偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ラーメンズ第12回公演『ATOM』

観てます観てます。


収録内容
上下関係/新噺/アトム/路上のギリジン/採集/アトムより


前のでも思ったけど、これなんか特に、ジャケがオシャレですよね。なんか海外のバンドのライブビデオみたいな雰囲気で「あれ、レディへのDVDなんか買ったっけ?あ、ラーメンズか」みたいな事件が起きがちになってる今日この頃です。

で、本作も各ネタは基本的に独立していてトータルコンセプトというほどのこともないんだけど、「アトム」と「アトムより」の微妙な接続のおかげでなんとなく一つの作品としてまとまっている感じがしちゃうのがいいっすね。緩くだけどアルバムとして作られてる感じが好きです。
シュールなのもあれば、SFやミステリといったジャンルものもあって幅広く楽しめるのも良いです。


冒頭の「上下関係」「新噺」はシュール系。
前者のなんか分かんないけどこの世界ではない別の世界線のこの国......みたいな世界観はSFっぽくて「ATOM」というタイトルの本作の幕開けにぴったり。
後者は落語のお約束を弄んだメタ落語で、その眩暈感を齎す入れ子構造にはミステリにおける四大奇書の一角『匣の中の失落』などを連想させます。いや、適当だけど。

表題作の「アトム」はシチュエーション設定の勝利とでも言いましょうか。
あの状況の2人が会話してたらなんでも面白くなるやろ、と言いたくなるような状況の妙。
もちろん、ひとつひとつの小ボケもベタで面白いです。
オチもバカバカしくて味わい深いですね。

ギリジンシリーズ既に好きなので「路上のギリジンも良かったっす。
J POPディスるくだりとか最高。2人の間だけでなんかふざけ合ってるのが可愛いですね。

「採集」は、これはもうドンピシャに好みです。
冒頭の状況設定がまるっきり分からないまま動きだけで笑わせてくるところからして楽しいです。
やがて明らかになる、上京した男が母校の夜の体育館で故郷に残った親友と再開する......という青春ドラマな設定がそもそも好き。
そこから当然のように恋バナになるのもめちゃくちゃ好きなんですが、それ以降まさかのミステリに変化していくあたりがほんっとに最高なんですよね。さっきまで笑いのタネだったものがいつの間にか伏線に変わって鮮やかに回収されていく様は圧巻の一言。
小林賢太郎のロングロング一人芝居で意識の流れを見事に切り取ってるのも凄い。
あらゆる意味で私好みでしかない傑作でした。これだけでもいいからみんなに見てほしい。

掉尾を飾る「アトムより」は、「アトム」と微妙な接点があり、この話があることで本作全体にまとまりが出来てくる感じがします。別に連鎖式短編集とかではないんだけど。
片桐さんのウザすぎるノリと、「大女優」には笑いました。
オチは星新一とかを彷彿とさせる、「ザ」という感じのもの。最後の話で王道をキメてくれるので、演劇一本見終わったなぁという満足感もあって素晴らしいです。