偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

浦賀和宏『殺人都市川崎』

浦賀和宏の没後発表された遺作に当たる作品ですが、良くも悪くも浦賀和宏じゃなかったら許されないようなふざけた作品で、こんなんが遺作になるあたり捻くれものの浦賀先生らしいな、と。


治安が悪く地獄のような町・川崎に暮らす中学生の赤星。元カノの愛は武蔵小杉へと脱出し、妥協して愛の友達だった七海と付き合うが、ある日伝説の殺人鬼奈良邦彦に目の前で七海を殺されてしまう。そしてひとり助かった赤星を奈良邦彦は付け狙うようになり......。


自虐ネタの名手(?)である著者が、自身ではなく出身地である川崎にターゲットを変えてディスりまくるのがとにかく楽しい。
作中の川崎では大学に行ける人間はまずいなくて、外の人間とは結婚できないから内部だけでクズの血が濃くなっていく......みたいな描かれようで笑います。
地元民には多分もっと面白いと思うんだけど、広い川崎市の中でも特に川崎駅周辺がダメで武蔵小杉は実質東京......みたいなローカルすぎる小ネタが満載で、分からないなりにめちゃくちゃ言ってんなと笑いました。

しかし内容はそんなヤバい街で繰り広げられる殺戮を描いたスプラッタホラーみたいな感じでもあり、被害者遺族が軸になるあたりはMの女シリーズっぽさもあり、大変なことになってるわりに変な恋愛要素が入ってくるところとかも浦賀作品らしくてファンとしては感慨深い......。

そして、ミステリとしてはまぁそんなに凝ったことはしていないのでなんとなくどういう結末なのかは分かってしまうものの、とはいえそれがあんな風になるとは誰も予想できないんじゃないかというめちゃくちゃな結末で、普通に本を壁に投げつけたくなったけど、まぁ遺作だしあんま乱暴に扱うと祟られても嫌だなと思ってそっと閉じました。
て感じで、浦賀和宏じゃなきゃまず許されないし、浦賀和宏でも遺作じゃなかったら投げてたレベルのバカ小説なんだけど、解説によるとシリーズ化の構想があったようで驚き......というかこんなもんシリーズ化するくらいなら安藤直樹完結させておいてくれよ......と思っちまいます。R.I.P。