偽物の映画館

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スピッツ 『醒めない』今更感想

さて、突然ですが、スピッツの全アルバム感想をこれからやっていきます。
といっても私の中では突然ではなく、高校生の時からいつかブログでやりたいと思っていつつずっと出来ていなかったことなのです。恐らくスピッツの新作が出るであろう今年、ついにやっちゃおうかなというわけで。
とりあえず第1回目は現時点での最新作であるこちらのアルバムからいきまっす!

醒めない(初回限定盤)(Blu-ray付)

醒めない(初回限定盤)(Blu-ray付)



てわけで、『醒めない』 は2016年7月27日にリリースされた、スピッツの15枚目のオリジナルアルバムです。
前作から3年ぶりということと、全14曲のうち「雪風」と先行シングルの「みなと(cw ガラクタ)」を除いた11曲が未発表の新曲ということがあって発売前の期待値はバリ高でしたが、そんな期待すらあっさり越えられちゃいましたね。名盤です。

むかし流行った「3の倍数でアホになる」という芸人がいますが、スピッツの場合3の倍数枚目のアルバムは名盤になるというジンクスがあります。私が勝手に作っただけですけど。
でもでも、
3枚目『惑星のかけら』
6枚目『ハチミツ』
9枚目『ハヤブサ
12枚目『さざなみCD』
と見ていくと、なんとなくスピッツの中でも重要作が揃っている感じがしませんか?
......まぁそんな感じがするかどうかはともかく、この15th Album『醒めない』も、近年のスピッツにとっての大重要作なのです!



このアルバムの大きな特徴として、アルバムとしてのテーマ性が強いことが挙げられます。
近作の『とげまる』『小さな生き物』では、ダウンロード全盛の時代を考慮して、アルバムの流れよりも一曲ずつ単体でDLしてもらっても大丈夫!という点が意識されていたようです。
しかし、本作は一転して、今だからこそあえてアルバム通して聴く良さを......という、アルバム形式に呪縛された音楽ファンには嬉しい仕上がりになっています。特に「雪風」について、私は人生で初めて「アルバムマジック」(シングルなどですでに発表されていた曲がアルバムに入ることで違った聴こえ方をする)という言葉を実感しました。

で、肝心のこのアルバムのテーマですが、
①醒めない
②死と再会
の2つだと思います。思いますっても私が考えたんじゃなくて、①はタイトルだし②は草野マサムネが言ってたんですけどね。(。・ ω<)ゞてへぺろ

①30年バンドやってきてまだ音楽に醒めていないというファンへの宣言なのでしょう。ファンの側としても「わかる〜。まだまだスピッツに醒めないわ〜〜」って感じです。と言うと軽く聴こえますが、物心ついた時からファンやってるともうこんなもんですよ。特に感動的に言うまでもなく当たり前にいつまでも醒めないもの、それがスピッツ

②詳しくは各曲の感想で書きますが、別れの歌が多い序盤、終盤の死の歌、それに対する感動のエンディングと、本作は「死(別れ)と再会」をテーマにした一つの物語のようになっています。
インタビューで草野マサムネは「コンセプトアルバムを目指して途中でやめた」みたいなことを言ってましたが、結果的に多彩な曲がありながらも全体になんとなくの流れがある、ちょうどよく通しで聴きたくなるアルバムになってると思います。

あと、テーマとはまた違いますが、全体を通して演奏やアレンジが若返ってますね。
「ヒビスクス」はスピッツ流おしゃれミュージックだったり、「ブチ」のキメまくりのロックサウンドは誰とはつかないけど最近のバンドっぽい。アジカンとかアレキとか?
まぁそんな感じで、音もトータルコンセプト(未遂)も今までになく進化した名盤でありますよ。


