偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

真夜中の虹(1988)


職を失った鉱夫のカスリネン。金も恋人もなく唯一の家族だった父は自殺し、父が残した車で南を目指す。道中、シングルマザーのイルメリと出会い、なんとなく彼女と暮らすようになるが......。



フィンランドアキ・カウリスマキ監督による短めの長編。
この監督のこと全く知らなかったんですが、本作が良かったので他のも観ていきたいと思います。
面白いかというと、別にそんなに面白いわけじゃないけど、なんか好き、っていう。

淡々とした映画なんだけどロックっぽい曲を中心に音楽が結構印象的に使われていて、映像も変な言い方ですがなんか昔のロックバンドのアルバムのジャケ写みたいな雰囲気があって、音楽ファンとしてはそれだけでなんか観てて心地よかったです。調べてみたらこの監督に「レニングラードカウボーイズ」シリーズというバンドが出てくる映画もあるみたいなのでそれは絶対観ます。近いうちに......。

ストーリーもあんまり起伏はないんだけどなんかエモくて、ちょっぴりユーモラス。
主人公が日雇いの仕事を黙々とこなす序盤では、何もないから別につらくもないみたいな態度が見てるこっちとしてはなかなか切ない。
起伏がないとは言いましたが、主人公が逮捕されて刑務所に入って脱獄して逃走して......みたいな、派手になりそうな展開ではあるんです。ただ、それが全然派手じゃなくて、かったるいくらいなのが凄え。こんなにハラハラしない脱獄シーンは初めて観たし、あの刑務所なら私でも散歩気分で脱獄できそう。
あ、囚人服が黒に赤のストライプだったのがめちゃカッコよかった。フィンランドの刑務所がそうなのか監督の趣味なのかは分からんけど。あとケーキ勝手に食ってるシーン笑った。ムショ仲間の犬みたいなおじさん、めちゃくちゃ良い味出してるんだよなぁ。
あと、子供を変に可愛くせずに空気みたいにそこにいるものとして描いてるのも好きかな。

全体に閉塞感漂うどん詰まった感じの映画ですが、ラストは(何も解決してないのに)どこか開放感があって、生きてるだけで良いという気持ちにさせられる素敵な終わり方。邦題の「真夜中の虹」がよく分からんニュアンスで付けたんかと思ったてたら、それをまんまラストで体現しててめちゃ良い邦題だな、と思った。