偽物の映画館

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リーガルリリー『Where?』全曲感想

リーガルリリーの約1年ぶりとなるミニアルバム。

最近どんどん良くなっていくリーガルリリーですが今作もめちゃくちゃ良かったです。
5曲入りのミニアルバムですが、どの曲が好きとかもないくらい全曲好きだし、はっきりしたコンセプトはないけど一つの作品としてのまとまりも感じるし、ミニアルバムという分量ならではの勢いもあり、最高です!
以下1曲ずつの感想。




1.若者たち

ぎゃんぎゃんに歪んでちょっと不協和音っぽいギターサウンドのイントロからしてもうかっけえ。初期のレディヘみたいな感じというか。
歌詞に工場って出てくるんだけど、ピピーピーという信号音のようなものが入ってて、単調なリズムのドラムやベースと金属的なギターの音もまさに工場っぽい雰囲気。2曲目以降が怒涛のキラーチューン4連発なだけに、1曲目のこの曲がキャッチーすぎず、ずっしりと重いことでバランスが取られていると思います。
行ったきりの構成もアルバムに入って行く感じを体現していて1曲目らしくて好き。
あとサビ(?)的なとこのコーラスが綺麗で、上手く言い表せないんだけどなんつーか「等身大の荘厳さ」みたいな感じで素敵です。

歌詞の前半は情景描写のようなんだけど目の前にあるというよりは記憶の中で抽象化された光景のようでもあり、工場などのモノトーンな感じと鮮烈なオレンジの光になぜか懐かしさがあってとても良い。

いま、若さで傷ついてもいいからさ。
いま、若さで泣きやんでもいいからさ。

25歳という、若者でもあり大人でもあるような年齢だからこその、半分は同世代として、半分は大人として、若者たちへエールを送るようなフレーズが素晴らしい。
このミニアルバム自体も悩める若者たちを主人公にした曲たちが詰まっているので、かれらのためのガイドのようでもある1曲目。

メトロノームはいらなかったんだ。
みんなひとりぼっちのメロディが交差するだけだった。

他人や規範に無理に合わせないままで交差すればいいという優しいメッセージ。ひとりぼっちという言葉が肯定的にも響きます。
歌い方もこの曲はほわんと包み込みような優しい感じで良いです。というか今作は曲ごとに結構歌い方を変えてて良いです。




2.ハイキ

リーガルリリー初のドラマ主題歌となった曲で、それだけに気合入ってるというか、かなりポップでありつつリーガルらしいヘンテコさや鋭さもたっぷり入った新たな代表曲と呼ぶに相応しい名曲だと思います。

いきなり銅鑼の音から入るのがちょっとしたことだけど今までになくて驚かされます。
その雰囲気に合わせたチャイナっぽいテイストとリバーブで強烈なノスタルジーを感じさせるイントロのギターのフレーズは、なんか相対性理論っぽさがあって好きに決まってる。
ベースの最初のベロッベロッっていう入りもカッコ可愛い感じで良いです。

主題歌になったドラマというのが女性主人公の恋愛ものらしく、この曲の歌詞も珍しく女性目線っぽくてラブソングっぽいものになっています。
自信がなくて卑屈で、近い距離にいながら踏み込めない恋を描いているんだけど、

廃棄処分寸前だった君が好きなやつを
廃棄処分寸前だった私が拾った

というフレーズがインパクト強いです。
自信のなさや卑屈な感じが現れているのと同時に、ギリギリの恋の焦燥感も感じさせます。
てか歌詞に廃棄処分なんて出てくるの初めて聞いた気がします。

痛い、痛い、触りたい、指先でつかんだお月さま
痛い、痛い、変われない、性格もリズムも体温も
Tonight、Tonight、触れないや
Tonight、隣の君は笑顔で、おなかがすいたの

冒頭の歌詞の「理屈」「退屈」「卑屈」とかもそうですが、繰り返したり韻を踏んだりすることで切実さとか焦燥感とかゆらゆら揺れ動く感じがリズム的に表現されてるのがすごいです。
恋というのは「痛い」という感覚も分かるし、「触れないや」が痛いという言葉以上に痛みを表していて、どこか諦観も感じさせるのも良い......。
「おなかがすいたの」のところも、「おなかがすいた」まで一文字ずつはっきりと発音する歌い方で強い渇望を感じさせながら、語尾の「の〜」だけふわっと消えるような曖昧な発音になってて諦めというか、ある種今の関係性でも心地いいからそこに安住していたいような気持ちも感じさせて、恋の甘さと苦さが両方詰まってる素晴らしいサビ終わりですね。

たかはしさんの歌詞はこれまでどちはかというと私的な雰囲気が強くてそこに惹かれてたんですけど、こういうタイアップ曲では技巧的でキャッチーな歌詞も書けるんだと知って新鮮だったし惚れ直しました。




3.ライナー

相対性理論感の次のこの曲はめちゃくちゃアジカン感。理論もアジカンも中高生の時から大好きな自分の根底にあるバンドなのでそのエッセンスが感じられる曲が入ってて本当に最高だし、前作では私の人格の根幹を成すスピッツをカバーしてくれてたし、ほんと、たかはしほのか氏とは良い飲み友達になれると思う。

まぁそんなことはさておき、イントロのギターのフレーズや音からして「アジカン?」と思ったし、「出発のライナー」のとこのメロディがとてもアジカンっぽい気がします。ここだけは本当にゴッチの声で再生できますもん。あとポエトリーリーディングは「解放区」っぽいし......はこじつけかな。
でもライナーというワードや「何かしたいな」という歌詞もアジカンっぽいし、「あと10秒で」はART-SCHOOLだし、青春のバンドが色々詰まってて青春だわ。