以下全曲一言感想〜。




01.醒めない

アルバム表題曲。
最初に「醒めない」というアルバムタイトルだけが発表された時は、「夜を駆ける」とか「新月」みたいな静かで幻想的で夜っぽいイメージを勝手に持ってしまいましたが(醒めない悪夢、というニュアンス)、実際には軽快なリズムで賑やかなイントロから始まる超絶ポップなロックソングでびびりました。
イントロの感じは「チェリー」+「運命の人」というイメージですかね。
ってわけで実際には「醒めない」というタイトルは、ロックから、そしてスピッツであることから"醒めない"という、デビューほぼ30年にして所信表明のような意味でした。
そして、歌詞では

任せろ 醒めないままで君に 切なくて楽しい時をあげたい

と、ファンに向かっていつになく自信満々に言ってのけています。今までファンに対して語りかけるような曲なんかなかったのでめちゃくちゃびびりましたが、彼が任せろというからにはこれはもう任せちゃえばいいのではという説得力もあって泣けましたね。ファンやっててよかった!超ド級のご褒美💕
さらには、

さらに育てるつもり 君と育てるつもり

と、もはや完全にファン参加型になってきたので狂喜!俺も育てるぞマサムネ!!

......ところで、この曲は上に書いた「別れと再会」というテーマからは外れたものですが、「死」「別れ」というテーマ自体これまでスピッツが歌ってきたものなので、一曲目にこの「醒めない」が入ることで「これから醒めないままでいつものスピッツはじめるよ!」というまえがきのような位置付けになってて結局この曲もきちんとアルバムの流れに組み込まれてるんですね。
そして......




02.みなと

2曲目のこれは、タイトルからしてど直球な別れの歌(港といえば、別れですよね?)。
このアルバムを半コンセプトアルバムとしてみた場合、これが本編の始まりとも言える曲です。

船に乗るわけじゃなく だけど僕は港にいる

君ともう一度会うために作った歌さ
今日も歌う 錆びた港で

というのが冒頭とサビ終わりの歌詞。
僕がなぜ君と会えないのかなどの具体的な説明は一切排し、「みなと」という漠然とした舞台を使うことで聴く人によって様々な想像が当てはめられる曲です。まぁスピッツはみんなそんな感じですけど、特にこれは巧い......。
そもそも君の行き先からして、物理的に外国とかに行っちゃったようにも、別れて心理的に遠くに行ったようにも、はたまた天国へ行ったようにも取れる。巷では東日本大震災についての歌だと言われていて、まぁ確かにそれが一つの模範解答のようには思えます。しかし、そこに固定せずに自由な解釈を楽しませてくれる懐の深さが良いですね。

遠くに旅立った君の 証拠も徐々にぼやけ始めて
目を閉じてゼロから百まで やり直す

というところを聴くたびに泣きます。
私自身はそういう悲しい別れを経験したことはないんですけど、ゼロから百までやりなおすという言葉のセンスがエグい。

音的には何と言っても間奏の口笛が良いですね。聴くたびに真似して口笛吹くんですけど、あんなにうまくは吹けないわ。
あと、Mステでこの曲やった時にマサムネが歌の入り間違えたのが可愛かった。




03.子グマ!子グマ!

これもまた別れの歌ですが、「君ともう一度会うために」と言いつつもう会えなさそうな予感をたたえた「みなと」とはまたちょっと変わって、強がって笑顔で「君」を送り出す歌です。
この曲でも、君との関係が曲のタイトル的には親子というのが模範解答に思えつつ、失恋の歌としても違和感なく聞けて、やはりそれぞれの立場で、子供がいれば子供の巣立ちの歌として、学生とかなら失恋の歌として聴けちゃう名曲。
音はおしゃれミュージック。
この曲については単体で記事書いたので詳しくはこちら。

スピッツ「子グマ!子グマ!」を聴いた男




04.コメット

タイトルの「コメット」というのは彗星のことで、金魚の品種名でもあります。
一瞬きらめいて消えてしまう彗星のような"君"との時間の儚さを、黄色い金魚をモチーフに歌った曲で、ダブルミーニングなタイトルが光ります。

