偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

辻村深月『噛みあわない会話とある過去について』感想


4編の短めの短編を収録した短編集。

各話に内容の繋がりはありませんが、表題通りどの話も噛み合わない会話とある過去について描いたもの。
この意味深な表題そのものが魅力的なんだけどちゃんと内容がその通りなのも凄い。

どの話も、現在の何気ない日常の中にふと過去に他人に対してしてしまった仕打ちが蘇ってくる......というお話。超自然的なことはほとんど起こらないし、それどころか日常生活にもなんら影響はないような出来事が描かれるんだけど、しかしそれでもめちゃくちゃ怖くて「もう読みたくねぇ〜」と思いながら一気読みしてしまいました。
ほとんどの話の主人公が人間関係におけるなんらかの加害者であることも読み心地をよりヒリヒリさせています。自分に都合のいいように改変したり美化してきた「過去」を突きつけられる様に、自分もそんなつもりはなく人を傷つけてきたんだよな......と、封じ込めている過去が溢れて襲いかかってきそうな怖さに囚われます。
あの時なんであんなことをしちゃったんだろう......でもそんなに悪いことしてなくない?それにそんな昔のことを今さら言われても困るよ......でも......みたいな気持ちにさせられて非常に居心地の悪い読書体験でした。

冒頭の「ナベちゃんのヨメ」は、それでもまだ優しさのあるお話で、物語の構図はなんの反転もしないままに見方だけを反転させられるのが凄い。

2話目の「パッとしない子」はかなりヒリヒリ感が強いお話で、この状況に陥ったらどうすりゃええんやろ......無理だ......とめちゃくちゃ怖くなってしまいました。

繊細すぎてついていけない、と思う

という主人公の独白に嫌悪感と共感を同時に抱いてしまうし、周りから好かれていても誰かからはめちゃくちゃ憎まれているかもしれないという事実が恐ろしい。

「ママ・はは」は色々と異色作で、構図も起こる出来事も他のお話とは一線を画しているんだけど、じわじわ来る怖さは同じ。
親を憎んでいない子供はいないと思ってるけど、そんでもこの話の母はなかなか酷くて、悪気がないだけに消えて欲しいと思うこっちが悪いのか?みたいに思わされるのもタチが悪いわ〜......などと感情移入しながら読んでいると信じがたい(しかし仄めかされていたので納得の)展開になっていくのが面白い。結局なんだったのかよく分からないままに不気味さだけが残る余韻も良い。

最後の「早穂とゆかり」は本書でも1番ストレートに心を抉ってくるお話です。小さい教室での地位と社会的な立場とのギャップにも戦慄させられます。
これ、主人公の早穂の語りで読むと主人公に共感しちゃうけど逆ならゆかりに共感させられちゃいそうなのがまた怖い。末尾で描かれる目まぐるしい負の感情の流れがめちゃ分かる。
しかし、かなり2話目と似た話だったので、もう一捻り欲しい気はしました。