まぁそれもさておき、歌詞には雨が出てくるけど音やメロディは晴れ渡るような爽快さがあって、でもそれだけじゃない焦燥感や倦怠感を感じさせる部分もあって、なんか良いんすよね〜(語彙が尽きた)。

歌詞はタイトルからも連想される通り旅立ちを思わせるもの。

まだ1人で座りたくない気持ちだけれど
出発のライナー あと10秒で。

という、不安もあり現状維持したい気持ちもありながら否応なく出発しなきゃいけないその間際の気持ちから、サビでは

1人がけの席に座って 同じ虹を見ていた
ちょっと泣ける話って思えたんだ ライナー。

と、1人で旅立ちながら1人じゃない感覚が歌われていて、うっ、優しい......!ってなる......。というか、この繋がりたい感じもアジカン......。
私は最近現状維持で環境が変わることもないんですが、環境が変わったりするときに聴きたい曲っすね。あと、「恐るべき魔人の言い訳!」が可愛い。




4.管制塔の退屈

続けざまにこれも疾走感のある曲。
この曲に関しては歌い方が一曲の中でも色々あって、たかはしさんの声が好きなファンとしてはもう最高。ご褒美。なんの?
歌い出しの「コックピット」の「コッ」がやけに言い方強いけど、全体には囁く感じの半分吐息みたいな声が良すぎてぞわぞわしちゃうし、でもサビは力強く切実な感じで、リーディングは普段に比べてちょっとラップみたいなリズムだし低い声も聴かせてくれるし、何より2番の「憂鬱を忘れるの」のとこが可愛すぎる!!!誇張すると「ゆううちゅをわしゅれゆの」くらいの舌ったらずさで、可愛すぎる!!!
あと、ラスサビのらららの部分はちょっと珍しくライブで観客もシンガロン出来そうな強さがあって、ライブで聴くの楽しみ。当たるか?当たってくれ......。

歌詞は前曲とも共通して今いる場所から飛び立つことについて。
ハイキがバイク、ライナーが電車でこの曲は飛行機と、どんどん移動手段が速くなっていくのが面白いです。

コックピットの掃除も人間関係も

という歌い出しのフレーズの、コックピットという単語と掃除や人間関係という生活感とのギャップがすごい。

初めての景色はこんなに退屈を忘れるの
帰りたくないうちにこのまま消え去りたい

帰りたくないうちにこのまま消え去りたいって気持ちはなんかすげえ分かる気がします。個人的には休みの日に1人でプチ旅行してる時とかにすごいこんな感じ。
管制塔というワードからも1人を連想させるし、孤独とか言う人もなくてとか出てくるので、案外遠からずな気もしますが......。
ともあれ、帰る場所があってこそなんだけどなんか帰りたくない感じがとても良い。




5.キラーチューン

最近よくカバーをやってるのでこれも東京事変のカバーかと思ったら新曲でした。
本作では唯一歌始まりの曲で、その歌い出しが「殺し屋が死ぬ〜」なので、初聴のインパクトが凄かったです。キラーって殺し屋のキラーか〜!
ギターロックって感じの出だしからBメロで一旦ゆっくりになってから爆発的にキャッチーなサビに突っ込むのはまさにキラーチューン!サビのドラムがもうめちゃくちゃカッコよくて踊っちゃうよね。1サビ終わりからのベースラインもカッコいい。
あと、ラスサビの「殺し屋が死ぬ〜」の絞り出すような歌い方が何回聴いてもぐっときてしまう。

歌詞は本作で最もストレートなメッセージが込められていつつ、本作で最も難解にも思える不思議なもの。

殺し屋が死ぬ 引き取る地球
だれも葬式に来なかったけれど

インパクトの強さとは裏腹に、なんか掴めそうで掴めない感覚が魅力的。
人に優しくとか命の尊さとか言いながら殺し屋の葬式には誰も来ないというわたしたちの偽善を突きつけてくるようでもあるし、全然そういう意味じゃなさそうでもある掴みどころのなさ。

一方で、

ぼくもそうだよ。きみもそうだよ。
「争いのない世界が欲しいよ」そう願っている。

絵空事にまぎれて 淡い夢の中いたいんだ
絵空事にあこがれて あたま軽くなる

というあたりはかなりストレート。
そして、

無惨なことが起こる前に、政治家たちが世界を変えるよ
そんなことを四畳半で思うだけでパンを食べてる

ここが凄い。
世界を変えられない無力な政治家たちへの皮肉のようでありつつ、返す刀でそんな皮肉を呟くだけで政治家よりも断然無力な自分へのさらに痛烈な皮肉で切りつける殺人的なライン。
ここまでの曲ではどこかsomewhereへの気持ちが歌われていたのに対し、最後のこの曲では乗り物を捨てて......いや地球に乗り換えて今いるここがどこwhere?なのかを問いかけるような歌詞で、その結末が

殺し屋が死ぬ 引き取る地球
そんな旋律が、鳴り止まないよ。

という投げっぱなしなのも強烈な余韻を残します。

前作『恋と戦争』もコンセプチュアルなミニアルバムでしたが、本作では前作のようなわかりやすい共通テーマを排しながら、より1枚のミニアルバムとしてのまとまりのある作品になってると思います。