美しく、切なさも湛えたピアノのイントロから始まり、バンドサウンド主体の静かなAメロ、抑制されつつ盛り上がる前触れを見せるBメロと来て、再びピアノがフィーチャーされてスピッツの全曲中でも屈指の美しいメロディが炸裂するサビへと、なんかもう、エモエモのエモです。聞いてると思わず心の中で一緒に歌ってしまい、心の中にとどめたつもりが力入りすぎて喉から変な音が出ちゃいます。そんな醜態を晒すほど素晴らしいメロディ。

で、すっげえのがそんなスピッツ史上屈指の美メロ、つまりはJ POP史上屈指の美メロ(ファンの欲目です)にくっついた歌詞がこれまたありえないくらい美しくて、全然メロディに負けてない、完全に美しく調和してるんですね。さっきから興奮して米津玄師ばりに美しい美しい言ってますけど。

黄色い金魚のままでいられたけど
恋するついでに人になった

金魚というワードは前のアルバムの「りありてぃ」を彷彿とさせます。あの曲では水槽に囲まれた閉じた存在として"金魚"という言葉が使われていましたが、この曲はその延長線上というか続編的なというか、水槽の中に閉じこもるのをやめて外へ出ていって恋をしたというストーリー。「ついでに」という捻くれた言い回しも可愛い。
しかし、その恋がどんなものかには触れられないまま、Bメロではもう別れを目前にしたシーンにまで時は進んでしまいます。
その別れは、絵に描いたような、駅のホームで列車の扉を隔てた別れ。

「ありがとう」って言うから 心が砕けて
新しい言葉探してる
見えなくなるまで 手を振り続けて
また会うための生き物に

手を振り続けるところまではベタなお別れの風景ですが、「また会うための生き物に」がいいじゃん。金魚から人間になって、また会うための生き物になるっていう、いわば第三形態ですね。
言ってしまえば、駅のホームでお別れして、また会うためだけにこれから生きていこうと思う、それだけの歌ですが、草野マサムネの天才的な言葉選びのセンスにかかればリアルでありながらどこか幻想的で、切なくも前向きな気持ちにもなれる最高のラブソングに仕上がっちゃいます天才日本一!

「さよなら」ってやだね 終わらなきゃいいのに
優しいものから離れてく

というところも好き。「優しいものから離れてく」というのが、今回だけではなく人生がさよならの連続であることを一言でさらっと言い表してます。ワードセンスの塊......。




05.ナサケモノ

アルバムの発売前、タイトルだけ見てナンジャコリャと思った曲ランキング第3位。もちろん1位は「子グマ!子グマ!」で2位は「モニャモニャ」。やべえ、50歳のおっさんバンドがゆるふわゆめかわいい曲名ばっかやんけ!
とはいえ、「ハネモノ」なんかもあるくらいだからスピッツらしい造語タイトルとしてすんなり受け入れられました。
ゆるキャラみたいな名前の「ナサケモノ」とは、サビの歌詞にある「情けない獣」の略。
イントロではゼンマイを巻くような音やチクタクという音など、おもちゃっぽい音がバンドの演奏の後ろで鳴らされていて、バンドサウンド自体はかっこいいのにどこかコミカル。タイトルのイメージにはぴったりです。
しかし歌詞の内容はまたも失恋ソング方面で。
一番は「恋のはじまり」なんかを思わせる甘酸っぱい歌詞。君の名前を褒めるというスピッツらしい愛情表現は「君みたいないい匂いの人に〜」「君のくしゃみが聞きたいよ」に連なる変態胸キュンシリーズ!(なんだそれ)
今までの妄想的な歌詞と決別するかのような

