偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ジェヨン『書籍修繕という仕事』感想

アメリカの大学で書籍修繕を学び、韓国に帰国して「ジェヨン書籍修繕」というお店を開いた書籍修繕家の著者が、今まで受けた依頼について書くエッセイ。


まずはとにかく「書籍修繕」という仕事が知らない世界すぎて、「へぇ〜本ってそうやって直すんだぁ」みたいなところからして読んでて面白かったです。

著者の元に持ち込まれる本は、幼い頃に読み倒して落書きやお菓子の汚れまみれの絵本だったり、親や祖父母の日記だったり結婚アルバムだったり、旅先の本屋でふらっと買った思い出の小説だったりと、種類は様々ですがどれも依頼人やその大切な人の想いのこもった本ばかりで、そうした本にまつわるエピソードだけでもほっこりします。
また、例えば思い出のこもった落書きはあえて消さずに修繕したり、元の形に忠実に修復することもあれば新たにデザインし直したりと、それぞれの本に込められた依頼人たちの想いによって修繕の方向性も変えて、思い出ごと修繕していくのが素敵。巻頭に実際のビフォーアフターの写真も載っているので「これがこうなるんだ」という驚きもあって楽しいです。

本やこの仕事への誠実さに溢れた優しい筆致でありつつ、酷い状態の本を見ると興奮しちゃうフェチだったりとユーモラスな面も見せてくれる文章がとても心地よくて、ずっと読んでいたくなってしまう本でした。しれっと「友達にもらったハリーポッターは映画で見たから読んでない」とか言っちゃうところが好き。