偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

コントラクト・キラー(1990)


15年間勤めた職場を外国人だからとクビになったアンリ。自殺を試みるも失敗し、殺し屋に自分を殺して欲しいと依頼する。しかし花売りの女性マーガレットに一目惚れして生きたいと思うようになり、殺し屋から逃げることになる......。



当然のように良かった。
アキ・カウリスマキ作品を観るのはこれで4作目ですが、すでにみんなほとんど同じような話じゃん!と思っている。けどどれもめちゃくちゃ良いんだよねぇ。

本作は自殺し損ねた主人公が殺し屋を雇って自分を殺させる......という設定が物悲しくも滑稽なコメディであり、不遇な男が女と出会って変わるメロドラマでもあり、両者のバランスがちょうど半々くらいに感じました。

殺し屋の斡旋をしてる男2人組が「世界は美しいのになんで死にたいん?」とか言い出したり、殺し屋に向けて「隣のパブに行ってきます」と置き手紙するような間の抜けた低温の笑いが心地よい。人が殺されてるのに野次馬がみんな棒立ちで興味なさそうにじっと見つめてるところとかもじわじわ笑える。
ダメだけどかっこつける男とそれを分かってて「はいはい」みたいな感じで付き合うしっかりした女の対比も微笑ましい。
寒色の薄暗い映像だった序盤もそれはそれで綺麗なんですが、女と出会ってから卓上に花が飾られたりと世界に彩が増えていくのが美しかった。

そして、主人公たちの軸とは別に殺し屋側のことも少し描かれていて、それがまた味わい深いんですよね......。人生なんてくだらない、でも人生は美しい。この監督の映画はどれもそんな控えめな人間讃歌のような物語だからこんなに観てて心地いいのかもしれないですね。
ハンバーガー屋の店主さんが特にセリフとかもないのにめちゃくちゃ良かったなぁ。ハンバーガーあんま美味しくなさそうだったけど......。