イメージに篭らずに届けよう

という強い決意のフレーズがあるかと思えば、

これを恋というのなら 情けない獣さ

と弱腰なところも見せる、このへんのふにゃっとした感じがスピッツ
2番では恋の過程が歌われます。アッシーくんメッシーくんのギャグはちょっと年齢がバレるからやめといたほうがいいのでは?と余計な心配もしちゃいますが......。

夢中で生きていられた ありがとう

と言うフレーズの過去形に違和感を感じたところで、サビではこの恋が既に終わっていることが明かされ、タイトルのナサケモノという言葉が今度は切ない響きを持ち始めます。
にしても、「逝けてない屍さ」というのはすごいフレーズですよね。失恋した自分を幽霊に例える歌はあれど、屍というワードを(しかもこの可愛い曲調で)もってくるセンスよ......。
そして、ラスサビでは「エンドロールには早すぎる」の「意外なオチに賭けている」とほとんど同じことが歌われますが、曲の雰囲気のせいなのかなんなのか、「エンドロール」が諦めつつの強がりに聞こえるのに対し、この曲はまだ希望があるように感じられます。これはほんとに感じなので根拠とかはないけど、失恋ソングなのにじめじめせず風通しの良い爽やかな曲になってます。だからこそ切ないというのももちろんありますが......。




06.グリーン

ジャカジャーンジャカジャーンという力強いリフから始まり、疾走感のあるずっちずっちというドラムで引っ張る爽快ロック。
ナサケモノで兆した爽やかな風が、この曲で吹き荒れます。スピッツの曲でもトップクラスの爽やかさ。くどいですが、50歳のおっさんバンドだぞ?こんなにエヴァーグリーンでどうするもっと渋みを出せ!とキレたくなるくらい鮮烈に爽やか。

そして歌詞と音のマッチング具合もスピッツは毎度すごい。
この曲の歌詞は、内向的なオタク少年が"君"に出会ってふっきれる、みたいな感じ。その君というのが、ステキな女の子でもあり、ロックンロールでもある。ダブルミーニング
いきなり2番から引用しますが、

コピペで作られた 流行りの愛の歌
お約束の上でだけ 楽しめる遊戯
唾吐いて みんなが大好きなもの 好きになれなかった
可哀想かい?

という、J POP界の大御所がそんなこと言って角が立たないかいと思うくらいストレートな表現。これがそのまま、クラスのカーストの下の方から、スピッツを聴いて「俺はお前らより音楽のセンスがあるんだ」と唾吐いてた中学時代の記憶と重なって泣けてきます。
私にとってあの時代は間違いなく黒歴史。まぁ私の人生自体黒歴史とも言えますけどそれは言わないお約束。
そんな黒歴史を、

でも悩みの時代を経て 久しぶりの自由だ

という一言で救ってくれるんです。この爽快感ったら。
ここまで別れの曲が続きましたが、ここで新たな風が吹き込んだわけです。




07.SJ

タイトルはメンバー曰く「坂上二郎の略」だそうですが、本当の意味は明かされていません。Spitz Japanとか色々考えましたが、わからん。あ、スピッツジャパンはもちろん冗談ですよ、やだなぁ。とりあえず色々と想像の膨らむ良いタイトルだと思います。ただ覚えづらい。よく間違えてSPとかJAとか言っちゃうのは私だけじゃないはず。

まず音楽的なところからいくと、構成が変わってますね。スピッツの曲ってABサビABサビC大サビというのが多いですが、この曲は言うなればサビAサビCAサビみたいな。曲の中でサビの割合が高く、常に盛り上がってる印象。そして音もスピッツにしては重厚感のあるロッカバラードなので、3:18という短さに反して壮大な印象のある曲です。

歌詞は私は完全にスピッツというバンドのことだと思ってました。

夢のかけらは もう拾わない これからは 僕が作り出すから

というのがこう、頑張るぞ宣言みたいな。
ただ、よく読んでみると、「醒めない」で歌われたスピッツというバンドの無敵感に比べてこの曲の歌詞はかなり陰がある感じがします。
他の人の解釈を調べてみたら、これは駆け落ちの歌だというものがあって、なるほどそういう解釈のが腑に落ちるかなと思いました。




