偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

國分功一郎『暇と退屈の倫理学』感想

どこで見たのか忘れましたが、Twitterのどっかで見かけて面白そうだったので衝動買いしました。
小説じゃない本の感想なんか書くのほとんどないので難しいですが書いてみます。


タイトルの通り、人類が抱える「暇と退屈」の正体と対処法を探っていく哲学書です。

凄かったのはやっぱり読み物としてべらぼうに面白いところ。
というのも、本書は哲学入門書のような内容であり、また読み終わってみれば啓蒙書の性質もあるので、哲学に特に興味ない私みたいなのが読んでも面白くなきゃいけないわけで、そこをちゃんとクリアしつつ、詳しくないから分かんないけどちゃんと専門的な話もしてるからすごいです。難しいことを分かりやすく、しかも面白く書けるのは凄いこと。

なんせ、前書きは「俺」という一人称でラフに書かれていたりもして、入りやすいように工夫されてます。
中身も工夫されていて、膨大な量の脚注を付しながら、「一息に読んでほしいから脚注は読むな」という指示がされるわけです。
知識のある人は脚注も読みながらより深く考えられる一方、私みたいなアッパラパーでも脚注を飛ばしていけば小説を読むみたいに娯楽作品としてスルスル読めてしまう構造になってるんですね。

話の展開も凄いんですよね。パスカルとかが出てきて哲学の考え方の入り口みたいなのを紹介してくれたと思えば、そこから人類史や経済学や生物学や映画『ファイトクラブ』の批評まで入ってきて、でもそれが全部「暇と退屈」という大テーマに絡んでいく様は、よく出来た連作短編集を読むような面白さ。
知らなかったことを知る面白さ、そこから考えを敷衍していく面白さ、これが知的興奮というものか、と。
そして結論の話の流れは、読者を真相に巻き込んでいくメタミステリのような読み心地。
帯に若林さんも書いてるけど、哲学の本読んで感動するとは思いませんでしたね。

という感じで、娯楽読み物としてまず抜群に面白く、しかし読み終わった後、どこかしら人生観を変えられてしまい、思わず他の人にも読ませずにはいられなくなる、そんな貞子みたいな本でした。
もちろん死の呪(のろ)いではなく、生きるための呪(まじな)いです。みんな読んでね。