にベッドメイク......田舎の生活の全てに体験したこともないのに強烈なノスタルジーや憧憬を誘われつつも、今の世の中誰もがそんな暮らしをできるわけでもない。でもそのことも肯定しながら、時には逃げることも肯定しながらも、自分で決めて生きていくための心得を教えてくれるとても優しい物語。
しかしただ良いことばっかり描かれてるわけじゃなくて残酷さやつい抱いてしまう醜い感情も描かれていたり、まいの心情描写に焦点を当てつつも両親やおばあちゃんや近所のゲンジさんなど周りの大人の不完全さも(大人になって読むと特に?)見えてくるのも良いんですよね......。まいが時に彼らに苛立ったりする気持ちも分かるけど、いわば等身大の大人な彼らにも共感してしまうところもあり......。
最後のあの演出は心憎いっすね。あんなん泣くやん......。あの人と対面する場面で分かる魔女修行の成果にも泣ける......。

そして、併録の「渡りの一日」は、まいのその後を描いたオマケ的な短編で、本編に比べてかなりコミカルさが押し出されていますが、しかし成長したまいの友達との付き合い方や大人たちへの眼差しに彼女の成長を感じてなんか感慨深くなります。しかし思い込みの激しい兄弟には笑った。
これが併録されていることでしんみりしすぎず爽やかな読後感で読み終われて良かったです。