08.ハチの針

これカッケェっすよね。
全体にロック感の強いこのアルバムでも一番ロック感の強い曲。ギターロック。
で、Cメロではちょっとラップ調というか「どんどどん」「Na・De・Na・Deボーイ」みたいになる。若い!(笑)

歌詞はまた分かるような分からないような。
スピッツというバンド名は「小さいけどよく吠える」というバンドの性質を表していますが、ハチというのも小さいけど針を持ってる虫でありまして、SJは違うとしてもこの曲こそは絶対スピッツというバンドについて歌っているんだと思います。
そうだとするとまぁざっくり言えば音楽業界の思惑とかは知らん!リスナーの"君"にだけ歌を届けたいんだ!という所信表明、「醒めない」Repriseみたいな内容なのかなぁと。
ただ、スピッツが魔女とか針とかハニーとかを歌詞に出してくるときは十中八九エロい意味なので、もしかしたらそっちの意味とダブルミーニング的なことなのかも?

あと、「亡霊〜」のとこの歌い方がめっちゃ好きなんだけど分かる人います?




09.モニャモニャ


50歳のおっさん「モニャモニャが一番の友達〜♪」
ヤバいですよね。
モニャモニャはジャケ写に写っているバケモノのこと(失礼)。ぬいぐるみのグッズ化とか期待してましたが、実際したのが5000円とかそんくらいのでかいやつだったんで買うのは諦めました。でもそんなん発売するくらい親しみやすくてそばにいてほしい存在がモニャモニャくんなのですね。

音もすっごいほんわかとしてて、ペダルスチールギター(って楽器らしい。よく知らないけど、歌詞カードにそう書いてあります)のちゃんちゃんいう音が眠気を誘います......で、私は最近は音楽聴くのだいたい車の中だから、この歌は眠くなるのでよく飛ばしてました(ごめんなさい)。

あと間奏のギターの音がなんかビートルズでこういう音色聴いたことあるような気がするんですけどうろ覚えすぎてなんの曲かも、そもそもほんとに似てるのかも分かんない......。

歌詞は真の意味で癒し系。
主人公の"僕"にはどうも何か悲しいことがあったようで、モニャモニャというイマジナリー・フレンドを作って自分の殻に閉じこもっています。しかし、モニャモニャと遊ぶことで少しだけ癒されて、

この部屋ごと 気ままに逃げたい
夢の外へ すぐまた中へ

なんて、まだパッと外に出る勇気はないけど、出て行きたいという気持ちが兆したような、そんな歌。
なんかのインタビューでモニャモニャはロックの暗喩だと取れるようなことを言っていた気もします。そう考えるとあいみょんの「君はロックを聴かない」のサビの「恋を乗り越え」てるまさにその最中みたいにも思えます。うん、これはあいみょんのエピソード0ですね(てきとう)。




10.ガラク

「みなと」のカップリング曲ですが、スピッツカップリングらしいヘンテコな曲です。
縦ノリなロックサウンドの後ろでガラクタというタイトルを表すかのように、おもちゃの楽器みたいな音がわちゃわちゃと鳴っていて、カッコよくも可愛くいかがわしくもある曲。

歌詞は文章ごとの繋がりが全くなくて、意味さえあるのかどうか分からないのですが、実際は結構単純に解釈してもいい気もします。

ゲスな指先 甘辛い ガラクタ ラブストーリー

はい、こんなこと言ったら川谷絵音ファン失格かも知れませんが、ゲスといえば不倫。これはもう、「たらちねの」といえば母、みたいなもんなので間違いないはずです!
この歌が不倫の歌とすると、

しばらく会わないうちに 素敵になってジェラシー

というところから、元カノに再会したら結婚してたけどそっからズルズルと......みたいなイメージが浮かびます。
まぁ、そうやって一応の筋道が立ったとしても、結局のところ全体に散りばめられた不思議ワードの大半はよく分からないままなのですが、その辺はもう語感を楽しむということで、変な言葉の羅列おもしろーいっていって聴きます。
でも、「夢うつつで聞く 風鈴気持ちいいな」というのは私は絶対エロい話だと思いますがいかがでしょう?

あと、2サビ終わりの「あ〜あ〜あ〜あぁ〜♪」ってとこが好き......というか、こういうのなんか昔の別の曲でもありませんでしたっけ?思い出せん......なかったっけ......。




11.ヒビスクス

「ガラクタ」のガラクタ感溢れるサウンドから一転して、オシャレ洋楽風の壮大なアコースティックピアノの音からはじまります。そのままAメロBメロと、演奏はピアノと静かなギターの音だけ。アルバムが出る前にCMでサビの部分を聴いているので「こんなんだっけ?」と思ってたら、あれですよ。
まさかスピッツの曲でサカナクションの「夜の踊り子」と同じ驚かされ方するとは!
あとまさかスピッツがこんなEDMみたいな曲作るとは!ちょっとスピッツにしてはかっこよすぎて笑っちゃいますよね(失礼)。

歌詞の内容は白い花が咲く美しい風景ながらも不穏さもあってなんとなく雰囲気で今まで聴いていたのですが、調べてみると特攻の話だという考察が多くて目からウロコでした。
一旦そう思っちゃうとそうとしか聴こえないのですが、そう考えると

戻らない僕はもう戻らない
時巡って違うモンスターになれるなら

という歌詞のスピッツらしからぬストレートな反戦のメッセージが胸を打ちます。




12.ブチ

これはゴースカで初めて聴きましたねぇ。懐かしい。
曲調自体はわりと癒し系だけど、演奏はロック。
そもそも、イントロいきなり「ジャッ、ジャッ、ジャッジャッ、ジャッ」というキメから始まるのがすごいなんかこう、若返った......?という感じ。あんまり演奏については分からないのであれですが、アジカンとかアレキとかの曲っぽさすらあります。
この曲(と最後の「こんにちは」)はスピッツのセルフプロデュースで、クージーボコーダー、オルガン、シンセで参加していたりと、まさにライブから生まれた曲なのです。
また言葉の選び方も、Aメロで微妙に韻を踏んでるようになっていて語感が気持ち良かったりと、あらゆる意味でライブ映えする曲になってます。
歌詞の内容はモテない男に初めて彼女が出来た歌......というイメージですがどうでしょう。

心は言葉と逆に動くライダー

しょってきた劣等感その使い方間違えんな

というところから、ひねくれてて自信がない、つまりはモテない野郎の姿が見えてきます。しかし、

ジグザグ転ばずに かけ抜けて 消してしまった呪い

君と出会ったことで精神的童貞性という呪いを消してしまった、ということだろうと思います。

優しくない俺にも 芽生えてる 優しさ風の想い

というのもすごい分かる。はぁ。がんばろ......。




13.雪風

ドラマの主題歌として書き下ろされ、アルバム発売より1年前に配信限定シングルとしてリリースされていた曲なのですが......このアルバムのここに入ることでアルバムマジックを起こしてとんてもない名曲に化けているのに驚きました。
なんなら、シングルとして出た時には「まぁいい曲やな〜」くらいでそこまでハマらなかったのが、今ではスピッツの好きな曲ベスト10には入るほど。

この曲は実はスピッツ初の雪ソングらしいです(たしかに冬っぽい曲はあっても雪の歌はなかった気がする)。しかし音にも歌詞にも、雪の物悲しいイメージと、寒さから逆に連想される「暖をとる」というような暖かいイメージが両立されていて、しっかり雪ソングしてます。

歌詞の話に入る前にアルバムのここまでの流れをざっとおさらいします。まずはアルバム全体の所信表明のような「醒めない」。そこからお別れソングゾーンが「ナサケモノ」まで続き、そのあとは再びバンドの醒めなさを象徴するような曲が続き、その上でこの「雪風」で再び別れの歌に戻るわけです。

で、別れは別れでもこの曲は死別の歌(だと思う)。
というのも、この曲の歌詞には「僕」という言葉が出てこなくて、終始主人公が「君」に語りかけるような形になっているんです。これが、主人公が既に死んでいて、死別した恋人の君が落ち込んでいるのを見て励ましているような、そういう歌に聞こえるのです。
そう考えたらもう、細かく語るまでもなく全ての歌詞が泣けますよね。
そして、全てを包み込むような

まだ歌っていけるかい?

という最後はもう何回聴いてもぞわぞわします。
そして......




14.こんにちは

最後なのに「こんにちは」というセンスがいかにもスピッツw
この曲が「雪風」の後、アルバムの最後に入ることによって、アルバムマジックがかけられ大団円となります。
大団円とは言っても、この曲自体は2分20秒とスピッツの曲の中でもかなり短いもの。セルフプロデュースで4人の音だけで演奏されたテンポのいいロックチューン。イメージはブルーハーツに憧れてた頃みたいな、原点回帰的なシンプルな曲です。こういう軽妙な曲でさらっと大団円しちゃうのがスピッツらしいですね。

で、さらっととは言っても、歌詞は今まで聴いてきた別れの歌たちを全て包み込んで新たな「こんにちは」という、通しで聞けば感慨深くて泣いちゃうようなもの。ずるいわ。

また会えるとは思いもしなかった
元気かは分からんけど生きてたね

今までは輪廻だのなんだの歌っていたスピッツが「生きてたね」という形で再会の歌を書いてくれるだけで泣けるでしょ。
会いたいけど会えない人、昔は当たり前に一緒にいたのに別れてから会わなくなった人......そういう人たちが友達少ない私にも何人かはいます。小学校の頃の友達の青木くんとか、初恋のあの子とかね......。
あと「子グマ!子グマ!」の感想でも散々と見苦しいことを書きましたが、その件についても、今ではもうこんにちはという気分ではあるわけで......。そういうこんにちはのことを想ってちょっと切なくも優しい気持ちになれる歌なんですこれ。
結局トータルコンセプトアルバム(未遂)とは言っても、そのコンセプトはただただシンプルな「こんにちは」なのがスピッツなんですよね。

こんな日のために僕は歩いてる
おもろくて脆い星の背中を

というのが、このアルバムの最後の言葉ですが、聴き終わってからもスピッツの音楽とともに歩いて行こうと思わせてくれる素晴らしいフレーズ。最近のスピッツのアルバムの最後の曲はわりと明るい前向きなものが多い気がしますが、これはその極地ですよね。
人生を「おもろくて脆い星の背中」と表現するのもらしさ満点で、こういう崩れた言葉だけど可愛さだけがあって全然下品にならないところはほんと私も見習いたいです......ツイートとかで......F××kとかA×× ××leとか汚い言葉ばっか使っちゃうから......。




はい、というわけで長くなりましたがスピッツ『醒めない』の感想でした。
書いてみて思ったのは、長い割に内容のない感想だなぁということ(突然の自虐)。
こんなことになるならもっと短くまとめればよかった。というわけで、スピッツアルバム感想シリーズ、次回からはもっと短くします。歌詞の引用も控えます。じゃなきゃあと18枚も書けないもんね......がんばります。

あと、これを書いてる間にスピッツの新曲が朝ドラ主題歌に決まってうほ〜〜っ!と思いました(語彙)。
これでアルバムが出るであろうことも心証的には確定的!楽しみに待ちたいと思います。